水槽立ち上げ「から回し」やり方と期間、疑問を解説

こんにちは。THE AQUA LAB、運営者の「所長」です。

新しく水槽をセットアップする時、本当にワクワクしますよね。でも、その「水槽立ち上げ」で「から回し」という作業が必要だと聞いて、検索されたのかなと思います。

この「から回し」って、一体どれくらいの期間がかかるのか、具体的なやり方はどうするのか、そもそも本当に意味ないんじゃないか、といった疑問が湧いてきますよね。

特にソイルを使う場合や、パイロットフィッシュを入れる方法との違い、途中で水が白濁りしたり、コケだらけになった時の対処法、バクテリア剤は必要なのか、から回し中の水換えはどうするのか…など、悩みは尽きないかもしれません。

この記事では、そんな「から回し」に関する様々な疑問を整理して、アクアリウムを安全にスタートするための基本的な考え方を紹介していこうと思います。

  • 「から回し」の本当の意味と必要性
  • 必要な期間と完了を見極めるサイン
  • 実践的な「から回し」の手順と注意点
  • 立ち上げ中の白濁りやコケなどトラブル対策

水槽立ち上げ、から回しの基礎知識

「から回し」って、アクアリウムを始めたばかりだと聞き慣れない言葉ですよね。まずは、この「から回し」がなぜ必要なのか、どれくらいの時間がかかるのか、といった基本的な部分から、一緒に確認していきましょう。

から回しは意味ない?その誤解を解く

まず最初に、よく聞く「から回しは意味ない」という話。これ、私も最初は混乱しました。 この誤解は、「から回し」という言葉が指す2種類の異なるプロセスが混同されてしまっているのが原因かな、と思います。

水槽という閉鎖された環境で魚を飼うには、「生物ろ過」という仕組みが不可欠です。これは、魚にとって猛毒のアンモニアを、バクテリア(硝化菌)の力で比較的無害な物質に変えてもらうリレーのことを指します。

この「生物ろ過」を完成させることが、立ち上げのゴールです。

1. 意味がない(とされる)から回し:受動的から回し

これは、水槽に水とフィルターだけをセットして、魚もアンモニア源も入れずに、ただ水をグルグルと循環させているだけの状態を指すことが多いです。

水槽を安定させてくれる「硝化バクテリア」も生き物なので、当然ながら「餌」が必要です。彼らのメインの餌は、猛毒の「アンモニア」です。 その肝心な餌(アンモニア)が水槽内に供給されなければ、バクテリアは(空気中や水道水から入るごく微量を除いて)繁殖しようがありません。

このやり方で1ヶ月待っても、バクテリアはほとんど増えていないので、魚を入れた瞬間にアンモニア中毒になるリスクが非常に高いです。これなら確かに「意味ない」と言われても仕方ないですね。

2. 意味がある「から回し」:能動的から回し(フィッシュレスサイクル)

一方で、この記事で推奨しているのはこちら。「フィッシュレスサイクル(Fishless Cycle)」と呼ばれる、意図的に「アンモニア源」を水槽に添加して、硝化バクテリアを積極的に育てる方法です。

魚(生体)を入れる前に、あえてバクテリアの餌(アンモニア)を投入することで、魚たちが排泄するアンモニアを即座に分解してくれる環境を、安全かつ計画的に構築するのが最大の目的です。

これは、魚を迎える前に「生物ろ過」という名の安全ネットを張り巡らせる作業、と言えるかもしれません。

結論として: 「餌(アンモニア源)なし」でただ待つ受動的な方法は意味が薄いです。 しかし、「餌(アンモニア源)あり」で意図的にバクテリアを育てる能動的な作業は、魚を安全に迎えるために非常に重要で、科学的なプロセスだと言えますね。

から回しに必要な期間と完了の目安

じゃあ、その「意味のあるから回し」って、具体的にどれくらい時間がかかるんでしょうか。

これは水槽の環境によって大きく変動するので一概には言えないんですが、一般的には1ヶ月から2ヶ月(約4〜8週間)ほどかかると言われていますね。思ったより長い、と感じるかもしれません。

なぜこんなに幅があるかというと、バクテリアの増殖スピードが色々な要因に左右されるからです。

期間が変動する主な要因

  • 水温: 硝化バクテリアは水温が高いほど活発に増殖します。一般的に25℃〜28℃あたりが最適とされ、逆に水温が低い(例えば20℃以下)と、増殖スピードは極端に遅くなります。ヒーターが必須なのはこのためですね。
  • アンモニア源の量: 餌が豊富なら増殖も早いですが、多すぎると逆に増殖が阻害されることもあります。
  • バクテリア剤の使用: 市販のバクテリア剤(種火)を使うことで、ゼロからスタートするよりは期間が短縮される可能性があります。
  • pH(ペーハー): 水質(酸性・アルカリ性)によってもバクテリアの活性は変わります。

ただ、ここで一番強調したいのは、大事なのは「何日待ったか」という経過日数ではない、ということです。

本当に重要なのは、「窒素サイクル」というバクテリアのリレーがしっかり完成したかどうか、です。それを確認するには、残念ながら見た目(水の透明度など)では絶対に判断できません。

水質検査キットが絶対に必須です 「から回し」を科学的に行い、完了を判断するためには、水質検査キット(試験紙タイプまたは試薬タイプ)が絶対に必要になります。

  • 試験紙タイプ: 手軽で早いですが、数値がアバウトな傾向があります。
  • 試薬タイプ: 少し手間がかかりますが、より正確な数値を把握できます。立ち上げ中は試薬タイプがおすすめです。

特に「アンモニア(NH3)」「亜硝酸(NO2)」「硝酸塩(NO3)」の3つを個別に測定できるものが理想ですね。 (注:これらの検査キットは専門のペットショップやオンラインストアで入手可能ですが、使用方法や数値の読み方には製品ごとに違いがあります。必ず説明書をよく読んでご使用ください。)

この検査キットを使って、以下の「完了のサイン」を待ちます。

「から回し」完了のサイン(目安)

  1. アンモニア(猛毒)を添加しても、24時間以内にアンモニア(NH3)濃度が「0」になる。
  2. 亜硝酸(猛毒)の濃度が「0」である。
  3. 硝酸塩(比較的無害)が検出され、蓄積が確認できる。

この3つの条件が揃って、初めて「魚を迎える準備(=生物ろ過)ができた」と言えるわけですね。あくまで目安ですが、この数値をしっかり確認することが、導入後の失敗を劇的に減らす最大のコツかなと思います。

この水質の変化を時系列で表にすると、だいたいこんなイメージです。

期間(目安) アンモニア(NH3) 亜硝酸(NO2) 硝酸塩(NO3) 水槽内の状況
Week 1 上昇・ピーク 0 0 アンモニア分解菌(ニトロソモナス等)が増え始める段階。
Week 2-3 減少し始める 上昇・ピーク 0 アンモニアが分解され亜硝酸が激増。生体にとって最も危険な時期。
Week 4-5 0 付近 減少し始める 上昇し始める 亜硝酸分解菌(ニトロバクター等)が増え、亜硝酸が分解され始める。
Week 6+ 0 0 蓄積(上昇) サイクル完了! 2種類のバクテリアが定着した状態。

(※あくまで典型例です。水温や環境により期間は大きく変動します。)

パイロットフィッシュを使わない利点

昔からある立ち上げ方法として、立ち上げ初期の過酷な水質環境に耐えられるとされる丈夫な魚(通称:パイロットフィッシュ)を先に入れて、その魚の排泄物(=アンモニア)でバクテリアを育てる、というやり方もあります。

確かにこの方法でも最終的に水槽は立ち上がるんですが、これは魚にとって、非常に過酷な状況を強いることになります。

立ち上げ中は、猛毒のアンモニア、そしてアンモニア以上に毒性が高いとも言われる亜硝酸が、安全基準値をはるかに超える濃度で発生します。(上の表のWeek 2-3あたりですね) 魚はアンモニアや亜硝酸に晒されると、エラや血液にダメージを受け、呼吸困難や免疫力の低下を引き起こし、最悪の場合死んでしまいます。

アンモニアの毒性について アンモニアは水生生物にとって非常に有毒です。例えば、日本の水産用水基準(魚が安全に暮らせる目安)では、アンモニア態窒素(水中のアンモニア類)の基準値が設定されています。 環境省の資料などでも、アンモニア(特に非解離アンモニア $NH_3$)は魚類に対して低い濃度でも急性毒性を示すことが指摘されており(出典:環境省 水質基準項目と基準値などに基づく水生生物保全の考え方)、立ち上げ中のような高濃度環境は極めて危険だと言えますね。

(注:リンク先は環境省の水道水質基準のページですが、水生生物保全に関する環境基準の考え方においてもアンモニアの毒性は重要視されています。正確な毒性データや環境基準については、専門的なデータベースや環境省の最新報告書をご確認ください。)

私個人としては、やっぱり魚にそんな辛い思いをさせるのは避けたいな、と思うんです。

フィッシュレスサイクル(から回し)のメリット

  • 人道的: 立ち上げの「実験台」として魚を犠牲にする必要がありません。
  • 安全: 猛毒のアンモニア・亜硝酸のピークを安全にやり過ごしてから、万全の体制で本命の魚を迎えられます。
  • 計画的: 「サイクルが完了したから、今週末に魚を買いに行こう」というように、自分のペースで計画を立てられます。
  • 高負荷対応: 意図的に高濃度のアンモニアで立ち上げることで、パイロットフィッシュ数匹で立ち上げるよりも強力なバクテリアコロニーを構築できる可能性があります。

魚を入れずにバクテリアを育てる「から回し」は、魚にとっても、私たち飼育者にとっても精神的な負担が少ない(笑)、とても合理的で優れた方法だと私は思いますね。

バクテリア剤は立ち上げに必要か?

「じゃあ、市販の“バクテリア剤”を入れたら早く終わるんじゃない?」と思いますよね。 アクアショップに行くと、本当にたくさんの種類のバクテリア剤が並んでいます。

結論から言うと、必須ではありませんが、立ち上げ期間を短縮する「お守り」や「ブースター」として、正しく使えば役立つ可能性はある、と私は考えています。

バクテリア剤にも、含まれる菌の種類によって、大きく分けて2つのタイプがあるみたいです。

1. 硝化菌タイプ(主役)

アンモニアを亜硝酸に、亜硝酸を硝酸塩に分解してくれる、今回の「窒素サイクル」の主役となるバクテリア(ニトロソモナス属、ニトロバクター属など)そのもの、あるいはその近縁種が休眠状態で含まれているとされる製品です。

これがうまく水槽内で目覚めて定着すれば、ゼロからバクテリアが自然発生するのを待つよりも、立ち上げ期間が短縮されることが期待できますね。アンモニアを添加する「から回し」と併用するのに適していると言えます。

2. 有機物分解菌タイプ(裏方・サポート役)

こちらは、魚の糞や餌の残り、枯れた水草などの「有機物」を「アンモニア」に分解する、別のバクテリア群(PSB(光合成細菌)や納豆菌の仲間(枯草菌)など)が含まれる製品です。

彼らは窒素サイクルを直接行うわけではありませんが、硝化菌の「餌」となるアンモニアを作り出したり、水槽内の「汚れ」そのものを分解してくれたりします。 立ち上げ時というよりは、日常の水質維持や、糞が多い大型魚水槽などのサポート役として役立つイメージでしょうか。

バクテリア剤使用時の注意点 バクテリア剤を使ったからといって、「から回し」や「水質検査」が不要になるわけでは絶対にありません。

あくまで「立ち上げのスタートダッシュを補助するもの」「サイクルの種火」くらいに考えておき、必ず水質検査でアンモニア・亜硝酸が0になるのを自分の目で確認することが重要です。

(注:これらの製品の効果や含まれる菌種については、様々な意見や研究があり、製品によっても特性が異なります。最終的なご判断は、製品の仕様やレビューをよくご確認の上、ご自身の責任でお願いします。)

水槽立ち上げ、から回しの実践テクニック

基礎知識がわかったところで、次は「じゃあ、具体的にどうやるの?」という実践編です。ここでは、標準的な手順や、水草水槽でよく使われる「ソイル」を使った場合の注意点、そして立ち上げ中によくあるトラブル対策について、私の経験も交えて紹介しますね。

から回しの具体的なやり方ステップ

ここでは、底床(底砂)に砂利や吸着系ソイル、またはベアタンク(底床なし)など、底床自体から栄養分(アンモニア)が出ない、または少ない場合の、最も標準的な「から回し」の手順を詳しく解説します。

準備するもの

  • 水槽、ヒーター、フィルター(ろ過装置)一式
  • アンモニア源(バクテリアの餌):これが無いと始まりません。以下のいずれかが必要です。
    • 薬局のアンモニア水: 安価ですが、成分に注意。「アンモニア水」とだけ書かれ、界面活性剤(洗剤成分)など余計なものが入っていないか必ず確認してください。添加量の調整が少し難しいです。
    • アクアリウム用のアンモニア添加剤: 専用品なので安全ですが、やや高価です。
    • 魚の切り身(非推奨): 少量入れる方法もありますが、腐敗のコントロールが難しく、水がひどく汚れたり、目的以外の雑菌が湧いたりする原因になるため、個人的にはおすすめしません。
  • 水質検査キット(必須): アンモニア・亜硝酸・硝酸塩が測れるもの(試薬タイプ推奨)。
  • カルキ抜き(塩素除去剤):水道水の塩素はバクテリアを殺菌してしまうため必須です。

ステップ1:器具のセッティングと注水

まずは水槽、底床材(砂利など)、ヒーター、フィルターを正しく設置します。 フィルターについては、ろ材が十分に入っているか確認してください。もしセット付属の交換カートリッジ式の場合は、そのままでも可能ですが、将来的にろ材を交換する際にバクテリアを失いやすいので注意が必要です。(後述)

水道水を注ぎ、必ず規定量のカルキ抜きを使用します。 フィルターとヒーターを稼働させ、水温をバクテリアが増殖しやすい温度(例:26℃前後)に設定・維持します。

ステップ2:アンモニアの添加(サイクルの開始)

フィルターを稼働させてから数日後(水が落ち着いたら)、最初のアンモニア源を添加します。

添加量の目安(アンモニア水の場合): これは非常に難しいのですが、多くの専門家が推奨する目安として、水槽のアンモニア濃度が $3 \sim 5 mg/L$ (ppm) 程度になるように調整します。(※入れすぎは禁物です。最初は少なめから試してください)

添加の頻度: 最初のうちは、アンモニアはなかなか減りません。水質検査でアンモニア濃度を測定し、低下してきたら目標濃度(例:3ppm)まで追添加します。 サイクルが進むと(Week 1-2以降)、アンモニアが亜硝酸に変わるスピードが速くなるので、毎日測定して添加が必要になる時期もあります。

ステップ3:水質のモニタリング(我慢の期間)

ここからが「から回し」の核心部分であり、一番の我慢のしどころです。 水質検査キットを使い、目に見えない水質の劇的な変化を追跡します。

モニタリングの頻度(目安): 最初の1週間は2〜3日に1回、アンモニアが減り始めたら毎日、と変化に応じて頻度を上げるのが理想です。

  1. 第1段階(アンモニアのピーク / 〜Week 1-2): 添加したアンモニア濃度が上昇し、ピークに達します。やがて、アンモニアを分解するバクテリア(ニトロソモナス属など)が繁殖し始めると、アンモニア濃度が減少し始めます。それと同時に、「亜硝酸($NO_2$)」が検出され始めます。
  2. 第2段階(亜硝酸のピーク / Week 2-4): アンモニアが0に近づくにつれ、今度は猛毒の「亜硝酸($NO_2$)」の濃度が急速に上昇し、ピークを迎えます。この時期の水槽は、生体にとっては最も危険な状態です。アンモニアが0になっても、まだ亜硝酸が出ている間は絶対に生体を入れないでください。
  3. 第3段階(サイクルの完成 / Week 4-8): 亜硝酸を分解するバクテリア(ニトロバクター属など)が繁殖し始めると、亜硝酸の濃度が減少し、最終的に0になります。同時に、最終生成物である「硝酸塩($NO_3$)」が検出され、その濃度が上昇・蓄積していきます。

このプロセスを、先ほどの「水質変化のテーブル」と照らし合わせながら確認していくわけですね。

ステップ4:サイクルの完了と生体導入

水質検査で、アンモニア(NH3)と亜硝酸(NO2)がともに「0」になり、かつ硝酸塩(NO3)が検出されたら、窒素サイクルは無事完了です!

おめでとうございます。…と言いたいところですが、最後にもう一手間あります。

最後の大幅な水換え: サイクルが完了した水槽は、安全な水ではありますが、同時に「硝酸塩」が高濃度で蓄積している状態です。(硝酸塩も、高濃度では生体にストレスを与えます) 生体を導入する直前に、この蓄積した硝酸塩の濃度を下げるため、50%〜80%ほどの大きな水換えを行います。

水換え後、水質と水温が安定したら、いよいよ生体を慎重に(水合わせを経て)導入します。

生体導入時の最重要注意事項 サイクルが完了したからといって、生体(魚)を「一度に大量に入れない」ことが鉄則です。

完成したばかりのバクテリアコロニー(生物ろ過)の処理能力には、まだ限界があります。想定(例:小型魚10匹)以上の魚を一度に入れると、魚から排出されるアンモニアの総量が、バクテリアの処理能力を上回ってしまう「キャパオーバー」状態になります。

その結果、処理しきれなかったアンモニアや亜硝酸が再び検出される「サイクル崩壊(の入り口)」を引き起こす可能性があります。 最初は少数の生体(例えば、小型魚数匹)を導入し、水質が安定していること(アンモニア・亜硝酸が0のまま)を1〜2週間確認してから、次の生体を追加する、というように段階的に行うのが最も安全ですね。

ソイル水槽での立ち上げ注意点

「よし、じゃあ水草水槽をやろう!」と思って、「栄養系ソイル」を使う場合。 この場合は、これまでの標準的な「から回し」とは手順が根本的に変わるので、特に注意が必要ですね。

アクアリウムで使われるソイルには、大きく分けて2種類あります。

  • 吸着系ソイル: 水中の不純物や色を吸着して水をピカピカにしますが、それ自体に栄養はほぼありません。この場合は、前述の「標準的なから回し」が必要です。
  • 栄養系ソイル: 水草を元気に育てるために、それ自体に豊富な栄養分(特にアンモニア)を大量に含んでいます。

ここで問題になるのが、後者の「栄養系ソイル」です。 水槽にセットして水を入れた直後から、ソイルは水中に強烈なアンモニアを放出し始めます。

なので、どうなるかと言うと…

栄養系ソイル水槽の立ち上げポイント

  • アンモニア源の外部からの添加は一切不要です。絶対にやめてください。(ソイルが強力なアンモニア源そのものです)
  • むしろ、ソイルから溶出する過剰なアンモニアと栄養分を排出するため、セット初期(最初の2〜3週間)は、週に1〜2回の頻度で、30%〜50%程度の「頻繁な水換え」が必要になります。
  • この「水換え」こそが、栄養系ソイル水槽の「から回し」作業そのもの、と言えます。

標準的な「から回し」が「アンモニアを“足す”作業」なら、栄養系ソイルの立ち上げは「出すぎるアンモニアを“抜きながら”、バクテリアがその量に追いつくのを待つ作業」というイメージです。

もちろん、この場合も水質検査は必須で、ソイルからのアンモニア放出が落ち着き、水質検査でアンモニアと亜硝酸が0になるのをしっかり確認してから、生体を迎えることになります。

また、栄養系ソイルの場合は、最初から水草を植えておくことが推奨されます。水草もアンモニアや硝酸塩を栄養として吸収してくれるため、バクテリアと協力して水質を安定させるのを助けてくれるんですね。

立ち上げ中の白濁りの原因と対策

「から回し」の最中に、水が白くモヤ〜っと濁ること、これは本当によくあります。私も最初は「水が腐った!?」とすごく焦りました。

この「白濁り」には、だいたい2つの異なる原因があるかなと思います。

原因1:物理的な濁り(セット初期)

これは、水槽をセットしてすぐ〜数日の間に発生しやすい濁りです。 原因は、ソイルや砂利の細かい粒子やゴミ、流木のアクなどが水中に舞っていることです。水が白や茶色っぽく濁って見えます。

対策: これは病的なものではないので、焦る必要はありません。 フィルターの物理ろ材(ウールマットなど)が、時間とともにある程度濾し取ってくれます。気になる場合は、ウールマットを一時的に目の細かいものに交換したり、活性炭(ブラックホールなど)を入れると、早く透明になることが多いですね。

原因2:生物的な濁り(バクテリアブルーム)

「から回し」が本格化し、アンモニアや亜硝酸濃度が高まる時期(Week 1-3あたり)に発生する白濁りは、だいたいこれです。 これは、水中の豊富な栄養(アンモニアや有機物)を餌に、目的の「硝化菌」とは別の雑多な細菌(従属栄養細菌)が、水中で爆発的に増殖している状態です。これを「バクテリアブルーム」と呼んだりします。

「水が汚れてる!」「雑菌だらけだ!」と焦って、すぐに水換えしたくなるんですが…

生物的な白濁りが出たら「待つ」のが一番の対策です。 これが最善かつ、唯一の対策と言ってもいいかもしれません。

なぜなら、ここで下手に水換えを行うと、一時的に濁りはマシになるかもしれませんが、バクテリアの豊富な餌(アンモニアなど)は水中にあるため、細菌はすぐに再び増殖します。 さらに悪いことに、せっかく壁面やろ材に定着し始めた大事な硝化菌まで水と一緒に排出してしまい、かえってサイクルの進行を遅らせる可能性があります。

これは水槽内の栄養バランスが崩れている一時的な状態です。やがて硝化菌が優勢になり、彼らが栄養(アンモニア・亜硝酸)を消費し尽くすと、餌を失ったこれらの細菌は自然に減少し、ある日突然、ウソみたいに水がピカピカに透明になります。

対策としては、エアレーションを強化して水中に酸素を十分に送り込み、好気性細菌(硝化菌も含む)全体の働きをサポートするくらいで、あとはひたすら「待つ」。我慢のしどころですね。

厄介なコケ(藻類)の発生を防ぐコツ

白濁りと並んで、ほぼ100%発生するのが「コケ(藻類)」です。特に茶色いコケ(珪藻)や、緑色のフワフワしたコケ(糸状ゴケ)ですね。

なぜ「から回し」中にコケだらけになるのか? それは、この時期の水槽が、コケにとって「栄養バイキング+天敵不在」という最高の環境になっているからです。

  • 豊富な栄養: バクテリアを育てるために、アンモニア(窒素源)をガンガン入れています。栄養系ソイルなら、リン酸なども溶け出しています。これらはコケの肥料です。
  • 十分な光: 水草のため、あるいは観賞のために照明を点けています。コケは植物なので、光合成で増殖します。
  • 天敵がいない: 通常ならコケを食べてくれるヤマトヌマエビやオトシンクルス、貝類などの「メンテナンス生体」がいますが、「から回し」中はアンモニア・亜硝酸が猛毒レベルにあるため、これらの生体を投入できません。

コケの増殖条件は「栄養」と「光」。 このうち、「栄養」はバクテリアのために(意図的に)供給しているので、絶つことができません。 となると、私たちが制御すべきは「光」です。

から回し中のコケ対策は「照明を消す」か「極端に短くする」 硝化バクテリアは光合成をしません(光は不要です)。 したがって、「から回し」が完了するまでは、照明の点灯時間はゼロにするのが最も強力なコケ対策になります。

(※もし栄養系ソイルで「水草」を最初から植えている場合は、水草が枯れない最低限の時間、例えば1日6時間以下などに抑える、という調整が必要ですね。)

珪藻(茶ゴケ)の場合

水槽セット初期に最も出やすい、茶色くフワフワしたコケです。 これは水中の栄養分(特に水道水に含まれるケイ酸塩)が多い状態を好み、バクテリアがまだ十分に繁殖していない不安定な水質で発生しやすいです。 対策は比較的簡単で、基本は「待つ」です。水質が安定してくると(硝化菌が定着してくると)、他の微生物との競争に負け、自然に消えていくことが多いです。また、サイクル完了後にヤマトヌマエビやオトシンクルスを導入すれば、喜んで食べ尽くしてくれます。放置でOKかなと思います。

糸状ゴケ(アオミドロなど)の場合

富栄養化や、強すぎる照明が原因で出やすい、緑色のしつこいコケです。 これは非常に厄介で、手で取ってもわずかな破片から再生します。見つけたらすぐに手やブラシでこまめに取り除き、やはり照明時間を短くする、という対策が必要です。 サイクル完了後に導入するコケ取り生体としては、ヤマトヌマエビが非常に効果的ですね。

から回し中の水換えはいつ行う?

「白濁りも出たし、コケも生えてきたし、水が汚れてそうだから水換えした方がいい?」というのも、本当によくある疑問です。

結論から言うと、標準的な「から回し」(アンモニア添加法)の場合、原則としてサイクルが完了するまでは水換えは不要、というのが一般的な考え方です。

なぜなら、水換えをすると、水中に溶けているバクテリアの大事な「餌」であるアンモニアや亜硝酸まで捨ててしまうことになります。その結果、バクテリアの増殖スピードを遅らせてしまう可能性があるからですね。

「から回し」中は、「水をキレイにすること」よりも「バクテリアを育てること」を最優先に考えます。

水換えが必要になる「例外」タイミング

  • 栄養系ソイル使用時: これは例外中の例外です。(前述の通り)ソイルから出る過剰なアンモニアと栄養分を抜くために、初期は頻繁な水換えが必須です。
  • コケ対策: あまりにもコケ(特に糸状ゴケ)が制御不能なほど大発生した場合、水中の過剰な栄養塩を排出する目的で、限定的に水換えを行うことがあります。
  • アンモニアを入れすぎた時: アンモニア水の添加量を間違え、濃度が異常に高くなりすぎた(例:10ppm超え)場合、バクテリアの増殖が阻害されることもあるため、リセットのために水換えすることがあります。
  • サイクル完了時: これは必須の作業です。溜まりに溜まった最終生成物「硝酸塩($NO_3$)」の濃度を下げるため、生体を入れる直前に必ず(50%〜80%)行います。

【重要】フィルター掃除は厳禁!

水換えと関連して、この期間中に絶対にやってはいけないのが、「フィルターの掃除」、特に「ろ材の交換」です。

あなたが1〜2ヶ月かけて育てた硝化バクテリアの「家(すみか)」は、フィルターの中にあるスポンジや、リングろ材の表面です。 特に、多くのセットフィルターに付属している「交換カートリッジ」タイプは注意が必要です。「1ヶ月に1回交換」などと書かれていても、「から回し」中や完了直後に、そのカートリッジを新品に交換した瞬間、水槽の生物ろ過能力はゼロに戻り、窒素サイクルは崩壊します。

もし物理的なゴミ(水草の破片など)でフィルターが詰まり、水流が著しく弱くなった場合は、「交換」ではなく「清掃」を行います。その際も、水道水(塩素)で洗うことは絶対にせず、水槽から抜いた古い飼育水(またはカルキ抜きした水)で、汚れを軽く“すすぐ”程度に留めてください。

奥深い水槽立ち上げ、から回しの世界

ここまで、水槽立ち上げ「から回し」の基本的な考え方や、なぜ必要なのか、そして具体的な手順やトラブル対策について、かなり詳しく紹介してきました。

「から回し」と一口に言っても、アンモニアを添加する「フィッシュレスサイクル」、栄養系ソイルのアンモニアを利用する方法、あるいはパイロットフィッシュを使う昔ながらの方法など、本当に色々なアプローチがありますよね。

どの方法にも、メリットやデメリット(手間がかかるとか、時間がかかるとか、魚に負担がかかるとか)があります。 アクアリウムの面白いところであり、難しいところは、「これが唯一絶対の正解」というのがないところだと私は思っています。

目に見えないバクテリアの働きを、水質検査キットという「翻訳機」を使って想像しながら、自分の環境やスタイルに合ったやり方を見つけていく…。 この「から回し」という一見退屈に見えるプロセス自体が、実はアクアリウムという趣味の、一番科学的で、奥深くて、面白い入り口なのかもしれません。

1〜2ヶ月という期間は、魚を迎えるのを心待ちにしていると、本当に長く感じるかもしれません。でも、この準備期間をしっかり経ることで、その後の「魚がすぐに死んでしまう」という悲しい失敗を回避でき、アクアライフが格段に安定します。

「から回し」はゴールではなく、ようやく安全なスタートラインに立つための準備運動です。 ぜひ、ご自身の水槽で「生物ろ過」という小さな生態系が完成していく様子を、水質検査キット片手に楽しんでみてください。きっと、アクアリウムの本当の深さにもっとハマるきっかけになるかなと思います。

あなたの水槽が無事に、そして力強く立ち上がるのを、応援しています!