ゾウリムシの餌は何を使えばいい?定番の違いと分量の目安を解説
ゾウリムシを増やそうと調べ始めると、まず戸惑うのが餌の情報量だと思います。エビオス錠、強力わかもと、米のとぎ汁、豆乳、生茶、ドライイースト、生クロレラ、きな粉。どれも「これで増えました」と書かれていて、しかも書いてある分量がばらばら。結局どれを買えばいいのか分からないまま、時間だけが過ぎていく。私も最初はそうでした。
先に答えをお伝えします。ゾウリムシの餌は、栄養価で選ぶものではありません。というより、ゾウリムシは餌そのものをほとんど食べていないんです。食べているのは、その餌を分解して増えた細菌のほう。つまり餌の役割は「細菌をちょうどよく増やすこと」であって、そこさえ満たせば、どれを使っても増えます。
だとすれば、選ぶ基準は「入手しやすいか」「においに耐えられるか」「毎回同じ濃さで再現できるか」の3つになります。この記事では、その3つの物差しで定番の餌を並べ、それぞれの分量の目安と癖を整理していきます。読み終えるころには、自分の環境で続けられる1つが決まっているはずですよ。
なお、途中でエビオス錠と強力わかもとの成分に触れますが、どちらも人が飲むための指定医薬部外品です。この記事では培養で果たす役割の話しかしません。製品そのものの情報は、必ず各メーカーの公式サイトをご確認ください。
ゾウリムシの餌に何を使うかで変わること
餌の種類で変わるのは、増える量そのものではありません。変わるのは「立ち上がるまでの日数」「においの強さ」「同じ結果を再現できるか」の3つです。ここを取り違えて「いちばん増える餌」を探し続けると、いつまでも決まりません。
まず前提として、ゾウリムシは条件が合えばどの餌でも増えます。逆に、条件が合わなければどんな高級な餌でも増えません。ですから比べるべきは餌の優劣ではなく、自分が続けられるかどうかです。ここでは仕組みの話から始めて、定番の餌を1つずつ見ていきます。
もうひとつ先に言っておくと、餌にかかる費用はどれを選んでもたいした差になりません。錠剤タイプでも1本の培養に使うのは数粒で、300錠入りを1つ買えば数年は軽く持ちます。米のとぎ汁なら費用はゼロですが、そのぶん濃さが毎回変わる。つまり「安い餌を探す」という発想はあまり意味がなく、途中でやめずに済む餌を選ぶほうが結果につながります。この記事を読みながら、自分の生活に合うものを1つだけ決めてしまってください。
ゾウリムシは餌そのものを食べていない

まず押さえておきたいのが、ゾウリムシが食べているのは細菌だということです。ここが分かると、餌選びの景色が一気に変わります。
ゾウリムシは体長0.2〜0.3mm程度の単細胞生物で、体の表面にある繊毛で水をかき寄せ、口にあたる部分から細かい粒子を取り込みます。取り込めるものは細菌に限りません。酵母くらいの大きさの粒なら直接飲み込んで消化できますし、理科の実験ではその様子を観察したりもします。
ではなぜ「餌そのものではない」と言えるのか。数が続かないからです。入れた酵母は有限で、食べられればそれで終わり。一方、水に有機物を入れると細菌が増え始め、条件がよければ数十分で倍になっていきます。数日のうちに水面近くへ薄い白い膜ができるのは、この細菌が育っているからです。ボトルの中でゾウリムシの数を支え続けているのは、この増え続ける細菌のほうなんですね。
つまり餌は、ゾウリムシに直接食べさせるものというより、細菌を増やしてもらうために入れる有機物だと考えたほうが実態に合っています。そう捉えると、あとの判断がすべて楽になります。
この仕組みから分かる3つのこと
1つ目は、餌が多すぎると失敗するということ。細菌が一気に増えすぎると酸素を使い切り、水が腐ってゾウリムシが死にます。「たくさん入れたほうが増える」は成り立ちません。
2つ目は、餌を入れてすぐには増えないということ。細菌が育つ時間が先に必要なので、立ち上げ直後に白い点が見えなくても失敗ではありません。
3つ目は、餌の種類より濃さのほうが効くということ。同じ餌でも、量を間違えれば結果は変わります。だから「毎回同じ濃さにできるか」が選ぶ基準になるわけです。
ちなみに、この「細菌を食べる」という性質は、ゾウリムシが研究の現場で長く使われてきた理由のひとつでもあります。餌になる細菌さえ用意できれば、特別な設備なしに同じ状態を作り直せる。だから教育用の教材としても、生物学の研究材料としても定着してきました。家庭のペットボトルでうまくいくのは、条件が単純だからなんですね。
逆に言えば、うまくいかないときに疑うべきは「餌が合っていない」ではなく「細菌が育っていない」または「細菌が育ちすぎた」のどちらかということになります。細菌が育たない原因は、水温が低い・塩素が残っている・餌が少なすぎるの3つ。育ちすぎる原因は、餌が多い・空気が入っていない・置き場所が暑いの3つです。餌を変える前に、この6つを当たるほうがずっと早く原因にたどり着けます。
餌選びで見るのは入手性とにおいと再現性
物差しは3つだけで足ります。ここを決めておけば、新しい餌の情報を見ても迷わなくなります。
1つ目は入手性。近所で買えるか、通販で買い足せるか。培養は続けてこそ意味があるので、切らしたときにすぐ補充できるかは大きな要素です。特売のときだけ手に入るものは、長い目で見ると向きません。
2つ目はにおい。ゾウリムシの培養は、どの餌を使っても無臭にはなりません。ぬか漬けのような穏やかな発酵臭が出るのが正常な状態です。ただし、その強さと質は餌によってはっきり違います。室内に置くなら、ここは軽視できません。家族と暮らしているなら、なおさらです。
3つ目が再現性、つまり毎回同じ濃さにできるかどうか。錠剤なら「何粒」と数えられますが、とぎ汁や豆乳は「だいたいこのくらい」になります。うまくいったときに何が良かったのかが分からないと、次に同じ結果を出せません。初めての1本ほど、ここが効いてきます。
この3つの物差しで定番の餌を並べると、次のようになります。増えるか増えないかではなく、続けやすいかどうかで見てください。どれも実際に使われているものなので、この中から1つ選べば大きく外すことはありません。
| 餌 | 入手性 | におい | 再現性 | 分量の目安(500mL) | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|---|
| エビオス錠 | 薬局・通販 | 穏やか | 高い(粒で数える) | 1粒 | 初めての1本 |
| 強力わかもと | 薬局・通販 | 穏やか | 高い(粒で数える) | 1粒 | 初めての1本 |
| 米のとぎ汁 | 台所にある | やや強い | 低い(濃さが毎回違う) | ごく少量 | 費用をかけたくない人 |
| 豆乳 | スーパー | 強い | 中(計量はできる) | 数滴 | すでに家にある人 |
| ドライイースト | 製菓材料売り場 | やや強い | 中(計量スプーン) | 耳かき1杯程度 | ミジンコも育てる人 |
| 生クロレラ | 通販中心 | 穏やか | 中(要冷蔵) | 数滴 | 青水も併用する人 |
表の分量はいずれも一般的な目安で、水温や容器、種の量によって最適値は前後します。まずはこの量で1本立ててみて、増え方を見ながら次から調整するのが確実です。
エビオス錠|分量を数えられる定番

最初の1本に選ぶなら、エビオス錠はもっとも外しにくい選択です。理由は3つあって、粒で数えられること、薬局でも通販でも買えること、そしてにおいが比較的穏やかなことです。
アサヒグループ食品によると、エビオス錠は指定医薬部外品で、有効成分は乾燥酵母、いわゆるビール酵母です。乾燥酵母にはビタミンB群やたんぱく質、ミネラルのほか、グルカンやマンナンといった食物繊維、核酸などが含まれていると説明されています(出典:アサヒグループ食品)。
この構成が、培養では都合よく働きます。酵母そのものが有機物のかたまりなので水中の細菌がそれを分解して増え、その細菌をゾウリムシが食べる。しかも粒として固まっているので、水に入れてからゆっくり崩れていきます。一度に溶け出さないぶん、水が急に腐りにくいんですね。
使うときの分量と注意点
分量の目安は、500mL前後の水に対して1粒です。2Lのペットボトルなら3〜4粒あたりが出発点になります。研究の現場でも同じくらいの比率が使われていて、国立遺伝学研究所のNBRPメダカが公開している餌用ゾウリムシの継代培養では、450mLの脱イオン水に対してエビオス錠1錠とされています(研究用に不純物を除いた水なので、家庭ではカルキを抜いた水で構いません)。
注意したいのは、砕かずにそのまま入れることです。粉にすると一気に溶け出して細菌が急増し、水が傷みやすくなります。ゆっくり崩れることこそが錠剤の利点なので、そのまま落として、あとは軽く振るだけで十分ですよ。
どの容量を買えばいいか
エビオス錠は300錠から2000錠まで幅があります。培養だけが目的なら、いちばん小さいもので十分すぎるくらいです。500mLのボトルを月に2本立てるとして、使うのは月2粒。300錠なら計算上は10年以上持ちます。
とはいえ、錠剤にも品質を保てる期間があります。実際には、開封してから年単位で使い続けるより、シーズンごとに新しいものを買うほうが状態が安定します。使用期限は製品ごとに異なるので、購入時に確認してください。値段の差より、湿気ない場所に置けるかどうかのほうが効いてきます。
なお、小容量のものはパウチ入りで売られていることがあります。瓶入りに比べると密閉性では劣るので、長く置くつもりなら乾燥剤を一緒に入れるか、フタつきの容器へ移しておくと安心です。錠剤が湿気ると崩れ方が変わり、水に入れたときの溶け出す速さが読めなくなります。この記事がずっと言っている「再現性」は、保管の段階から始まっているんですね。
培養だけが目的なら、いちばん小さい容量で何年も持ちます。ドラッグストアで見つからないときは通販のほうが容量を選びやすいですよ。
迷ったときの最短ルート:エビオス錠か強力わかもとの、いちばん小さい容量を1つ買う → 500mLのペットボトルに水を8分目まで入れて1粒落とす → 種ゾウリムシを加えて軽く混ぜる → フタは軽く乗せるだけ → 室温20℃前後の暗めの場所へ。これで1〜2週間後には使える濃さになります。餌の種類で悩むより、この流れを一度通してしまうほうが早いです。
強力わかもと|麹菌が入ったもう一つの定番
強力わかもとも、エビオス錠と並ぶ定番です。どちらが優れているというより、手に入ったほうを使えばいい、という関係にあります。
成分の構成は少し違います。わかもと製薬によると、同社は昭和11年に麹菌の中から消化酵素の力価バランスに優れた菌株を見つけ、アスペルギルス・オリゼーNK菌と名付けました。この菌を米や麦の胚芽に植えつけて培養したものが主成分で、ほかに乳酸菌培養末と乾燥酵母(ビール酵母)が配合されています(出典:わかもと製薬)。
つまり、エビオス錠が酵母だけなのに対し、強力わかもとは麹菌の培養末と乳酸菌と酵母が混ざっている。培養の立場から見れば、細菌の餌になる有機物の種類が多いということです。実際に大学の教育用の培養法でも使われていて、東邦大学が公開している簡易な培養法では、500〜600mL入りのペットボトルに対して強力わかもとを1粒としています。
エビオス錠とどちらを選ぶか
正直に言えば、家庭の規模ではどちらでも大差ありません。判断材料になるのは値段と容量です。強力わかもとは300錠から、エビオス錠は300錠から2000錠まで複数のサイズがあります。1本の培養に1〜4粒しか使わないので、300錠でも相当に長く持ちます。まず安いほうを1本買って、なくなるころに好みで決めれば十分です。
どちらも人が飲むお薬の仲間なので、封を開けたら湿気と直射日光を避けて保管してください。培養に使うぶんには少量ですが、湿気た錠剤は崩れ方が変わって、水に入れたときの溶け出し方が読めなくなります。キッチンの棚ではなく、乾いた場所に置いておくといいですよ。
こちらが東邦大学の培養法で使われているほうです。麹菌の培養末と乳酸菌と酵母が入っていて、細菌の餌になる有機物の種類が多いのが特徴。エビオス錠とどちらでも構いません。
米のとぎ汁|費用ゼロだが濃さが読めない
米のとぎ汁は、昔からゾウリムシの培養に使われてきた定番です。費用がかからず、台所で毎日手に入る。この手軽さは大きな魅力です。
仕組みとしても理にかなっています。とぎ汁には米の表面から落ちたでんぷんやたんぱく質、ぬかの成分が溶けていて、これが細菌の餌になります。実際に増えますし、うまく回れば費用はゼロです。
ただし、初めての1本にはおすすめしません。理由はひとつで、濃さが毎回違うからです。研ぐ米の量、水の量、研ぎ方、何回目の水を使うか。そのすべてで濃度が変わります。うまくいった日があっても、次に同じ状態を作れない。つまり「増えなかったとき、何が違ったのか」が永久に分からないんですね。
使うなら1回目ではなく2回目以降
それでも使いたい場合は、最初に研いだ濃いとぎ汁ではなく、2回目か3回目の薄いほうを使ってください。濃いとぎ汁は有機物が多すぎて、細菌が増えすぎ、水が一気に傷みます。目安としては、うっすら白く濁る程度まで薄めたものを、水に対してごく少量だけ。
そして必ず、錠剤で一度成功させてから試すことをおすすめします。基準になる状態を知らないまま濃さが変わる餌を使うと、何が正常なのか判断できません。慣れてからのコスト削減策、という位置づけがちょうどいいと思います。
無洗米しか使っていない場合
無洗米は表面のぬかがすでに取り除かれています。それでも研げば水は白く濁りますが、これは主に米の表面のでんぷんが溶け出したもので、通常の精米より出てくる有機物は少なくなります。まったく使えないわけではないものの、濃さはいっそう読みにくい。無洗米しか買わないご家庭なら、最初から錠剤を選ぶほうが早いです。
また、とぎ汁は取り置きに向きません。常温で数時間置くと、培養容器へ入れる前に別の細菌が増えてしまい、においも変わります。使うなら、研いだその日のうちに。この「使いたいときに米を研いでいるとは限らない」という制約も、実は再現性を下げている一因なんですね。
とぎ汁で失敗する方に共通しているのが、「濃いほうが栄養がありそう」と思って、最初に研いだいちばん濃いとぎ汁を使ってしまうことなんです。気持ちはよく分かります。でも、ここでほしいのは栄養ではなく、細菌がゆっくり増えるくらいの薄い有機物。白濁がうっすら見える程度で十分ですよ。
豆乳や生茶やドライイーストという選択肢
このあたりは「使える」と紹介されることが多いものの、それぞれに癖があります。まとめて整理しておきます。
豆乳は、たんぱく質が豊富で細菌がよく増えます。そのぶん、においが強く出やすいのが難点です。入れる量もごく少なく、神戸市総合教育センターが公開している簡便な培養液の作り方では、市販のミネラルウォーター500mLに対して豆乳0.4mL、つまり10滴に満たない量とされています。少し白く濁る程度の濃さがよく、濃いとゾウリムシ自体が見にくくなるとも書かれています。スポイトで落とせるので計量自体はできますが、室内に置くなら、まず少量で試してにおいを確かめてからのほうが安全です。
生茶などの緑茶飲料も使われています。ただし、無糖であることが前提です。砂糖の入った飲料は細菌の増え方が激しく、水が短時間で腐ります。また製品によって成分が違うので、これも再現性という点では錠剤に劣ります。豆乳と生茶はどちらも飲料なので、開封したら冷蔵庫へ入れて、期限内に飲みきれる量だけ買うようにしてください。数滴しか使わないからと常温で置いておくと、次に使うころには飲料として傷んでいます。
ドライイーストは、ミジンコの培養でよく使われる餌です。ゾウリムシにも使えますが、量の調整が難しく、入れすぎると一気に濁って酸欠になります。目安は耳かき1杯程度。ミジンコも一緒に育てているなら、餌を共通化できる利点があります。ミジンコ側の使い方は生クロレラや青水を含めた餌の分量をまとめた記事で詳しく扱っていますので、併用を考えている方はそちらもどうぞ。
生クロレラは、青水(グリーンウォーター)づくりにも使える濃縮された藻類です。ゾウリムシの培養にも使えますが、要冷蔵で、開封後の日持ちがそれほど長くありません。青水を並行して維持している人なら選択肢に入りますが、ゾウリムシのためだけに買うものではないと思います。
きな粉を使う方法も紹介されることがあります。大豆由来のたんぱく質が細菌の餌になるという点では豆乳と同じ理屈です。ただ、粉のまま入れると水面に浮いて固まりやすく、沈んだぶんが底で腐ることがあります。使うなら、少量の水で溶いてから入れてください。においも豆乳と同様に強めに出ます。
そして、ときどき見かけるハイポネックスなどの植物用液肥ですが、これはゾウリムシではなく青水(グリーンウォーター)や植物プランクトンを増やすためのものです。ゾウリムシが食べる細菌を直接増やすわけではないので、この記事の文脈では対象外と考えてください。混同されやすいところなので、念のため触れておきます。
まとめると、この5つはいずれも「使えるが、最初に選ぶものではない」という位置づけです。すでに家にあるものを試したいときや、錠剤を切らしたときの一時しのぎとして覚えておくくらいがちょうどいいと思います。
この中で唯一、もともとアクアリウム用として売られているのが生クロレラです。青水(グリーンウォーター)やミジンコも並行して維持している方なら、餌をまとめられます。開封後は冷蔵保存が前提なので、使い切れる容量を選んでください。
ゾウリムシの餌の分量と足すタイミング
餌が決まったら、次は量とタイミングです。ここは種類の違いよりずっと結果に効きます。多すぎれば水が腐り、少なすぎれば増えない。しかも、どちらも見た目は「白く濁っている」なので、慣れないうちは区別がつきません。
この章では、水の量に対する分量の決め方、追加のタイミング、そして失敗の予兆をにおいで読む方法を順番に見ていきます。難しい計算は出てきません。覚えることは、比率がひとつと、判断基準がひとつだけです。
先回りしてお伝えしておくと、餌の量で迷ったときは必ず少ないほうを選んでください。足りなければあとから足せますが、入れすぎた水は元に戻せないからです。ゾウリムシの培養で「増えなかった」という失敗より、「水が腐って全滅した」という失敗のほうが圧倒的に多いのは、この非対称性に気づいていないことが原因だと思っています。
水の量に対する分量の目安
基本になる比率は水500mLに錠剤1粒です。この1つを覚えておけば、容器が変わっても迷いません。
2Lのペットボトルなら3〜4粒、1.5Lなら3粒、500mLなら1粒。きっちり計算する必要はなく、多いより少なめに寄せるほうが安全です。足りなければあとから足せますが、入れすぎた水は元に戻せませんから。
錠剤以外の餌も、この比率を基準に換算していきます。豆乳なら500mLに数滴、ドライイーストなら耳かき1杯程度、とぎ汁なら薄めたものをごく少量。どれも「水がうっすら白く濁る程度」に収まる量です。入れた直後に向こう側が見えなくなるようなら、確実に多すぎます。
この「うっすら白く濁る程度」という表現が分かりにくければ、ペットボトルの向こう側に指を立てて、輪郭がぼんやり見えるくらい、と考えてください。指が完全に隠れるなら濃すぎ、はっきり見えるなら薄すぎ。数字より、この見え方で覚えてしまったほうが失敗しません。容器が違っても、水の量が違っても、同じ基準が使えるからです。
なお、複数のボトルを同時に立てるときは、必ず同じ比率でそろえてください。片方を濃く、片方を薄くして比べたくなりますが、水温や置き場所といった別の条件も違っていると、何が効いたのか分からなくなります。比べるなら、変える条件はひとつだけ。地味ですが、これが遠回りに見えていちばん早いです。
濁りが引かないときは入れすぎ
判断の目安になるのが、濁りが引くかどうかです。餌を入れた直後は白く濁りますが、2〜3日のうちに少し落ち着いてくるのが正常な動きです。1週間たっても真っ白なまま、あるいは日に日に濃くなっていくなら、細菌が処理しきれない量の有機物が入っています。
この状態になったら、餌を足すのをやめて様子を見てください。それでも改善しないときは、濃い部分から少量だけ取って、新しく作った薄めの培養液へ移すほうが早いです。傷んだ水を立て直すより、種を救って作り直すほうが確実ですよ。
追加の餌はいつ足すのか
ここは意外と知られていないのですが、頻繁に足す必要はありません。ゾウリムシの培養は、魚の餌やりとはまったく違う感覚で考えてください。
基本は、立ち上げのときに入れた1回分だけで最後まで回ります。1〜2週間かけて細菌が育ち、ゾウリムシが増え、やがて餌が尽きて数が減っていく。減り始めたら新しい容器へ植え継ぐ、というのが標準的な流れです。つまり足すのではなく、作り直すのが基本なんですね。
ただし、長く持たせたい場合には足すという選択肢もあります。東邦大学の簡易な培養法には、1か月に1粒を加えることで6か月まで培養したという記述があります。同時に、あまり長期に同じボトルを使い続けることは勧めない、とも書かれているので、あくまで例外的な使い方として知っておく程度でいいと思います。
足すときは半量から
もし足すなら、最初に入れた量の半分から試してください。すでに細菌がいる水に満量を入れると、増え方が急になって酸欠を起こしやすくなります。錠剤なら半分に割るか、次の1粒を入れるのは2週間後、といった間隔で考えるくらいがちょうどいいです。
先に挙げた東邦大学の例は1か月に1粒でしたが、あれは6か月という長期の実績の話です。最初のうちは2週間おきくらいの短い間隔で、水の濁りとにおいを見ながら足すほうが安全だと思います。慣れて自分の環境での崩れ方が分かってきたら、間隔を延ばしていけばいい。どちらが正しいというより、様子を見られる頻度に合わせて決めるものだと考えてください。
においが変わったら餌が多いサイン

培養がうまくいっているかどうかは、実はにおいでかなり分かります。しかも見た目より早く変化が出るので、毎日ふたを開けて嗅ぐだけで、崩れる前に気づけます。
正常なのは、ぬか漬けやパン生地に近い、酸味のある穏やかな発酵臭です。少し酸っぱい程度なら問題ありません。これが腐った卵のような硫黄のにおいや、ドブのような臭いに変わったら、酸素が足りず水が傷んでいます。
原因のほとんどは餌の入れすぎです。ほかにはフタを閉めすぎて空気が入っていない、置き場所が暑すぎる、といったところ。対処としては、フタをゆるめる、涼しい場所へ動かす、次に作るときの餌を減らす、の順に試してください。
においが出ない場合は餌が少ない
逆に、1週間たってもまったく無臭のままなら、餌が少なすぎるか、水温が低すぎて細菌が育っていない可能性があります。この場合はゾウリムシも増えていないはずなので、光を当てて白い点が見えるか確認してみてください。見えなければ、餌をもう半量足すか、暖かい場所へ移してみましょう。
屋内と屋外で餌を変えるべきか
結論としては、ゾウリムシの培養は屋内が基本なので、餌を使い分ける必要はほとんどありません。ここはミジンコとはっきり違うところです。
ミジンコの場合、屋外なら青水や太陽光を利用でき、屋内なら扱いやすいドライイーストを使う、といった選び分けが成り立ちます。屋外での管理についてはペットボトルで増やすときの管理のコツをまとめた記事が参考になります。
一方でゾウリムシは、光合成をする生き物ではないので日光が要りません。むしろ直射日光は水温を上げて水を傷めるだけです。屋外に置くメリットが乏しいぶん、餌も室内向けの選び方、つまりにおいが穏やかなものを優先すればいい、ということになります。
季節によって餌を変える必要もありません。ただし、夏は同じ量でも細菌の増え方が速くなるので、量を少し減らすか、植え継ぎの間隔を短くするほうが安全です。冬は逆に立ち上がりが遅くなりますが、ここで餌を増やしてはいけません。細菌が増えないのは水温が低いからであって、有機物が足りないからではないためです。冬に足すべきは餌ではなく、温度のほうなんですね。
なお、屋外のビオトープなどでゾウリムシが自然に湧くことはあります。ただしそれは培養とは別の話で、この記事の範囲を超えます。針子に安定して与えたいなら、室内でボトル培養するほうが確実です。針子の管理そのものは全滅を防ぐ餌と水換えの基本をまとめた記事にまとめています。
培養に使った水をそのまま大量に水槽へ入れないでください。培養水には餌の残りと大量の細菌が含まれているので、まとまった量を入れると水が白く濁り、酸素が消費されます。針子の容器は水量が少ないぶん影響が出やすいところです。スポイト1杯程度から始めて、水が濁らない範囲にとどめてください。濁るようなら入れすぎのサインです。
ゾウリムシの餌についてよくある質問
エビオス錠と強力わかもと、結局どちらが増えますか?
家庭の規模では、はっきりした差は出にくいと考えてください。どちらも実際に教育や研究の現場で使われていて、東邦大学の簡易な培養法では強力わかもとが、国立遺伝学研究所のNBRPメダカの手順書ではエビオス錠が使われています。つまり、どちらも実績があるということです。
成分の構成は違います。エビオス錠は乾燥酵母が有効成分で、強力わかもとは麹菌の培養末と乳酸菌と乾燥酵母が配合されています。細菌の餌になる有機物の種類は強力わかもとのほうが多いのですが、それが増え方の差になるほど単純ではありません。手に入ったほうで始めて構いません。
錠剤を砕いて入れたほうが早く増えますか?
砕かないほうが安全です。錠剤の利点は、水の中でゆっくり崩れていくことにあります。少しずつ有機物が供給されるので、細菌が急激に増えすぎず、水が傷みにくいんです。
粉にして入れると、短時間で一気に溶け出します。立ち上がりは早く見えますが、そのぶん細菌が増えすぎて酸素を使い切り、せっかくのゾウリムシが死んでしまうことがあります。早く増やしたいなら、餌を細かくするより、水温を20℃前後に保つほうが確実です。
餌を入れたのに白い点が見えません。失敗ですか?
立ち上げから数日なら、まだ失敗とは限りません。細菌が育ってからゾウリムシが増えるという順番なので、最初の数日は見た目にほとんど変化が出ないのが普通です。水面近くに薄い白い膜ができていれば、細菌が育っているサインなので、そのまま待ってください。
確認するときは、透明なコップに少し取って、黒い下敷きなどを背景に横から光を当ててみてください。上から覗いても白い水の中の白い点は見えません。1週間以上たっても何も見えず、においもまったくしないなら、水温が低すぎるか餌が少なすぎる可能性があります。
餌を複数まぜて使ってもいいですか?
混ぜても増えますが、初めのうちはおすすめしません。理由は結果の切り分けができなくなるからです。うまくいっても、いかなくても、どの要素が効いたのかが分からないままになります。
慣れてきて、自分の環境での標準的な立ち上がり方が分かってからなら、試す価値はあります。その場合も、片方の量はそのままにして、もう片方をごく少量足す形にしてください。両方を規定量入れると、合計では倍の有機物が入ることになり、水が傷みやすくなります。
ゾウリムシ専用の培養液は買ったほうがいいですか?
必須ではありません。市販の専用培養液も販売されていて、分量が決まっているぶん扱いやすいのは確かです。ただ、値段を考えると、錠剤1本を買ったほうが長く使えることがほとんどです。
専用品が向いているのは、においを極力抑えたい場合や、どうしても安定しなくて原因を絞り込みたい場合です。まずは錠剤で試して、それでも納得がいかないときの選択肢として考えれば十分だと思います。製品ごとに使い方が異なるので、購入前に必ず公式の説明をご確認ください。
まとめ|ゾウリムシの餌は続けられるもので選ぶ

ここまで、ゾウリムシの餌について仕組みから分量まで見てきました。最後に要点を整理しておきます。
いちばん大事なのは、ゾウリムシは餌そのものではなく、餌が育てた細菌を食べているということです。これが分かると、「たくさん入れれば増える」という発想がなくなります。餌の役割は細菌をちょうどよく増やすこと。だから量は、多いより少なめに寄せるのが正解です。
選ぶ基準は、入手性・におい・再現性の3つ。この物差しで見ると、初めての1本はエビオス錠か強力わかもとが有力です。どちらも薬局や通販で買え、においが穏やかで、何より粒で数えられます。分量の目安は水500mLに1粒、2Lなら3〜4粒。米のとぎ汁は費用がかからない魅力がありますが、濃さが毎回変わるので、錠剤で一度成功してから試すほうが遠回りになりません。
足すタイミングについては、そもそも頻繁に足すものではありません。立ち上げの1回分で1〜2週間回り、減ってきたら新しい容器へ植え継ぐ。これが標準的な流れです。うまくいっているかどうかは、においで判断できます。ぬか漬けのような穏やかな発酵臭なら正常、硫黄やドブのようなにおいに変わったら餌の入れすぎか酸素不足のサインです。
餌選びで悩む時間は、正直あまり生産的ではありません。どれを選んでも条件さえ合えば増えますし、条件が合わなければどれを選んでも増えないからです。近所で買えて、においに耐えられて、同じ量を毎回入れられるもの。その1つを決めて、まず1本立ててみてください。針子が生まれる季節に間に合えば、それがいちばんの成果ですよ。
なお、この記事で紹介した分量や日数はいずれも目安であり、水温や容器、種の状態によって結果は変わります。エビオス錠・強力わかもとはどちらも人が飲むための指定医薬部外品ですので、製品そのものの正確な情報は各メーカーの公式サイトをご確認ください。生き物の状態について迷う点があれば、最終的な判断は専門家や販売店にご相談いただければと思います。稚魚の餌全体をどう組み立てるかについてはゾウリムシやPSBと人工餌の使い分けを整理した記事もあわせてどうぞ。


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