ウーパールーパーが陸化しそうで不安なあなたへ|前兆の見分け方と、させない飼い方・陸化した後の暮らし
ウーパールーパーのエラが前より小さく見えたり、尾びれが薄くなった気がしたりすると、もしかして陸化が始まったのではと心配になりますよね。ネットで調べてみても、陸化の前兆や陸化の原因、陸化の確率について書かれていることがばらばらで、どれを信じればいいのか迷ってしまうかもしれません。
この記事では、メーカーの飼育情報と、アホロートル(ウーパールーパーの英名)を研究している施設の資料や論文をもとに、陸化がどんな仕組みで起きるのか、どんな順番で見た目が変わっていくのかを整理しました。研究で出てくる日数の多くは、ホルモンを与えた実験の条件で出たものです。その前提もあわせてお伝えしますね。
後半では、毎日の水温や水換えで取り組める陸化させない方法と、もし始まってしまったときの陸化した後の飼い方、よく話題になる陸化後の寿命の考え方までまとめています。わざと陸化させる方法を探している方にも、試す前に知っておいてほしい研究の結果を紹介しました。
不安なときほど、まずは仕組みを知ることが落ち着くための近道かなと思います。気になるところから読み進めてみてください。この記事でわかることは、次の4つです。
- 陸化とは何か、甲状腺ホルモンが関わる仕組み
- 陸化の前兆と、見た目が変わっていく順番
- 陸化させないための水温・水換え・餌の目安
- 陸化が始まったときと、陸化した後の世話のしかた
ウーパールーパーの陸化とは?原因と起こる仕組み
まずは、陸化がどういう現象なのかを押さえておきましょう。この章では、ウーパールーパーが幼い姿のまま大人になる理由から、陸化のスイッチになる甲状腺ホルモン、引き金になると言われる条件、前兆が出る順番、そして「陸化したら戻るのか」までを順に見ていきます。陸化を必要以上に怖がらず、でも油断もしないための土台になる部分です。
陸化は幼い姿の体が大人の姿へ変わること
ウーパールーパーは、メキシコの湖に棲む両生類で、カエルやイモリと同じ仲間です。研究の世界ではアホロートル(axolotl)と呼ばれていて、ケンタッキー大学の研究サイトでは、メキシコのソチミルコ湖の環境が、幼い姿のまま暮らす生き方を選び取ったのだろうと説明されています。現在は絶滅から守るために輸出が禁止されているため、日本で販売されているウーパールーパーは国内で繁殖した個体だと、キョーリンの飼育情報に書かれています。
ウーパールーパーのいちばんの特徴は、ネオテニーと呼ばれる性質です。ネオテニーは日本語で幼形成熟といい、つまり子どもの特徴を残したまま大人になる現象のこと。頭の横に左右3つずつ外に出ているふさふさのエラは、まさにその「子どもの特徴」です。キョーリンの飼育情報によると、ウーパールーパーはエラ呼吸と肺呼吸の両方ができます。
両生類は、子どものときはエラで呼吸し、大人になると変態して肺や皮膚で呼吸するのが一般的です。ところがウーパールーパーは、生まれてから繁殖するまでの一生を水の中で過ごします。ケンタッキー大学の解説でも、アホロートルの一生は、生まれてから交配するまで水中で送られるとされています。大人になっても水の中で暮らし、エラも持ったまま。そこが、ほかの多くの両生類と大きく違う点です。
では、なぜ大人の姿に変わる能力が残っているのでしょうか。ウーパールーパーの祖先は、成長すると変態するトラフサンショウウオの仲間だったと考えられています。ケンタッキー大学の解説によると、幼い姿のまま暮らす方向への遺伝的な変化はごく最近起きたもので、そのためアホロートルは今も自然に変態する能力を持ち続けているそうです。近縁のトラフサンショウウオは成長とともに変態し、ふさふさのエラと尾びれを失うと、2022年の総説でも紹介されています。
飼っている人のあいだで「陸化」と呼ばれているのは、この変態のことです。研究では metamorphosis(メタモルフォーシス=変態)という言葉が使われていて、論文では変態した個体と、幼い姿のままの個体をはっきり呼び分けています。研究者はアホロートルの変態を、条件しだいで起こる変態(facultative metamorphosis)とも表現しています。
ふだんは水の中で暮らしていても、条件しだいでは大人の姿に変わる力を体の内側に持っている。そう言いかえるとイメージしやすいかもしれません。「陸化」という言葉からは、陸に上がる行動のことのように聞こえますが、実際にはエラや尾びれ、皮膚といった体のつくりそのものが変わる現象だ、という点を最初に押さえておいてくださいね。
陸化の原因は甲状腺ホルモンのスイッチ

陸化のスイッチになるのは、甲状腺ホルモンです。両生類では、このホルモンが変態を引き起こす役目を持っています。その代表がチロキシン(T4)。つまり、体に「大人の姿へ切りかえて」と合図を送る物質だと思ってもらえれば大丈夫です。
ケンタッキー大学のアホロートル系統保存施設(AGSC)の飼育ガイドでは、アホロートルの幼形成熟はごく最近進化したもので、甲状腺ホルモンを飼育水に加えると、祖先型の「変態する発生」を起こせると説明されています。別の研究者も、飼育下で繁殖した集団の個体はふだん水生の姿で暮らしているものの、甲状腺ホルモンにさらされると変態する能力を保っている、と書いています。
では、なぜふだんは変態しないのでしょうか。ケンタッキー大学の解説では、幼い姿のまま成熟する性質は、変態を起こすホルモンの放出を調節する脳のしくみと関係している、とされています。さらに2022年の総説では、チロキシンの分泌を促すホルモン(甲状腺刺激ホルモン)の働きが足りないことで、ネオテニーが成り立っている、と説明されています。スイッチそのものは体に残っているのに、それを押す合図が出にくい状態、と考えるとわかりやすいですね。
同じ総説では、ヨウ素やチロキシンの注射で変態を起こせるものの、結果はばらつき、場合によっては再生の力が落ちることもあると書かれています。ホルモンを与えれば、どの個体も同じように進むという単純な話ではないわけです。この「ばらつく」という点は、後で紹介する陸化の確率や、わざと陸化させることの話にもつながってきます。
教育の現場の例も一つ紹介しておきます。静岡大学理学部の講義資料「甲状腺ホルモンと動物の多様性」では、アホロートルをサイロキシン(チロキシンの別の読み方)の溶液で飼育すると、室温25℃で約2週間で変態するという実験が取り上げられていて、0日目と16日目の写真が並べられています。これは研究・教育のために条件をそろえて行う実験で、家庭でまねするものではありません。ホルモンを与えた研究の条件では2週間ほどで姿が変わることがある、つまりそれだけ甲状腺ホルモンの働きは強い、という目安として受け取ってください。
まとめると、陸化の原因は「甲状腺ホルモンのスイッチが入ること」。家庭で気をつけたいのは、そのスイッチを押してしまうきっかけを増やさないことだ、という流れになります。ホルモンそのものを水に入れなければ大丈夫、と言い切れないのは、環境のストレスでも変態しうるという研究があるからです。この点は、次の次の節でくわしく見ていきます。
陸化の確率は?めったに起きないと言われる理由
いちばん気になるのが「どのくらいの確率で陸化するのか」かもしれません。結論から言うと、家庭で飼っているウーパールーパーが陸化する割合の数字は、今回確かめた資料(キョーリンの飼育情報、AGSC の飼育ガイド、論文の抄録、総説)では示されていませんでした。数字で答えられなくてごめんなさい、というのが正直なところです。
そのうえで、「めったに起きない」と言える手がかりはいくつかあります。
- キョーリンの飼育情報には「普通の飼育方法では変態しません」と書かれている
- 2014年の論文の序論では、野生のアホロートルが変態することはまれだと考えられている、とされている
- 飼育下で繁殖した集団の個体も、ふだんは水生の姿で暮らしていると研究者が書いている
一方で、研究者は「変態する能力は残っている」とも書いています。研究者はアホロートルの変態を「条件しだいで起こるもの」と表現していますし、総説ではホルモンで変態させようとしたときでさえ結果がばらつくと書かれています。つまり、ふだんは起きにくいけれど、ゼロとは言い切れない。これが、今の時点で資料から言えるいちばん正直な答えです。
ネットでは「陸化の確率は◯%」「数割が陸化する」といった数字を見かけることがあります。ただ、こうした数字の多くは、どの研究から出たものなのかをたどれませんでした。何匹を、どんな条件で、どのくらいの期間飼った結果なのかがわからない数字は、残念ながら判断の材料にしにくいです。鵜呑みにして不安をふくらませるより、陸化のきっかけになりうる条件を一つずつ減らすほうが、ずっと現実的な対策になります。
また、「めったに起きない」は「何をしても起きない」という意味ではありません。研究では、ホルモンを外から与えた場合だけでなく、環境のストレスでも大人の個体が変態しうると書かれています。確率の数字が無い以上、できるのは目の前の1匹をよく見ておくこと。この後で紹介する前兆の順番を知っておけば、心配なときに「本当に陸化が進んでいるのか」を落ち着いて確かめやすくなりますよ。
水温・水質・餌が引き金になると言われるわけ
研究で示されている引き金は、大きく分けて2つです。2018年の Journal of Anatomy に載った研究の抄録では、性成熟した大人の個体でも、環境のストレスか、外から与えたチロキシンによって、体重を支えて陸で暮らす段階へ変態させられる、と書かれています。ただ、この抄録には「環境のストレス」が具体的に何を指すのか、たとえば水温なのか水位なのかは書かれていません。
よく言われる条件としては、海外の大学の研究者の話を紹介した報道のなかで、水質の悪さ、水温の高さ、水位の低さ、水中のヨウ素の多さが挙げられています。これらが甲状腺ホルモンの分泌を促す、という説明です。とはいえ、どの条件でどのくらいの割合が陸化するのかを示した研究は、今回の調査では確かめられませんでした。「こうすれば陸化する」という決まりではなく、「引き金になりうると言われている条件」として受け取るのがよさそうです。
ヨウ素が話題に出るのには理由があります。チロキシンの正式な名前はテトラヨードサイロニンで、ヨウ素の原子を4つ持っています。つまり、ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料。先ほどの総説でも、ヨウ素の注射で変態を起こせると書かれていました。だからといって「水にヨウ素があれば陸化する」と言える資料はありません。それでも、ヨウ素を含む添加剤をウーパールーパーの水槽にわざわざ入れる理由も見当たらない、というのが私の考えです。
餌についても、気になる記述があります。AGSC では、研究用に使う特定のメーカーのペレットを、使う前に6か月寝かせています。そのペレットには自然な変態を起こしうる成分(おそらく牛の血液に由来する甲状腺ホルモン)が含まれているから、というのが理由です(出典:Ambystoma Genetic Stock Center 飼育ガイド 2024(PDF))。
ただし、これはアメリカの研究施設が使っている特定の飼料についての話です。日本で売られているウーパールーパー用の餌が陸化を起こすという資料は、今回は見当たりませんでした。市販の餌が原因だと決めつける材料は、今回は見つかりませんでした。「餌の成分でも変態が起こりうると考えて、慎重に扱っている研究施設がある」くらいに覚えておけば十分でしょう。
家庭でできることを整理すると、高い水温を避ける、水を汚さない、ヨウ素入りの添加剤やホルモンを入れない、の3つになります。水位については、上陸のための島はいらないとされていますが、水位が低いと陸化すると言い切れる資料はありません。どれも特別な陸化対策というより、ふだんの飼育の基本そのもの。基本を丁寧に続けることが、家庭で現実的にできる対策だと考えてください。
陸化の前兆と見た目が変わっていく順番

陸化は、ある日突然エラが消えるわけではなく、いくつかの変化が順番に進んでいきます。ここで紹介する順番は、2009年の研究(Page ほか)で、チロキシンを飼育水に加えて変態させたときに観察されたものです。家庭で自然に起きる陸化が同じ速さで進むと示したものではないので、あくまで順番の目安として見てください。
ホルモンを与えた研究の条件では、変化はおおむね次の順で進みました。
- 成長がにぶり、体重が減る
- 背中のひだ(背中に沿って続く、ひれのような部分)と尾びれ、とくに下側の尾びれが低く薄くなっていく
- 下側の尾びれが消えるころ、エラが急に縮み始める
- エラと上側の尾びれも消えて変態が完了し、皮膚も陸で暮らす皮膚に変わる
日数も見ておきましょう。ホルモンを与えた研究の条件では、下側の尾びれは約20日で消え、エラは約19日目から縮み始め、28〜32日で変態が完了しました。同じ研究では、最初の段階に入った個体が見られたのは8日目です。エラは縮み始めると速く、その速さは下側の尾びれが縮む速さの10倍近くだったと報告されています。
同じ研究では、背中のひだが消えきるのは18〜32日のあいだでした。皮膚も、同じ研究の条件では28日目までに角質の厚い皮膚になり、変態したカエルの仲間や大人のほ乳類の皮膚に近いつくりになっていました。なお、同じ「変態」でも、先に紹介した講義資料では約2週間、この研究では完了まで28〜32日と、研究によって日数は違います。どの日数も、家庭で自然に起きる陸化の日数ではなく、あくまで研究の条件での目安です。
進む速さには個体差もあります。同じ研究では、同じ親から生まれ、同じ条件で1匹ずつ育てた個体どうしでも、それぞれの段階に達するまでの日数にかなりの幅がありました。さらに別の研究(Page ほか 2008)では、ホルモンの濃度を2段階に分けて比べています。濃いほうは早く変化が始まり、28日目までに変態を終えました。薄いほうは始まりが遅れ、28日目までに変態を終えた個体はいませんでした。ホルモンの量しだいで、進み方がかなり変わるということですね。
報道で紹介された研究者の話では、「最初の明らかな変化は、エラが退化し始めること」とも語られています。研究の順番では体重や尾びれの変化が先に来るので、研究の順番と報道での言い方は一致していません。家庭でどれが先に目に入るかを示した資料は、今回は確かめられませんでした。だからこそ、エラだけでなく、その前に起きているかもしれない変化にも目を向けておきたいところです。
家庭で見るときのポイントを表にまとめました。真ん中の列は、研究の条件で観察された変化の順番です。
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| 見る場所 | 陸化が進むときの変化(研究の条件での順番) | 家庭でのチェックのしかた |
|---|---|---|
| 体重・食べる量 | 成長がにぶり、体重が減る(最初のほうに出る変化) | 体つきや体重を定期的に記録する。食べる量もメモしておくと、体重が減ったときに理由を考える手がかりになる |
| 背中のひだ | 低く薄くなっていき、やがて消える | 横から見て、背中のひだの高さが前より低くなっていないかを見比べる |
| 尾びれ | 下側から低く薄くなり、下側が先に消える。上側は最後に消える | 尾の下側に注目する。先が欠けただけなのか、全体が低く薄くなっているのかを分けて見る |
| エラ | 下側の尾びれが消えるころから急に縮み、最後に消える | 左右3つずつのエラの長さとふさの量を、同じ角度の写真で見比べる |
| 皮膚 | 角質の厚い、陸で暮らす皮膚に変わる | 見た目だけでは判断しにくいので、ほかの4つの変化とあわせて見る |
前兆に気づくコツは、一つの変化だけで決めないことです。エラだけ、尾びれだけを見るのではなく、体重・背中のひだ・尾びれ・エラを、同じ角度から定期的に写真に撮って見比べてみてください。いくつかの変化が順番どおりに重なっていくかどうかが、判断の分かれ目になりますよ。写真が残っていれば、ショップや動物病院に相談するときにも役立ちます。
陸化したら戻る?エラが縮んだだけとの違い
陸化が進んでしまったら、元の姿に戻せるのでしょうか。今回確かめた資料では、完全に変態した個体が元のエラやヒレの姿に戻ったという報告は見つかりませんでした。2014年に変態と再生の関係を調べた研究者も、変態で起きた細胞の変化が元に戻るのかどうかは、これから調べられる課題だとしています。そのため、完全に進んだ陸化は戻らないものとして考えておくのが安全です。
ただ、「エラが縮み始めた段階」と「変態が完了した段階」は分けて考える必要があります。2023年の研究(Lazcano ほか)では、甲状腺ホルモンの仲間のうち作用の弱いもの(3,5-T2)を溶かした水にアホロートルを入れたところ、エラが縮み、変態の始まりの段階に似た姿になりました。ところが処理をやめると、エラの組織は再生したのです。一方、チロキシン(T4)や T3 を同じ量で与えた場合や、3,5-T2 を4倍に濃くした場合は、完全な変態まで進みました。研究者たちは、これを「戻る変化」と「戻らない変化」の違いとして調べています。
この結果からわかるのは、縮み始めた直後と、最後まで進んだ後とでは、体の中で起きていることが違うかもしれない、ということです。ただし、これは特殊なホルモンを使った研究の条件での話。家庭で「エラが縮んだけれど戻った」という場合に、それが陸化の始まりだったと言える資料ではありません。家庭で戻すための確かな方法も、今回確かめた資料では示されていませんでした。
もう一つ大事なのが、エラが縮んで見えるからといって、すぐに陸化と決めつけないことです。研究で観察された陸化では、エラだけでなく、体重の減少、背中のひだや尾びれが低く薄くなる変化が組み合わさって進んでいました。エラだけが小さく見える、ヒレの先が傷んでいるだけ、という状態なら、陸化以外の理由も考えられます。エラが縮んで見えるときは、陸化を疑う前に、水温が上がっていないか、水が汚れていないかを先に確かめてください。尾びれ・背中のひだ・体重もあわせて見て、いくつかの変化が順番に重なっているかどうかを確かめるのが、落ち着いて判断するコツですよ。
「エラが縮み始めた」と「陸化が完了した」は別の段階です。研究では、作用の弱いホルモンで縮み始めたエラが、処理をやめた後に再生した例があります。一方で、完全に変態した個体が元の姿に戻ったという報告は、今回確かめた資料にはありませんでした。エラ一つの変化で結論を出さず、ほかの部分の変化とあわせて見てください。
判断に迷うときは、撮りためた写真を持って、購入したショップや両生類を診られる動物病院に相談するのも一つの方法です。早めに相談しておけば、もし陸化だったとしても、次の準備に落ち着いて移りやすくなりますよ。
ウーパールーパーを陸化させない飼い方と陸化後の世話
ここからは、毎日の飼い方の話です。陸化を防ぎきる方法は資料では示されていませんが、引き金になりうるストレスを減らすことはできます。前半では水温・水換え・餌・添加剤の目安を、後半では陸化が始まったときの動き方と、陸化した後の暮らし、寿命の考え方をまとめました。わざと陸化させることをすすめない理由も、研究の数字とあわせて紹介します。
陸化させないための水温と水換えの目安
陸化をゼロにする方法は、今回確かめた資料では示されていません。総説が書いているように、ホルモンを与えたときでさえ結果はばらつくからです。そこで家庭でできるのは、引き金になりうるストレスを減らすこと。中心になるのは、水温と水の汚れの管理です。
キョーリンの飼育情報では、ウーパールーパーは低い水温には強い一方で高い水温は苦手で、水温が27℃を超えると要注意、30℃を超えると危険とされています。暑い夏は、エアーポンプによるエアレーションや、冷却ファンなどの冷却装置を使った高水温対策がすすめられています。27℃は「超えたら対処する」ラインで、下回れば安心という意味ではありません。研究施設では15〜22℃ほどで一定に保っている例もあります。冷却ファンで足りるのか、水槽用クーラーが必要なのかの境目は、水槽クーラーはいらないのか、冷却ファン代用で夏を越す境界線を整理した記事でくわしくまとめています。ほかの冷やし方も含めて比べたいときは、水槽の水温を下げる方法6つと、何℃下がるかの目安も参考になるかもしれません。
研究施設の水温も、参考に見てみましょう。AGSC は建物の空調と補助の冷却装置を使って15〜17℃ほどに保ち、Monaghan ほかの研究施設では20〜22℃で一定に保っていました。どちらの施設も、1日を12時間の明るさと12時間の暗さで区切っています。家庭の適温を決めた数字ではありませんが、研究施設が「低めで、変動の少ない水温」を大事にしていることは伝わってきますね。
水換えは、キョーリンの目安では2週間に1度、総水量の1/3程度を、液体のカルキ抜きでカルキを抜いた水道水と交換します。これはあくまでメーカーの目安なので、水が汚れたと感じたら間隔を待たずに換えましょう。ろ過フィルターのマットを掃除するときは、バケツにくんだ飼育水か、カルキを抜いた水道水で軽く洗うのがポイント。餌の食べ残しやフンから水が汚れていく流れは、水槽のアンモニアが分解される仕組みと窒素サイクルの記事で解説しています。
餌は、小さいうちは1日1回、成長したら2・3日に1回、お腹がすこし膨らむ程度が目安です。与えすぎると消化不良になり、残った餌は水を悪くするので取り除きましょう。冬は食欲が落ちてくるので、1週間に1回で十分とされています。よくある失敗は、食べ残しをそのままにして水を汚してしまうこと。陸化の予防という意味でも、水を悪くしない習慣は欠かせない土台です。
水槽と隠れ家については、20cmほどに育つことから45cm以上の水槽に、角がない隠れ家を入れ、単独飼育が基本とされています。目の前で動くものを食べてしまう習性があるからです。複数で飼う場合は、隠れ家を複数入れること、同じくらいの大きさの個体どうしにすること、60cm水槽に2・3匹までにすることが基本とされています。
添加剤とレイアウトにも少しだけ触れておきます。ヨウ素を含む水草用・海水用などの添加剤や、ホルモンが入ったものを、ウーパールーパーの水槽にわざわざ入れる理由はありません。入れないほうが無難です。また、キョーリンの飼育情報には「上陸しないので島はいりません」とあります。水位の低さが引き金になるという話は二次情報で、水位が低いと陸化すると言える資料はありませんが、わざわざ浅くしすぎる必要もないかなと思います。
ここまでの内容を、家庭の目安と研究施設の例に分けて表にしました。
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| 項目 | 家庭の目安(キョーリン) | 研究施設での例 | 陸化の予防としての考え方 |
|---|---|---|---|
| 水温(夏) | 27℃を超えると要注意、30℃を超えると危険 | AGSC は15〜17℃、Monaghan ほかの施設は20〜22℃で一定 | 高い水温は引き金としてよく挙げられる条件。27℃に近づく前に対策を始める |
| 水温の保ち方 | エアーポンプによるエアレーション、冷却ファンなどの冷却装置 | AGSC は建物の空調と補助の冷却装置を併用。明るさと暗さは12時間ずつ | 1年を通して、水温を大きく上下させない |
| 水換え | 2週間に1度、総水量の1/3程度をカルキを抜いた水道水と交換 | — | 水の汚れはストレスのもと。間隔を空けすぎない |
| 餌の量 | 小さいときは1日1回、成長したら2・3日に1回。お腹がすこし膨らむ程度。冬は1週間に1回で十分。残った餌は取り除く | AGSC は研究用のペレットを使う前に6か月寝かせる | 食べ残しで水を汚さない。国内の市販の餌が陸化を起こすという資料は見当たらない |
| 水槽と隠れ家 | 45cm以上の水槽、角がない隠れ家、単独飼育が基本 | — | 上陸のための島は不要。水位を浅くしすぎない |
| 添加剤 | —(今回確かめた情報では記載なし) | 変態させる実験では、甲状腺ホルモンを飼育水に加えている | ヨウ素入りの添加剤やホルモンをわざわざ入れない |
表の数値は、あくまで一般的な目安です。製品ごとの使い方や最新の飼育情報は、メーカーによって変わることもあります。正確な情報は公式サイトをご確認ください。
陸化させない飼い方の基本は3つです。1つ目は、27℃を超える前に水温を下げる準備をしておくこと。2つ目は、2週間に1度の水換えと残った餌の取り除きで、水を悪くしないこと。3つ目は、ヨウ素入りの添加剤やホルモンをわざわざ入れないことです。
水温の確認や夏の暑さ対策、ふだんの餌は、次のような道具から選べます。今の水槽で足りているなら、買い足す必要はありません。価格や在庫、対応する水槽の大きさは、購入前に各ショップでご確認ください。
陸化させる方法を試すのをすすめない理由

「陸化させる方法」を調べている方もいると思います。研究の世界では、チロキシンを飼育水に加える方法で変態を誘導しています。たとえば2014年の研究では、ふ化から6か月たった個体の飼育水にチロキシンを加えて変態させました。ただ、この記事では手順や薬の入手方法、濃度の作り方には触れません。研究の結果を見ると、家庭で試すことはすすめられないからです。
すすめない理由を5つにまとめます。
- 完全に進んだ陸化は戻らないものとして考えるべきで、元の姿に戻す確かな方法が示されていない
- 変態した個体は、再生にかかる時間がおよそ2倍になり、再生した足に形の異常が出た
- ホルモンで変態させても、結果がばらつくと総説に書かれている
- 陸化した後は、湿らせた陸の環境や、餌を手で与える世話に切りかえる必要がある
- 変態に使われるホルモン剤は研究用の試薬や医薬品で、家庭で扱うものではない
2つ目の再生について、もう少しくわしく見てみます。Monaghan ほか(2014)の研究では、ホルモンで変態させた個体と変態していない個体の前足を切って、再生のようすを比べました。再生が分化と呼ばれる段階に達するまで、変態していない個体は平均26.2日だったのに対し、変態した個体は平均54.7日。再生にかかる時間はおよそ2倍です。405日後の再生量は、変態していない個体が失った足の平均113.6%、変態した個体は61.7%でした(出典:Monaghan ほか 2014「Experimentally induced metamorphosis in axolotls reduces regenerative rate and fidelity」)。
形の面でも、はっきりした差が出ています。変態していない個体で軽い異常が見られたのは28匹中2匹(7%)でしたが、変態した個体は15匹すべてに、手首の骨や指の欠けなど、中程度から重い形の異常が見られました。研究者はこの結果を、変態によって再生の速さと正確さが落ちる、とまとめています。体の大きさそのものは大人の個体の再生に影響しなかった、とも書かれていて、違いを生んだのは変態だと読み取れます。
この研究のタイトルにもあるとおり、研究者が注目しているのは再生の力です。陸化させると、その力を落としてしまうかもしれない。見た目の変化を見てみたい、という好奇心はわかります。ただ、元に戻せるとは言えないうえに、体の力を削る可能性がある以上、私としては、わざと陸化させるのはおすすめしません。
わざと陸化させるのは避けましょう。ホルモン剤やヨウ素を水槽に入れて陸化を試すと、完全に進んだ場合は戻らないものとして考える必要があります。研究では、変態した個体の再生にかかる時間がおよそ2倍になり、再生した足の形にも異常が出ました。結果がばらつくことも報告されています。
陸化が始まったと気づいたときにすること
もし前兆が重なって、陸化が始まったようだと感じたら、慌てずに次の準備へ移りましょう。参考になるのは研究施設での扱いです。Monaghan ほかの研究では、変態が進んでいるあいだ、個体を1匹ずつ浅い水の容器に移し、毎日進み具合を観察していました。
家庭向けに言いかえると、次のようになります。
- 複数で飼っているなら、1匹ずつに分けて様子を見る
- 水を少しずつ浅めにして、体を水から出せる足場を用意する
- 急に水から出して、乾いた場所に置かない
- 毎日、エラ・尾びれ・背中のひだを同じ角度から写真に残す
- 水温を高くしないよう、これまでどおり管理を続ける
いちばん避けたいのは、溺れさせてしまうことです。変態が進んでエラが小さくなる分、深い水では呼吸が苦しくなる可能性があります(資料に直接の記述はなく、安全のための一般的な考え方です)。研究で浅い水の容器に移しているのも、この時期の扱いとして参考になります。かといって、陸に上がる姿を想像して急に水から出してしまうと、乾かしてしまうおそれがあります。浅い水と、水から出られる足場の両方をそろえておくのが安心です。
研究では毎日観察していたので、家庭でも1日1回は様子を見て、写真を残しておくのがおすすめです。研究の条件ではエラが縮み始めると速く進んだので、変化の速さに気づくためにも記録が役立ちます。食べる量や動き方のメモもあわせて残しておくと、相談するときの材料になりますよ。
陸化が始まったかもと感じたら、ヨウ素入りの添加剤やホルモンが入ったものを使っていないか、水温が上がっていないかも見直してみてください。作用の弱いホルモン(3,5-T2)で縮み始めた段階の研究では、処理をやめるとエラが再生しました。ただし、家庭で戻せると約束できる方法ではありません。期待しすぎず、陸の暮らしへの準備も同時に進めておくと、気持ちが少し楽になるかなと思います。
そして、迷ったときは一人で抱えこまないこと。購入したショップや、両生類を診られる動物病院に、撮りためた写真を見せて相談してみてください。陸化が進んでいるのか、別の理由でエラやヒレが傷んでいるのかは、写真があると伝わりやすくなります。この記事は研究資料をもとにした一般的な情報なので、個体の状態についての最終的な判断は専門家にご相談ください。
陸化後の飼い方と餌・寿命の考え方

陸化が完了したら、暮らし方そのものが水中から陸へ切りかわります。研究施設の例では、変態を終えた個体はまずピートモスの上で飼われ、その後、湿らせたペーパータオルを敷いた容器(タッパーウェア)に移されていました。餌は、ミミズを1匹まるごと、週2回、手で与えていたそうです。
家庭向けに言いかえると、ポイントは3つです。1つ目は、乾かさないこと。カルキを抜いた水で湿らせたキッチンペーパーなどで、床をしっとりした状態に保ちます。2つ目は、陸と浅い水の両方を用意すること。体を水から出して休める場所と、浅い水場があると安心です。3つ目は餌の与え方。水中に沈める人工飼料を食べてもらう形から、ピンセットで口元へ運んで与える形に変わります。研究施設でもミミズを手で与えていたので、餌やりの時間はそれまでより手がかかると考えておくとよいかもしれません。
陸化したからといって乾いた容器に移してしまったり、逆に深い水のままにしてしまったりしがちなので、気をつけたいところです。研究施設が「浅い水」から「湿らせたペーパータオル」へと段階を踏んで移していることを思い出してください。急に環境を変えるのではなく、湿り気を保ちながら少しずつ陸の暮らしへ寄せていくイメージです。
なお、陸化した個体の床材や湿り気の保ち方、餌の量や回数について、メーカーの目安を示したものは今回確かめられませんでした。研究施設の方法も、研究の管理のもとで行われたものです。具体的な飼い方は、購入したショップや両生類を診られる動物病院と相談しながら決めていくのが安心です。
寿命についても触れておきます。ネットでは「陸化すると寿命が5年ほどに縮む」という話がよく繰り返されていますが、陸化した個体と陸化していない個体の寿命を比べた研究は、今回の調査では確かめられませんでした。一方で、研究用に大人の個体を変態させる方法を紹介した論文の抄録では、生存率が高く、陸で暮らす個体を長期間飼育できると書かれています。ただし、これも研究施設の管理のもとでの話です。
陸化していない個体の寿命の年数についても、メーカーや研究施設の資料で年数を示したものは見つかりませんでした。そのため、この記事では寿命の年数を約束しません。寿命を数字で心配するより、乾かさない・溺れさせない・高い水温にしないといった、毎日の環境を整えることに目を向けてもらえたらうれしいです。陸化した個体は再生の力が落ちるという研究もあるので、ケガをさせにくい環境づくりも意識しておくと安心ですね。
ウーパールーパーの陸化についてよくある質問
陸化した個体を元の水槽に戻してもいいですか?
今回確かめた資料では、陸化を終えた個体を深い水槽に戻して飼った例や、戻したことで元の姿になったという報告は見つかりませんでした。研究施設では、変態中は浅い水、変態後は湿らせたペーパータオルの容器で飼っています。溺れるおそれもあるので、深い水槽に戻すのは避け、浅い水と陸の環境で様子を見るほうが安心です。
陸化した個体と陸化していない個体を一緒に飼えますか?
一緒に飼った場合を調べた資料は、今回は確かめられませんでした。ただ、陸化していない個体は一生を水の中で過ごし、陸化した個体は湿らせた陸の環境が中心になるので、必要な環境が大きく違います。もともとキョーリンの飼育情報でも単独飼育が基本とされているため、別々の容器で飼うのがよいと考えます。
陸化しやすい色や品種はありますか?
品種や体の色によって陸化のしやすさに差があることを示した資料は、今回は確かめられませんでした。研究では、同じ親から生まれて同じ条件で育てた個体どうしでも、変態の進み方に個体差がありました。色や品種で判断するより、水温や水の汚れの管理に気を配るほうが現実的です。
子ども(幼体)のほうが陸化しやすいですか?
年齢によって陸化のしやすさを比べた資料は、今回の調査では確かめられませんでした。研究では、性成熟した大人の個体でも、環境のストレスや外から与えたチロキシンで変態しうると書かれていて、大人だから心配ないとは言えません。年齢にかかわらず、高い水温や水の汚れを避ける管理を続けることが大切です。
ウーパールーパーの陸化で覚えておきたいこと
最後に、ウーパールーパーの陸化について押さえておきたい点をまとめます。
- 陸化は、甲状腺ホルモン(チロキシン)の働きで、幼い姿のまま育った体が大人の姿へ変わる現象。研究では変態と呼ばれる
- キョーリンの飼育情報では「普通の飼育方法では変態しません」とされ、陸化の確率の数字は今回確かめた資料には無い。ネットの◯%は鵜呑みにしない
- 研究の条件では、体重の減少、背中のひだと尾びれの縮み、エラの縮み、の順に進む。エラ一つの変化で決めつけず、ほかの部分とあわせて見る
- 完全に進んだ陸化は戻らないものとして考える。できる対策は、27℃を超える前の水温対策、定期的な水換えと残り餌の取り除き、ヨウ素入りの添加剤やホルモンを入れないこと
- 始まったら溺れさせない・乾かさない環境へ切りかえ、ショップや両生類を診られる動物病院に相談する。わざと陸化させるのはすすめない
ウーパールーパーの陸化は、仕組みを知るとむやみに怖がるものではなく、ふだんの飼育の基本を丁寧に続けることが、家庭でできる対策の中心になる、とお伝えできたらうれしいです。毎日の観察と水の管理で、あなたのウーパールーパーとの暮らしを長く楽しんでくださいね。


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