90センチ水槽の水量を解説!規格とスリムの違いは?

こんにちは。THE AQUA LAB、運営者の「所長」です。

アクアリウムをやっていると、やっぱり一度は憧れるのが「90センチ水槽」ですよね。あの大きな水槽で、魚たちが悠々と泳ぐ姿を想像するとワクワクします。でも、いざ90センチ水槽の導入を具体的に考え始めると、いろいろな疑問や不安が出てくるかなと思います。

特に「90センチ水槽の水量」について調べてみると、情報がバラバラで戸惑うことが多いですよね。「規格」や「スリム」といったサイズの違いで、水量が何リットルになるのか、具体的にどう違うのか。そして、その水量から計算される「総重量」は一体どれくらいになるのか。家の「床の耐荷重」は本当に大丈夫なのか、専用の「水槽台」はどう選べばいいのか…。こういった疑問が次々と出てきて、一歩踏み出せない方もいるかもしれません。

この記事では、これから90センチ水槽へのステップアップを目指したい方、あるいは純粋にスペックを知りたい方に向けて、水量の基本的な計算方法から、規格サイズとスリムサイズでどれだけスペックが違うのか、そして最も重要と言っても過言ではない「重量」の問題まで、しっかり掘り下げていこうと思います。

  • 90センチ水槽の「規格」と「スリム」の水量の違い
  • 「満水量」と「実水量」の正しい計算方法
  • 水量が決定する「総重量」と床の耐荷重のリスク
  • 水量に合わせた機材選びの基本的な考え方

90センチ水槽の水量は規格とスリムで大違い

「90センチ水槽」と一口に言っても、実は共通しているのは「横幅が90cm」という点だけだったりします。水量を決める重要な要素である「奥行き」や「高さ」は、製品によってかなりバラつきがあるんです。

特に、昔からある「規格」と呼ばれる標準サイズと、最近の住宅事情に合わせて登場した「スリム」と呼ばれる省スペースタイプでは、水量が文字通り倍以上違うことも珍しくありません。この決定的な違いを知らないと、飼育できる魚の数や種類、必要な機材、さらには管理の仕方を根本的に間違えてしまう可能性があるので、まずはここから押さえていきましょう。

憧れの90センチ規格水槽のスペック

まず、多くの方が「90センチ水槽」と聞いてイメージするのが、この「規格サイズ」かなと思います。昔からアクアリウムの「一つの到達点」として位置づけられてきたサイズ感ですね。

寸法は、幅90cm × 奥行45cm × 高さ45cmというのが最も一般的です。この場合の満水量を計算してみると(90 × 45 × 45 ÷ 1000)で、約182L(リットル)にもなります。家庭用の浴槽(約200L前後)に迫る水量ですから、すごいボリュームですよね。

このサイズ(水量)の最大の魅力は、やはりその圧倒的な「キャパシティ」です。

  • 水質・水温の安定性: 水量が多いため、生体の排泄物や食べ残しによる水質悪化のスピードが緩やかです。また、外気温の影響を受けにくく、水温も安定しやすい。つまり、生物学的に環境が非常に安定しやすいんです。
  • レイアウトの自由度: 奥行きも高さも45cmあるため、大きな流木や岩を使ったダイナミックなレイアウト(岩組や凸型構図など)も可能ですし、背が高くなる水草を使った本格的な水草レイアウトにも最適です。
  • 生体の選択肢: エンゼルフィッシュやディスカスのような体高のある中型魚をゆったり泳かせたり、カージナルテトラなどの小型魚を100匹単位で群泳させたりと、アクアリウムの楽しみ方がぐっと広がります。

後述する設置場所や重量の問題さえクリアできれば、環境が安定しやすいという意味で、実は「管理が楽(=失敗しにくい)」な水槽とも言えるかもしれませんね。

省スペースな90センチスリム水槽とは

一方で、先ほどの規格サイズ、特に「奥行き45cm」というのは、日本の一般的な住環境において、設置するのにかなりのスペースを要します。リビングや自室に置くとなると、なかなかハードルが高い場合もありますよね。

そこで近年人気を集めているのが、奥行きを狭くして設置しやすくした「スリムタイプ」です。

ただ、このスリムタイプには業界で統一された「規格」がありません。メーカーによって寸法は様々で、それによって水量も大きく変わってきます。

例えば、よく見かけるサイズとして、

  • 幅90 × 奥行30 × 高さ36cm → 水量 約97L
  • 幅90 × 奥行30 × 高さ22cm → 水量 約59L

といった具合です。同じ「90cmスリム」という名前で売られていても、水量が40L近く違うこともあるわけです。

【重要】スリムタイプの注意点:60cm規格水槽との比較

ここで一番注意していただきたいのが、水量約59Lのモデルです。この水量は、アクアリウムで最も普及している「60cm規格水槽(60 × 30 × 36cm → 水量約60L)」とほぼ同じなんです。

もし「90cm」という横幅の響きだけで、「規格水槽と同じ感覚で中型魚を入れよう」とか「たくさん魚を入れられるだろう」と考えてしまうと、あっという間に過密飼育になり、水質悪化を招く…なんていう致命的な失敗にも繋がりかねません。

名前は90cmでも、生物学的なキャパシティ(許容できる生体数やろ過能力)は60cm水槽と変わらない、という認識をしっかり持つことが大切ですね。

水槽の水量の計算方法(内寸と外寸)

ご自身の水槽、あるいは購入を検討している水槽の水量を自分で計算するときの基本式は、とてもシンプルです。小学校の算数で習った「体積」の計算ですね。

満水量の基本計算式(外寸基準)
水槽の幅(cm) × 奥行(cm) × 高さ(cm) ÷ 1000 = 水量(L)

※1000で割るのは、立方センチメートル(cm³)をリットル(L)に換算するためです。(1L = 1000cm³)

ただし、この計算方法で導き出されるのは、あくまで水槽の「外寸(外側の寸法)」を使って、水槽に何もない状態で縁ギリギリまで水を入れた場合の理論上の最大値、すなわち「満水量」です。

より厳密に水量を知りたい場合は、ガラスやアクリルの「厚み」を差し引いた「内寸(内側の寸法)」で計算する必要があります。

例えば、90cm規格水槽(90 × 45 × 45cm)で、ガラスの厚みが1cm(10mm)だったとします。 その場合、内寸は(幅88cm × 奥行43cm × 高さ44cm)となります。(底面にもガラス厚があるため高さも-1cm、左右と前後で-2cmですが、ここでは簡略化して幅-2cm、奥行-2cm、高さ-1cmで計算します)

→ 内寸計算: 88 × 43 × 44 ÷ 1000 = 約166.5L

どうでしょうか。外寸計算の182Lと比べると、15L以上も少ないことがわかります。この差はかなり大きいですよね。

とはいえ、製品のガラス厚を正確に測ったり、内寸を測ったりするのは大変なので、まずは外寸で「理論上の最大値」を把握し、この後説明する「実水量」で調整するのが現実的かなと思います。

水槽は何リットル入るか?満水量一覧

ここで、90センチ水槽の主要なタイプ別に、スペックを比較してみましょう。特に「満水量」と、後で詳しく触れる「総重量」の目安を並べてみます。水量がそのまま設置リスク(重量)に直結するのがよくわかりますね。

タイプ 寸法(幅×奥行×高さ) 満水量 (L) 水の重量 (kg) 総重量目安 (kg) 主な用途
90cm規格 90 × 45 × 45cm 約 182L 約 182kg 約 250kg 超 中型魚、本格レイアウト
90cmスリム A 90 × 30 × 36cm 約 97L 約 97kg 約 130kg 小型魚、省スペース
90cmスリム B 90 × 30 × 22cm 約 59L 約 59kg 約 80kg 小型魚、省スペース

※総重量目安は、水槽本体、水槽台、底砂(ソイルや砂利)、機材(フィルターなど)、レイアウト素材(石や流木)を含んだ、あくまで「おおよそ」の数値です。
※特にレイアウトで石を多用すると、総重量はこの目安よりもさらに重くなります。

こうして比較すると、同じ「90cm」でも、規格サイズ(約182L)とスリムB(約59L)では、水量が3倍以上も違うことが一目瞭然ですね。総重量も、規格サイズが圧倒的に重いことがわかります。




薬剤投与で重要な実水量の計算

さて、水槽のスペックとしての「満水量」を把握したら、次は「管理」のために、もっと大事な数値を理解する必要があります。それが「実水量(じっすいりょう)」です。

「実水量」とは、その名の通り、アクアリウムを運用している実際の状態での水量を示します。当然ながら、実水量は、必ず満水量よりも少なくなります。

なぜなら、水槽の中には水以外にも色々なものが入っているからですね。

実水量が減る主な要因

  • 底砂(ソイル、砂利): これが実水量を減らす最大の要因です。底砂は、その体積の分だけ水の入るスペースを奪います。例えば90cm規格水槽(90 × 45cm)にソイルを平均5cm敷いた場合、90 × 45 × 5 ÷ 1000 = 約20L にもなります。これだけで満水量182Lから20Lも引かれるわけです。
  • レイアウト素材: 大きな石や流木も、その体積の分だけ水量を減らします。
  • 水位: 水槽のフランジ(縁)や、地震対策(揺れによる水こぼれ防止)、上部フィルターの設置スペース確保などのため、水槽の縁ギリギリまで水を入れることはありません。この数センチの水位の差も、水量に影響します。
  • 機材など: 水中モーターやヒーター、スポンジフィルターなども、わずかですが体積分だけ水量を減らします。

レイアウト素材の体積などを一つ一つ正確に計算するのは困難です。そこで、アクアリウム用品メーカーさんなどが、実用的な推計方法として提示している便利な係数があります。

実水量の目安計算式(GEXさん推奨の方法など)
満水量(L) × 0.85 = 目安の実水量(L)
(または、幅(cm) × 奥行(cm) × 高さ(cm) × 0.85 ÷ 1000)

この「0.85」という係数は、前述の底砂やレイアウト、水位マージン、さらにはガラス厚による内寸の差などを、ざっくりまとめて考慮した、非常に実用的な経験的数値のようです。

では、なぜこの「実水量」がそんなに重要なのでしょうか? それは、魚病薬や水質調整剤(カルキ抜き、pH調整剤など)の正確な投与量に直結するからです。

【危険】オーバードーズ(過剰投与)のリスク

多くの薬剤のパッケージには、「飼育水100LあたりXX mlを投与」といった指示が記載されています。

ここで、90cm規格水槽(満水量182L)の所有者が、この「満水量」を基準に薬剤を投与したケースを考えてみます。

  • 満水量(基準にした数値): 182L
  • 実水量(実際の水量): 182L × 0.85 = 約155L

この場合、本来155Lの水量に対して投与すべき薬剤を、182L分(182 ÷ 155 = 約1.17)も投与することになります。これは、規定量の約17%〜18%近い「過剰投与(オーバードーズ)」を引き起こす計算です。

この18%の過剰投与は、体力のある丈夫な魚であれば耐えられるかもしれません。しかし、エビや貝類、ナマズやアロワナなどの古代魚、その他デリケートな無脊椎動物にとっては、致死的な(リーサル・ドーズ)結果を招く可能性が非常に高いです。

生体の健康と生命を守るためにも、薬剤投与や生体数の計算といった、健康に直結する全ての計算は、満水量ではなく「実水量」を基準に行う。これを徹底したいですね。

90センチ水槽の水量が決める重量と管理

水量のスペックを「満水量」と「実水量」の両面から把握できたら、次はいよいよ設置と管理の具体的な話です。ここまでも触れてきましたが、水量はそのまま「重量」に直結します。

そして、その「重量」が、90センチ水槽、特に規格サイズを目指す上で最大のハードルと言ってもいいかもしれません。水量が多ければ多いほど、水槽は重くなり、設置の安全性(床の耐荷重)が問われ、管理(機材選び)も大掛かりになってきます。

90センチ水槽の総重量(250kg超)

まず、基本的な知識として、水の比重は約1ですから、「水量 1L ≒ 重量 1kg」として換算できます。とても分かりやすいですね。

  • 90cm規格水槽 (満水量182L): 水だけで約182kgの重量
  • 90cmスリム水槽 (満水量59L): 水だけで約59kgの重量

この時点で、規格水槽の設置がいかに大掛かりなものになるか、スリム水槽とは比較にならない設置ハードルがあることがわかります。182kgというと、大人の男性2人〜3人分の重さですからね。

でも、実際に水槽を運用するときの「総重量」は、水の重量だけでは済みません。以下の要素がすべて加算されます。

【90cm規格水槽(90 × 45 × 45cm)の総重量(試算)】

  • 水の重量(実水量155Lと少なめに見積もる): 約155kg
  • 水槽台(堅牢な木製キャビネット): 約50kg(製品によりますが、このクラスだとかなり重いです)
  • 底砂(砂利系): 約30kg(ソイルより砂利の方が重く、比重1.5以上あります。20L分敷くと30kg超えます)
  • 水槽本体(ガラス製): 約25kg(90cm規格ガラス水槽本体もかなり重いです)
  • その他(フィルター、石、流木): 約15kg(外部フィルターやレイアウト素材の重量)

→ 試算合計: 約275kg

これはあくまで一例です。もしレイアウトで大きな岩(石)を多用する「岩組レイアウト」などにした場合、石だけで数十キロ追加されることもザラにあります。そうなると、総重量が300kgに迫るか、それを超えることも珍しくないんです。

この「275kg〜300kg」という重量が、あの 90 × 45cm という限られた面積に集中してかかることになります。

水槽の重量と床の耐荷重の確認

さて、この「約275kg〜300kg」という、力士一人分かそれ以上というとんでもない重量。これを日本の一般的な住宅の床に、そのまま置いて、本当に大丈夫なのでしょうか。

ここで「床の耐荷重」という問題が出てきます。

日本の建築基準法では、一般的な住宅(木造・鉄骨問わず)の「居室」の床が耐えるべき「積載荷重」は、「1800N/m²(ニュートン毎平方メートル)」と定められています。
(出典:e-Gov法令検索「建築基準法施行令」第八十五条

これを私たちに馴染みのある重量(kg)に換算すると、「1平方メートルあたり約180kgの重さに耐える設計」をしなさい、という意味合いになります。(※厳密には安全率などが含まれますが、目安として)

では、90cm規格水槽(設置面積:0.9m × 0.45m = 0.405 m²)が、床にどれほどの「集中荷重」を与えるか計算してみましょう。

275kg (総重量) ÷ 0.405 m² (設置面積) = 約 679 kg/m²

この数値、衝撃的じゃないですか? 建築基準法が定める一般的な床の耐荷重の目安「180 kg/m²」を、約3.7倍も大幅に超過している計算になります。

【最重要】設置場所の安全確認と専門家への相談

この計算結果は、90cm規格水槽(あるいはそれに準ずる重量物)が「一般的な住宅の床にそのまま置いてはいけない」可能性が非常に高いことを示しています。

これは「特定の地点に継続的にかかる重さ(集中荷重)」の話であり、「部屋全体で180kg/m²までOK」という意味ではありません。本棚やベッドなど他の家具の重さも考慮する必要があります。

この事実を無視して設置した場合、床が徐々にたわんだり、歪んだり、最悪の場合は床が抜けて階下に水槽が落下するといった、取り返しのつかない重大な事故につながる危険性があります。これは決して脅しではなく、アクアリストが負うべき最も重要な安全責任です。

設置を検討する場合は、

  1. 新築やリフォームの場合は、設計段階で設置場所の床の補強工事を依頼する。
  2. 既存の住宅の場合は、必ず専門家(建築士や住宅メーカー、施工業者)に相談し、建物の構造(梁の位置など)を確認してもらう。

といった対策が不可欠です。費用や手間はかかりますが、安全には代えられません。自己判断での設置は絶対に避け、最終的な判断は、ご自身の責任において慎重に行ってください。

90センチ水槽の水槽台の選び方

このとてつもない総重量を、まず直接的に支えるのが「水槽台」です。ですから、水槽台も当然、その重量に耐えうる専用のものが必須になります。

試算でも挙げたように、90cm規格水槽用の水槽台は、それ自体が非常に堅牢な木製キャビネット(あるいは頑丈なスチール製アングル)になっていることが多く、台だけで30kg〜50kgの重量があります。この重さで、水槽の重量をしっかりと受け止め、床に荷重を分散させる役割も担っています。

よく60cm水槽などでやりがちな、ホームセンターのメタルラックや、普通のAVボード、カラーボックスなどの家具の上に乗せる、なんていうのは絶対にNGです。数日で歪み、崩壊する可能性があります。

水槽台選びのポイント

  • 必ず「90cm水槽用」として販売されている、耐荷重が明記された専用の水槽台を選んでください。
  • 水槽の底面全体を均等に支える構造になっているか確認します(特にフレームレス水槽の場合、水槽の「たわみ」が水漏れの原因になるため)。
  • 設置場所が完全に「水平」であることも重要です。水平でないと、水槽の一点に水圧が集中し、破損の原因になります。

水槽台は、水槽の安全を支える土台そのものです。価格だけで選ばず、信頼できるメーカーの専用品を選ぶことを強く推奨しますね。

水量で決める生体は何匹までか

水量は、設置の安全性だけでなく、もちろん生物の飼育環境(生物学的なキャパシティ)にも直結します。

水量が多ければ多いほど、飼育できる生体の絶対数が増えたり、中型魚のような大きな生体も飼育可能になる、というのは直感的にわかりますよね。 でも、水量が多いことの最大のメリットは、やはり何度も触れている「環境の安定性」です。

  • 90cm規格水槽 (実水量 約155L)
    水量という「器(バッファ)」が大きいため、魚のフンや食べ残しによる毒素(アンモニアなど)が水に溶けても、毒素の濃度が上がりにくい(=希釈される)です。水質や水温が急変しにくく、非常に安定した環境を維持しやすいと言えます。皮肉なことに、設置さえできれば大型水槽は「管理が楽(=失敗しにくい)」水槽なんです。
  • 90cmスリム水槽 (実水量 約50L)
    水量が少ないため、少数の生体による排泄物でも、水中の毒素濃度が急激に上昇しやすいです。水質悪化が非常に早く、こまめな水換えや掃除が求められる、管理が難しい「不安定な」環境と言えます。

ここでアクアリストは、「設置の容易さ(スリム)と管理の難しさ」対「設置の難しさ(規格)と管理の容易さ」という、大きなトレードオフに直面することになります。ご自身のライフスタイルや、アクアリウムにどれだけ手間をかけられるかを考えて選ぶことが、長期的に楽しむコツかもしれませんね。

なお、飼育数を計算する際(「魚の体長1cmあたり水1L」といった目安など)も、もちろん満水量ではなく「実水量」を基準に考えるのが基本です。

水量に合ったフィルターの選び方

水槽の環境を維持する心臓部、水をきれいにする「ろ過フィルター」も、当然ながら「実水量」を基準に選定します。フィルターの能力は、主に以下の2点で決まります。

  1. 流量(ポンプの強さ): 1時間にどれだけの水を循環させられるか。一般的に、1時間に水槽の実水量の5〜10倍程度の流量が目安とされます。
  2. ろ材容量: 水をきれいにするバクテリアの住処となる「ろ材」がどれだけ入るか。水量が多ければ、それだけ汚れの絶対量も増えるため、多くのバクテリアが住める大容量のろ材スペースが必要になります。

これを踏まえて、水槽タイプ別に見ると…

  • 90cm規格水槽 (実水量 約155L)
    この大水量をしっかり浄化し、水槽全体に水流を行き渡らせるためには、強力なろ過システムが必要です。一般的には、大容量の「外部式フィルター」(2台設置することも多い)や、メンテナンス性の高い「上部式フィルター」、あるいは本格的な「オーバーフロー式ろ過」(水槽台内にろ過槽を置くシステム)が推奨されますね。
  • 90cmスリム水槽 (実水量 50L〜90L)
    水量は60cm規格水槽に近いか、少し多いくらいです。60cm水槽用のフィルターでは少しパワー不足になる可能性があるため、90cm水槽用のフィルター(外部式、上部式、あるいは外掛け式でも大型のもの)が選択肢になります。実水量に見合ったパワーのものを選びましょう。

フィルター選びは本当に奥が深いですが、まずはご自身の水槽の「実水量」に対応できるパワー(流量・ろ材容量)があるものを選ぶのが、失敗しないためのスタートラインです。

憧れの90センチ水槽、水量の理解から

さて、ここまで90センチ水槽の水量について、規格とスリムの違いから、実水量の計算、そして最重要課題である「総重量」と「床の耐荷重」まで、かなり詳しく掘り下げてきました。

「90センチ水槽の水量=約180L」という単純な情報だけを鵜呑みにすると見えてこない、いろいろな側面や、知っておかなければならない重要なリスクがあったかなと思います。

最後に、90センチ水槽という一つの「憧れ」と安全に向き合う上で、専門的な知識を持つ者としてではなく、同じアクアリウムを愛する「興味がある人」の視点から、特に覚えておいてほしいポイントをまとめます。

90cm水槽導入 3つの確認ポイント

  1. まず「寸法」を特定する
    検討している(あるいは所有している)90cm水槽は、奥行45cmの「規格(約182L)」ですか? それとも奥行30cmの「スリム(約59L〜97L)」ですか? まずはメジャーで実測するか、製品スペックを正確に確認し、ご自身の水槽の「満水量」を確定させてください。これが全てのスタートです。
  2. 管理には「実水量」を用いる
    魚病薬の投与、水質調整、生体数の計算には、満水量を使ってはいけません。生体の生命を守るための安全マージンとして、満水量に「0.85」を掛けた「実水量」を基準にするクセをつけてください。
  3. 「総重量」を最大警戒する
    特に90cm規格水槽の総重量は、水槽台や底砂、レイアウトを含め、250kgを優に超え、300kgに達することもあります。この重量が 90 × 45cm の面積に集中した場合、一般的な住宅の床の耐荷重(目安180kg/m²)を3〜4倍超過する危険性があることを、絶対に忘れないでください。設置には床の補強や、専門家による構造の確認が必須です。

「水量」は、アクアリウムの設計、生物の安全、設置の安全、そして日々の管理の容易さのすべてに直結する、最も重要な基本データです。

正確な数値を把握し、リスク管理を徹底すること。それが、憧れの90センチ水槽ライフを安全で持続可能なものにする、唯一の道かなと思います。しっかり準備して、素晴らしいアクアリウムを実現してくださいね。応援しています!