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ワイルドベタ(原種ベタ)とは|代表12種の水質・飼い方と改良ベタとの違い

ⓘ 広告 ▰ ベタ
流木と落ち葉を敷いた薄暗い水槽で泳ぐヒレの短いワイルドベタの写真に、ワイルドベタの基礎知識という題を重ねた表紙のスライド

ワイルドベタは難しい?原種ベタの種類と飼い方を水質から整理

THE AQUA LAB 所長(イラスト)

こんにちは。THE AQUA LAB、運営者の所長です。

ショップの水槽で、ヒレの短い落ち着いた色のベタに“ワイルド”と札が付いているのを見て、気になった方も多いかなと思います。ワイルドベタは原種のベタの呼び名で、種類によって必要な水質や水槽の大きさがかなり違う魚なんですよ。

この記事では、ワイルドベタとは何か、改良ベタとの違い、泡巣を作る種類と口の中で卵を守る種類の違いを先に整理します。そのうえで、代表的な原種ベタ12種の体長・水温・pH・硬度と絶滅危惧の評価を1つの表に並べ、マクロストマやインベリス、マハチャイ、コッキナといった種類が、どの水質のグループに入るのかを見ていきます。

先に答えを言うと、ワイルドベタが難しいかどうかは種類で大きく変わり、差が出るのは主に水づくりと水温です。前半では販売時の表記や値段の考え方、繁殖のタイプにも触れ、後半では水槽の大きさとふた、ろ過の強さ、水質と水温の合わせ方、餌付け、混泳と複数飼育まで、迎える前に知っておきたいことをまとめました。

  • ワイルドベタと改良ベタの違いと、2つの繁殖のタイプ
  • 代表的な原種ベタ12種の飼育条件と絶滅危惧の評価
  • 水質で4つのグループに分ける種類の選び方
  • 水槽・ふた・水質・餌・混泳の具体的な合わせ方
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ワイルドベタとは?種類の見分け方と改良ベタとの違い

ワイルドベタは、品種改良を受けていないベタ属の野生の種類をまとめた呼び名です。ひとくちにワイルドと言っても、東南アジアの水田に近い水で暮らす種類から、黒っぽく強い酸性の泥炭湿地にしかいない種類まで幅が広く、飼い方は種類ごとにまったく変わります。この章の結論は、ワイルドベタは1つの魚の名前ではなく、合う水も大きさも違う種類の集まりだということです。根拠には、タイ国立科学博物館の学術誌の総説と、海外の魚類データベース Seriously Fish の種類別の解説、FishBase に載っている国際自然保護連合(IUCN)の評価を使いました。言葉の意味、改良ベタとの違い、繁殖のタイプ、12種の飼育条件の一覧、入手するときの注意の順に整理しますね。

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ワイルドベタは品種改良されていない野生のベタ

結論から言うと、ワイルドベタは、ベタ属のうち人の手で形や色を作り変えていない野生の種類を指す呼び名です。学術的な用語ではなく、観賞魚店や愛好家のあいだで、ショップで普通に見かけるヒレの長い改良ベタと区別するために使われている言葉、と考えるとわかりやすいかなと思います。

ベタ属の魚は、タイ・ラオス・カンボジア・ベトナムのインドシナ半島から、マレー半島、スマトラ島、ボルネオ島まで、東南アジアの淡水に広く暮らしています。タイ国立科学博物館の学術誌に2017年に載った総説では、ベタ属の有効な野生種は73種あり、そのうち18種が泡巣を作る種類、55種が口の中で卵を守る種類とまとめられています(出典:The Thailand Natural History Museum Journal 11(1), 2017)。数は論文が出た時点のもので、分類の研究が進めば変わる可能性がある点は知っておくとよいですよ。

私たちが「ベタ」と聞いて思い浮かべるヒレの長いベタは、主にこのうちのベタ・スプレンデンス(Betta splendens)から作られた改良品種です。Seriously Fish では、スプレンデンスが近縁のインベリスやスマラグディナ、マハチャイエンシスと交雑されてきたことにも触れています。同じ総説でも、ベタ・スプレンデンスは装飾用の変種が繁殖され、国際的な取引が盛んな種類として紹介されています。つまり、ワイルドベタには、スプレンデンスの野生の姿と、スプレンデンス以外の70種あまりの原種の両方が含まれるわけです。

海外の魚類データベース Seriously Fish のベタ・スプレンデンスの解説では、野生型のスプレンデンスは趣味の世界ではまれにしか見かけず、一方で色やヒレの違う改良系統は数えきれないほどある、と書かれています。ショップで“ワイルド”の札が付いている魚にスプレンデンス以外の原種が多いのも、こうした事情があるからだと考えられます。

ワイルドベタという呼び名には、野外で採集された個体だけでなく、原種を飼育下で殖やした個体も含めて使われることが多いです。販売の札で産地名や採集・繁殖の区別がどう書かれているかは、次の章の後半で詳しく触れますね。まずは“ベタ属の原種全体を指す、幅の広い呼び名”と覚えておけば大丈夫かなと思います。

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改良ベタとワイルドベタの違いは体・水・気性

改良ベタとワイルドベタをヒレと体・合う水・同居・流通の4点で比べた表のスライド
改良ベタとワイルドベタの違い

改良ベタとワイルドベタのいちばん大きな違いは、見た目よりも「合う水」と「気性」にあります。見た目はヒレの長さでだいたい区別できますが、飼い方で差が出るのはむしろ水質と同居のさせ方なんですよ。

まず体つきです。改良ベタはヒレを大きく長く伸ばすように作られていますが、一般的な傾向として、ワイルドベタのヒレは改良ベタほど長く大きくはありません。総説では、タイ・ラオス・カンボジア・ベトナムの泡巣を作る種類は一般に口内保育の種類より色鮮やかで、プリマやスティグモサのような口内保育の種類は茶色っぽい地味な体色だとしたうえで、マクロストマやチャンノイデス、アルビマルギナータのようにかなり色鮮やかな口内保育の種類もいる、と説明されています。

次に水です。Seriously Fish のスプレンデンスの解説では、改良系統はpH6.0〜8.0の範囲で問題なく飼えるとされる一方、野外で採集された個体はpH5.0〜7.0を好む傾向がある、と書き分けています。同じスプレンデンスでも、野生の個体のほうが弱い酸性寄りの水を好むというわけです。さらに、ボルネオ島やスマトラ島の泥炭湿地に暮らす種類になると、pHが3〜4まで下がる水にいることもあり、改良ベタの水づくりとは別物と考えたほうがいいですね。

そして気性です。同じ解説では、改良系統はスプレンデンスのグループを含めた他のどのベタよりも攻撃的に見え、たいていは1つの水槽に1匹しか飼えない、と書かれています。逆に、ワイルドベタには十分な隠れ場所があればオスを2匹以上同じ水槽に入れられる種類や、ペアや群れで飼える種類もいます。“ベタは1匹飼いが当たり前”という改良ベタの常識が、そのまま当てはまらないのもワイルドベタの面白いところかなと思います。

比べる点 改良ベタ(スプレンデンスの改良系統) ワイルドベタ(原種)
ヒレと体 ヒレが大きく長い品種が多い 改良品種ほど長く大きなヒレではない(一般的な傾向)
合う水 pH6.0〜8.0で飼える(Seriously Fish) 種類ごとに違い、pH3.0〜6.5の範囲の軟水を求める種類もある(Seriously Fish)
同居 多くは1水槽に1匹 ペア・群れで飼える種類もある(種類による)
流通 専門店以外でも見かける 扱う店が限られ、種類ごとの在庫は少ない

表の“流通”の行は、一般的な傾向として捉えてください。どちらが上という話ではなく、ワイルドベタは“種類を決めてから、その種類の水に合わせる魚”だと考えると、迷いにくくなりますよ。

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泡巣を作る種類と口で卵を守る種類がいる

ワイルドベタは、卵の守り方で大きく2つのタイプに分かれます。泡で巣を作ってその中で卵を守る「泡巣型」と、オスが口の中に卵を入れて守る口内保育型(マウスブルーダー)です。どちらのタイプかで、暮らす場所や繁殖のさせ方、ペアの扱いが変わるので、種類選びの最初の目印になります。

総説によると、泡巣型のオスは凸レンズのような立体的な泡の巣を作り、その中に受精卵と稚魚を入れて守ります。一方、口内保育型のオスは受精卵と生まれた稚魚を口の中に入れて守り、比較的しっかりした稚魚を外に放すとされています。改良ベタが水面に泡巣を作るのは、スプレンデンスが泡巣型だからなんですね。

暮らす場所にも違いがあります。同じ総説では、泡巣型は浅く、止まっているか、ごくゆっくり流れる水を好み、口内保育型はゆっくり流れる水に多く見られる、と説明されています。泡巣型は産卵や外敵から隠れるために植物に覆われた浅い水を好み、口内保育型も浅くゆっくりした流れに暮らし、タイでは滝から流れ出る小川などで岩や落ち葉を隠れ家にしているそうです。ただし、タイには両方のタイプが一緒にいる場所もあるとされています。

繁殖の流れも少し違います。Seriously Fish の解説では、泡巣型のスプレンデンスやインベリスは、産卵のたびにメスが腹ビレと体のあいだで卵を受け、オスがそれを巣に運び、メスの卵がなくなるまで繰り返すとされています。口内保育型のマクロストマやウニマクラータでは、メスが拾った卵をオスの口に吐き入れ、オスがすべての卵を口に入れるまでこれを繰り返す、と書かれています。

口内保育型のオスは、卵や稚魚を口の中に入れて守ります。ペアで飼っていて片方の口元がふくらんで見えるときは、卵を守っている最中の可能性があります。ただし、体表の白い点やヒレの傷み、呼吸の乱れなど、ほかの異常が一緒に出ているなら病気も疑ってください。種類が口内保育型かどうかを先に知っておくと、口元のふくらみだけを見てあわてて隔離する失敗を防ぎやすくなるかなと思います。

コッキナのような小型の泡巣型は、Seriously Fish によると1回の卵の数が20個未満のことが多く、50個ほどまでの例も珍しくない、とされています。改良ベタのように一度にたくさん殖えるわけではないので、繁殖を考えるならペアを長く安定して飼える環境づくりが先かなと思います。

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代表的なワイルドベタの種類と飼育条件の一覧

スプレンデンスやコッキナ、マクロストマなど8種の体長・水槽の底面・水温・pH・硬度の目安を並べた表のスライド
代表的なワイルドベタの種類と飼育条件の目安

ここが、この記事でいちばん見てほしい表です。原種ベタのうち代表的な12種について、繁殖のタイプ、体長、水槽の底面の目安、水温、pH、硬度を Seriously Fish の種類別の解説から、絶滅危惧の評価を FishBase に載っている国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストの評価から、それぞれ写して並べました。

種類(学名) 繁殖のタイプ 最大体長の目安(SL) 水槽の底面の目安 水温 pH 硬度(dGH) IUCNの評価(評価日)
スプレンデンス(Betta splendens) 泡巣型 70mm 45×30cm 22〜30℃ 6.0〜8.0(野外採集の個体は5.0〜7.0を好む) 1〜15 VU(危急)・2011年2月
インベリス(B. imbellis) 泡巣型 60mm 45×30cm 20〜28℃ 5.0〜7.5 1〜10 LC(低懸念)・2019年1月
スマラグディナ(B. smaragdina) 泡巣型 60mm 45×30cm 22〜28℃ 5.5〜7.5 1〜10 DD(データ不足)・2011年1月
マハチャイエンシス(B. mahachaiensis) 泡巣型 60mm 45×30cm 22〜28℃ 7.0〜8.5 5〜20 未評価
コッキナ(B. coccina) 泡巣型 40mm 45×30cm 22〜30℃ 4.0〜6.0 1〜5 VU(危急)・2018年12月
ブラウノルム(B. brownorum) 泡巣型 30mm 45×30cm 24〜30℃ 3.0〜6.0 1〜5 VU(危急)・2018年12月
ヘンドラ(B. hendra) 泡巣型 45mm 45×30cm 22〜27℃ 4.0〜6.5 1〜5 CR(深刻な危機)・2019年1月
アルビマルギナータ(B. albimarginata) 口内保育型 30mm 45×30cm 23〜28℃ 4.0〜6.5 1〜5 EN(危機)・2018年12月
チャンノイデス(B. channoides) 口内保育型 40mm 45×30cm 23〜30℃ 4.0〜6.5 1〜5 EN(危機)・2019年1月
プグナックス(B. pugnax) 口内保育型 70mm 80×30cm 22〜28℃ 4.0〜7.5 1〜10 LC(低懸念)・2019年1月
マクロストマ(B. macrostoma) 口内保育型 100mm 80×30cm 20〜25℃ 4.0〜6.0 0〜5 VU(危急)・2018年12月
ウニマクラータ(B. unimaculata) 口内保育型 115mm 80×30cm 21〜26℃ 5.0〜7.5 0〜10 DD(データ不足)・2018年12月

表の“最大体長の目安(SL)”は、Seriously Fish が示す最大の標準体長で、口の先から尾ビレの付け根までの長さです。尾ビレを含めた全長はこれより長くなります。水槽の底面の目安は、Seriously Fish が各種類について、これくらいの底面があれば足りるとして示している大きさで、45×30cmは約41リットル、80×30cmは約72リットルにあたります。IUCNの評価は FishBase に載っているレッドリスト(2025-2版)の値で、評価日が古いものも含まれます。カテゴリーの日本語は、CR=深刻な危機、EN=危機、VU=危急、DD=データ不足、LC=低懸念としていて、日本の環境省のレッドリストの区分とは別のものです。マハチャイエンシスの“未評価”は評価がまだ行われていないという意味で、安全だという意味ではありません(出典:FishBase「Betta splendens」)。

この表から読み取れることは3つあります。1つ目は、pHの幅が種類でまったく違うことです。スプレンデンスやインベリス、スマラグディナは中性付近まで含む広い範囲で飼えるとされる一方、コッキナやブラウノルム、ヘンドラ、アルビマルギナータ、チャンノイデスはpH3.0〜6.5の範囲(下限は種類によって3.0〜4.0)、硬度1〜5の軟水が前提になっています。数値は種類ごとのプロフィールの値をそのまま載せているので、改良ベタ向けの当サイトの記事と水温などの幅が違うことがあります。

2つ目は、口内保育型のうち大きめの種類は水槽が一段大きくなることです。マクロストマ、ウニマクラータ、プグナックスは底面80×30cmが目安で、小型水槽で改良ベタを飼う感覚のまま迎えると狭くなります。

3つ目は、水温の上限が低めの種類があることです。マクロストマは20〜25℃、ウニマクラータは21〜26℃、ヘンドラは22〜27℃とされていて、日本の夏の室温では上限を超えやすいです。このあたりは後半の水質と水温の項でもう一度触れますね。

なお、マハチャイエンシスだけはpH7.0〜8.5、硬度5〜20と、ほかの種類と逆向きの数値になっています。Seriously Fish では、野生ではベタ属で唯一、汽水域だけに暮らす種類と説明する一方、飼育については中硬水から硬水の淡水か、弱い汽水で飼えるとしています。表の硬度5〜20も Seriously Fish の値です。一方で、先ほどの2017年の総説では、マハチャイエンシスとインベリスは塩分のわずかにある汽水で見つかることがあるが、どちらも普通の軟水でも暮らせる、と書かれていて、資料によって書き方が違います。迎えるときは、販売店でどんな水で飼っていたか(塩分を入れていたか)を確かめて、まずはその水に合わせるのが安全かなと思います。

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絶滅危惧の種類が多いので入手先と表記を確かめる

絶滅のおそれ、産地と系統の表記の確認、野外に放さないことの3点をまとめたスライド
ワイルドベタを迎える前に知っておきたい注意点

ワイルドベタを買う前に知っておきたいのが、絶滅のおそれがある種類が少なくないことです。先ほどの表でも、12種のうちVU(危急)が4種、EN(危機)が2種、CR(深刻な危機)が1種でした。だからこそ、どこから来た個体なのかを確かめて買うことが大切なんですよ。

2017年の総説では、人の住む地域に近い泡巣型の種類は、工業化や汚染、宅地開発、道路建設などで生息地を急速に失っていると書かれています。さらに、マハチャイエンシスや口内保育型のシンプレックス(B. simplex)は、取引の量の多さも個体群を脅かしていて、どちらも生息地がとても狭いことが状況を悪くしている、と指摘されています。Seriously Fish のマハチャイエンシスの解説でも、生息地のほとんどがバンコクの拡大で極めて強い脅威にさらされているとされています。

マクロストマについては、Seriously Fish に、IUCNでVU(危急)とされ、ブルネイのスルタンが輸出を禁じた、と書かれています。人気の高い種類ですが、どういう経緯の個体なのかを販売店に確かめてから選びたい種類ですね。

もう1つ大事なのが、産地と系統の表記です。Seriously Fish では、インベリスとスマラグディナについて、観賞魚の取引のためにスプレンデンスなどと交雑され、自然にはない色の型が作られている、と書かれています。また、コッキナは純粋な血統を保つために、ジャンビ・リアウ・ジョホールといった産地名を付けて区別されることが多く、ウニマクラータは産地ごとに色や模様が違って交雑するため、産地名で区別し、決して一緒に飼わないように、とされています。

販売の札では、野外で採集された個体と飼育下で殖やした個体を書き分けていることがありますが、書き方はお店によって違います。札に種類名・産地名・採集か繁殖か・オスメスが書かれているか、書かれていなければ店員さんに聞けるかを確かめると、交雑した個体や産地の混ざった個体を避けやすくなります。値段は種類や産地、ペアか単体かで大きく変わるので、目安を知りたい方はベタの種類ごとの価格相場と購入先による値段の違いもあわせて見てみてください。

迎えた直後の状態にも注意が要ります。Seriously Fish のマクロストマの写真の説明には、輸入されたばかりの個体は真菌の感染を起こしやすい、と添えられています。お店の水槽での泳ぎ方やヒレ、体表の確かめ方は、ベタを買うときの健康チェックの見方が改良ベタと共通で使えますよ。

ワイルドベタの飼い方と水槽づくりのコツ

ここからは、ワイルドベタを実際に飼うための準備の話です。まず水質から種類のグループを決め、そのうえで水槽とふた、ろ過、水質と水温、餌付け、混泳と複数飼育の順に整えていきます。前の章の表と見比べながら読むと、どの種類にどこまでの準備が要るのかがつかみやすいかなと思います。この章の結論は、すき間のないふたと弱い水流はどの種類にも共通で、差が出るのは水質と水温と同居のさせ方だということです。特に、pH3.0〜6.5の範囲の軟水を求める小型の種類と、夏に25℃前後を上限とする大型の種類は、迎える前の準備が改良ベタとはかなり違います。グループ分けの表、水槽とろ過、水質と水温、餌付け、混泳と複数飼育の順に、1つずつ見ていきましょう。

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初めてのワイルドベタは水質で4つのグループから選ぶ

初めてワイルドベタを迎えるなら、“見た目が好きな種類”から入る前に、“自分が用意できる水”から種類のグループを選ぶのがおすすめです。前の章の表の数値をもとに、所長なりに飼育条件の近い種類を4つのグループに分けてみました。グループ分けは表の数値から整理したもので、資料にこの区分があるわけではない点はご了承ください。

グループ 主な種類 水の目安(表の値) 水槽の底面の目安 迎える前の準備
A:スプレンデンスに近い泡巣型 スプレンデンス(野生型)・インベリス・スマラグディナ pH5.0〜8.0の範囲・硬度1〜15 45×30cm 改良ベタに近い道具で始めやすい
B:汽水の泡巣型 マハチャイエンシス pH7.0〜8.5・硬度5〜20(Seriously Fish の値。2017年の総説は普通の軟水でも暮らせるとする) 45×30cm 販売店の飼育水(塩分の有無)を確かめる
C:軟水・酸性が前提の小型種 コッキナ・ブラウノルム・ヘンドラ・アルビマルギナータ・チャンノイデス pH3.0〜6.5・硬度1〜5 45×30cm 軟水づくり(RO浄水器など)と酸性の維持
D:水槽が大きめの口内保育型 マクロストマ・ウニマクラータ・プグナックス pH4.0〜7.5・硬度0〜10(種類ごとに幅が違う) 80×30cm 大きめの水槽と、種類によっては夏の冷却

グループAは、表の中で硬度の幅がいちばん広く、pHも中性から弱アルカリ側まで含む種類です。水道水を中和して使う改良ベタの水づくりの延長で始めやすいので、ワイルドベタの入り口としては選びやすいかなと思います(所長の見立てです)。ただし、スプレンデンスの野生の個体は弱い酸性寄りの水を好むとされているので、改良ベタとまったく同じでいいとは考えないでくださいね。

グループBのマハチャイエンシスは、資料によって汽水の扱いが違う種類です。販売店がどんな水で飼っていたかを聞き、その水に合わせてから少しずつ様子を見る、という順番を守るのが安心です。

グループCは、見た目の小ささに反して、所長の見立てでは水づくりの準備がいちばん多いグループです。コッキナ・ブラウノルム・ヘンドラは泥炭湿地、アルビマルギナータとチャンノイデスは森の中の浅い渓流に暮らす種類で、どれも表ではpH3.0〜6.5の範囲・硬度1〜5の軟水が目安になっています。この軟水を安定して用意できるかが分かれ目です。グループDは、水質の幅は種類によってばらばらですが、底面80×30cmの水槽を置けるか、マクロストマなら夏に25℃を超えないようにできるかが決め手になります。

迷ったときの順番は“用意できる水 → 置ける水槽の大きさ → 夏と冬の水温 → 見た目の好み”です。この順で絞ると、迎えてから水が合わずに困る失敗を減らせますよ。

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水槽の大きさとふた・ろ過で飛び出しと強い水流を防ぐ

ワイルドベタの水槽づくりで外せないのは、「十分な広さ」“すき間のないふた”「弱い水流」の3つです。改良ベタを小さな容器で飼うイメージのまま始めると、この3つがそろわないことが多いんですよ。

まず広さです。Seriously Fish では、スプレンデンスについて底面45×30cm(約41リットル)があればオス1匹かペア1組に足りるとし、とても小さな水槽や小瓶で飼うことは支持しない、と書いています。小型の原種もほぼ同じ45×30cmが目安で、マクロストマやウニマクラータ、プグナックスのような大型の口内保育型は80×30cm(約72リットル)が目安です。これはあくまで1匹かペアを飼う場合の目安なので、群れで飼える種類をグループで飼うなら、もう一回り大きくしたほうが落ち着きやすいかなと思います。Seriously Fish の目安は小さな群れも含めた大きさとして示されていますが、所長としては余裕を持たせるのがおすすめです。

次にふたです。Seriously Fish の各種類の解説では、どのベタ属の魚も水面の上にできる湿った空気の層にときどき出入りする必要があり、跳躍が得意なので、水槽はしっかり覆い、水を縁いっぱいまで入れないように、とくり返し書かれています。ベタの仲間は肺のようなラビリンス器官を持ち、えらに加えて空気を吸って呼吸できるため、溶けている酸素がほぼない水でも生き延びられる、と2017年の総説でも説明されています。水面とふたのあいだの空間は、この空気呼吸のためにも必要なんですね。

Seriously Fish では、どのベタ属の魚も跳躍が得意だとされています。ふたのコード穴やろ過器の配管まわりのすき間からも飛び出すことがあるので、すき間はスポンジやネットでふさぎ、水位は縁から少し下げて空気の層を残してください。

ふたのすき間のふさぎ方や水位の下げ方の加減は、ベタの飛び出しを防ぐふたと水位の考え方で詳しく整理しています。

最後にろ過です。Seriously Fish では、ゆっくりした水に暮らす種類なので強い水の動きは避け、エアーで動かすスポンジフィルターをゆるやかに回せば十分、とされています。外掛けや上部のフィルターを使う場合も、吐出口をガラス面に向ける、流量を絞るなどして、魚が流されない程度の弱い流れにしてあげてください。

エアーで動かすスポンジフィルターの一例として、テトラのブリラントフィルターを挙げておきます。動かすにはエアーポンプが別に必要になるので、水槽の大きさに合うかとあわせて、購入前に各ショップで仕様と価格を確認してください。

レイアウトは、浮き草や背の高い水草、流木、素焼きの植木鉢などで隠れ場所と影を多めに作るのが基本です。Seriously Fish では、乾燥させた落ち葉を入れると隠れ場所が増え、分解とともに微生物が育って稚魚の副食になり、葉から出るタンニンなどの成分もよいと考えられている、と書かれています。ブナやナラ、ケタパン(モモタマナ)の葉が向いている、とする種類もありますよ。

落ち葉を入れるなら、アクアリウム用として売られているモモタマナ(ケタパン)の葉を使う方法があります。入れる枚数と水の変わり方は水槽ごとに違うので、少しずつ入れてpHを測りながら調整してください。商品の内容と価格は、購入前に各ショップで確認してくださいね。

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水質と水温は種類ごとにpH・硬度・上限温度を合わせる

pHと硬度の維持と、夏と冬の水温対策を2つに分けて説明したスライド
ワイルドベタの水質と水温の管理

ワイルドベタの水づくりは、“その種類のpHと硬度の範囲に入れて、そこから大きく動かさない”が基本です。そして水温は、下限だけでなく上限にも気を配る必要があります。

まずpHと硬度です。2017年の総説では、タイの泡巣型は比較的澄んだ中性に近い水に暮らす一方、マレーシアやインドネシアの一部の種類は、タンニンや腐植酸で黒っぽく色づいた、とても酸性の強い水に暮らしている、と説明されています。例として挙がっているのがルティランス、コッキナ、ヘンドラです。Seriously Fish でも、コッキナの暮らす水は腐植酸などで黒く色づき、溶けているミネラルはごくわずかで、pHは3.0や4.0まで下がることがある、とされています。

こうした泥炭湿地の種類を飼うには、炭酸塩硬度がほぼなく総硬度もとても低い水が必要で、Seriously Fish では、RO浄水器か、ほかの方法で軟水を手に入れる必要があるかもしれない、と書かれています。一方で、天然のピートを使う必要はなく、ピートの採取は持続可能ではなく環境を壊すものだ、とも添えられています。落ち葉や流木のタンニンを使いながら、pHと硬度を測って合わせていくのが現実的かなと思います。

水換えでは、足す水のpHと硬度を水槽の水とそろえることが大切です。軟水や酸性に調整した水槽に、調整していない水道水をそのまま大量に足すと、pHと硬度が一気に動いてしまいます。Seriously Fish でも、稚魚を育てる段階の水換えは、間を空けて大きく替えるより、少しずつ定期的に替える形がよいとされています。測り方の基本は、ベタの水質検査でアンモニアとpHを読む手順が参考になりますよ。

次に水温です。表のとおり、多くの種類は22〜28℃あたりが目安ですが、上限が低い種類があります。マクロストマは20〜25℃、ウニマクラータは21〜26℃、ヘンドラは22〜27℃です。日本の夏は室温が30℃前後になる日も多いので、こうした種類を飼うなら、冷却ファンや水槽用クーラー、エアコンで室温を管理するなど、夏の対策を迎える前に決めておいてください。

冬はその逆で、ヒーターで下限を割らないようにします。インベリスは下限20℃、マクロストマも下限20℃とされていますが、下限ぎりぎりで長く飼うのではなく、表の範囲の中ほどで安定させるほうが安心です。温度の振れ幅を小さく保つ考え方は、ベタの水温を夏と冬に安定させる方法で改良ベタ向けにまとめていて、ヒーターやファンの使い方はワイルドベタにも応用できます。

ここに挙げた数値は、あくまで Seriously Fish が種類ごとに示している一般的な目安です。同じ種類でも産地によって暮らす水は違うことがあるので、正確な情報は販売店やブリーダー、資料の最新版でご確認ください。

pHと総硬度をまとめて確かめる道具の一例が、テトラの試験紙です。測れるpHの範囲は製品ごとに決まっているので、pH3〜4前後まで下げる種類(表の下限はブラウノルムのpH3.0)を飼う場合は、目当ての範囲が測れるかを購入前に各ショップや製品の説明で確認してください。

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ワイルドベタの餌付けと与えすぎを防ぐコツ

ワイルドベタの餌は、“人工飼料に慣らしつつ、小さな生き餌や冷凍餌をこまめに混ぜる”のが基本の考え方です。そのうえで、与えすぎには改良ベタ以上に気をつけたいところです。

Seriously Fish の各種類の解説では、飼育下の個体はふつう、乾燥した餌も食べ物だと覚えれば食べるようになるが、ミジンコ、ブラインシュリンプ、アカムシのような小さな生き餌や冷凍餌をたっぷり定期的に与えることで、色や体の状態がよく仕上がる、と書かれています。スプレンデンスやヘンドラ、マハチャイエンシスでは、ピンヘッドコオロギやショウジョウバエのような小さな虫も使えるとし、与える前に虫に魚のフレークや植物質を食べさせておくとよい、とされています。

迎えたばかりのワイルドベタは、人工飼料を餌だと認識していないことがあります。最初は冷凍アカムシやブラインシュリンプなど食いつきのよい餌で落ち着かせ、食べるようになってから人工飼料を少しずつ混ぜて慣らしていく、という順番が、所長としてはおすすめです。マクロストマやウニマクラータのような大型種では、ときどきミミズを与えてもよい、とされています。

一方で、同じ解説では、ベタ属は特に肥満になりやすいようなので与えすぎに注意する、とくり返し書かれています。お腹がふくれて見えるほど与えるのではなく、一度に食べ切れる量にとどめ、食べ残しはすぐ取り除くようにしてください。食べ残しは水を汚す原因になります。

稚魚の餌も種類で違います。マクロストマやウニマクラータの稚魚は5mm以上と大きく、生まれてすぐにマイクロワームやブラインシュリンプの幼生を食べられる一方、与えすぎると腸の問題を起こしやすいので、少量ずつ何回にも分けて与えるように、とされています。泡巣型のスプレンデンスでは、最初の数日はインフゾリアのような微小な餌が要り、そのあとでマイクロワームやブラインシュリンプの幼生を食べられるようになる、と書かれています。ブラインシュリンプの幼生を与えすぎると幼いベタに不調が出たという報告もある、と添えられているので、量は控えめにしてくださいね。

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ワイルドベタの混泳と複数飼育はペアが基本

ワイルドベタの同居は、ほかの魚との混泳は基本的に向かないこと、同じ種類の複数飼育は種類によってペアから群れまで幅があることの2つに分けて考えるとわかりやすいです。

まず混泳です。Seriously Fish では、今回の12種のどれについても、一般的な混泳水槽には勧めないとされています。スプレンデンスは単独で飼うのが最適で、ほかの魚を受け入れる個体がいても例外だとされています。ほかの種類も、単独か、ごくおとなしい魚と組み合わせるのがよいとされ、大きな魚や活発な魚がいると威圧されたり餌を取られたりしやすい、という理由が添えられています。コッキナやインベリスなどでは、ほとんどの場合は単独で飼うのが最適、とも書かれています。自然の環境が似た小型のコイの仲間などは合うこともあるが、買う前によく調べることが欠かせない、とも書かれています。改良ベタの混泳の考え方はベタと混泳できる魚の相性と失敗したときの戻し方で整理していますが、ワイルドベタはさらに慎重に考えたほうがいいですね。

次に同じ種類どうしです。Seriously Fish の解説を種類ごとに見ると、次のように分かれます。

  • インベリス・スマラグディナ:隠れ場所が十分なら、1つの水槽にオスを2匹以上入れられる。繁殖させるならペアを分ける
  • マハチャイエンシス:隠れ場所と視線を切るものが十分ならオスを2匹以上入れられる。繁殖させるなら多くの場合ペアを分ける
  • プグナックス・アルビマルギナータ・チャンノイデス・ヘンドラ:ペアか群れで飼える
  • コッキナ・ブラウノルム:複数ペアやハーレムで飼えるかは報告が分かれ、単独のペアを勧める声もある
  • マクロストマ:ペアで飼うのが最適。オスどうしは絶えず争い、メスどうしも争うことがある
  • ウニマクラータ:繁殖させるならペア。十分な大きさの水槽なら群れも飼える
  • スプレンデンス(野生型):単独で飼うのが最適。オスとメスは繁殖時以外は分けるのが一般的

こうして並べると、“ペアで飼う”がいちばん無理のない形だとわかります。群れで飼える種類でも、優位な個体が別の個体を追い回し続けることはあるので、隠れ場所を多めに用意し、ヒレの裂けや隠れっぱなしの個体がいないかを毎日見てあげてください。

そして、ウニマクラータの項で触れたとおり、産地の違う個体は交雑するおそれがあります。同じ種類でも産地名の違う個体は同じ水槽に入れない、ワイルドベタと改良ベタも同じ水槽に入れない、というのが、原種の血統を守るための基本ですね。

ワイルドベタについてよくある質問

ワイルドベタは小さなボトルやコップで飼えますか?

おすすめしません。Seriously Fish では、スプレンデンスでも底面45×30cm(約41リットル)を目安とし、とても小さな水槽や小瓶で飼うことは支持しない、としています。ワイルドベタはよく跳び、水面の上の空気の層も必要なので、ふたのできる水槽で飼ってあげてください。

ワイルドベタと改良ベタを同じ水槽で飼ってもいいですか?

避けたほうがよいです。改良系統のスプレンデンスは他のベタよりも攻撃的に見えるとされ、さらにインベリスやスマラグディナは取引のためにスプレンデンスと交雑されてきた経緯があります。けんかと交雑の両方を防ぐため、水槽は分けて飼いましょう。

飼えなくなったワイルドベタを近くの川や池に放してもいいですか?

放してはいけません。Seriously Fish によると、スプレンデンスは観賞魚の養殖場から逃げ出したことなどで、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ブラジル、コロンビア、ドミニカ共和国に野生化した集団ができています。飼えなくなったときは、購入した販売店や、引き取りをしているショップに相談してください。

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ワイルドベタを迎える前に押さえたいまとめ

最後に、ワイルドベタを迎える前に押さえておきたいことをまとめます。ワイルドベタは、品種改良を受けていないベタ属の野生の種類をまとめた呼び名で、2017年の総説では有効な野生種が73種(泡巣型18種・口内保育型55種)とされています。改良ベタとは、ヒレの形だけでなく、合う水と気性が大きく違う魚です。

種類選びでは、“用意できる水 → 置ける水槽の大きさ → 夏と冬の水温 → 見た目の好み”の順で考えるのがおすすめです。スプレンデンスに近いインベリスやスマラグディナは水の幅が広く始めやすい一方、コッキナやヘンドラのような泥炭湿地の小型種は、pH3.0〜6.5の範囲・硬度1〜5の軟水づくりが前提になります。マクロストマのような口内保育型の大型種は、底面80×30cmの水槽と夏の水温対策が欠かせません。

飼育の基本は、すき間のないふたと少し下げた水位、エアーで動かす弱いろ過、影と隠れ場所の多いレイアウト、そして種類ごとのpH・硬度・水温の範囲を大きく外さないことです。餌は人工飼料に慣らしつつ小さな生き餌や冷凍餌を混ぜ、与えすぎに注意します。同居はペアを基本に、産地の違う個体や改良ベタとは分けて飼ってください。

そして、絶滅のおそれがある種類が多い魚でもあります。種類名・産地名・採集か繁殖かが分かる個体を選び、飼えなくなっても野外には放さないでくださいね。ここで紹介した数値は一般的な目安なので、正確な情報は販売店や資料の最新版をご確認ください。迷ったときの最終的な判断は、ワイルドベタを扱う専門店のスタッフなど専門家にご相談ください。

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