水槽のpHが上がる原因を徹底解説!下げる対策と理由とは
こんにちは。THE AQUA LAB、運営者の「所長」です。
水槽のpHが勝手に上がる現象に悩んでいませんか。実は、水質がアルカリ性に傾く原因には、底床の大磯砂やレイアウトの石、エアレーションによる二酸化炭素の揮発、あるいは新しい水槽のセット初期特有の不安定さなど、さまざまな要因が複雑に関係しています。pHを下げる対策を講じてもすぐにリバウンドしてしまう場合、まずは水槽内で起きている化学反応や、カキ殻やサンゴ砂といった素材の影響、さらにはソイルの吸着能力の限界について正しく理解することが大切です。この記事では、私の経験も交えながら、水質変化のメカニズムと具体的な解決策についてお話しします。
- 水槽のpHが勝手に上がってしまう化学的なメカニズムがわかります
- エアレーションやレイアウト素材が水質に与える影響を理解できます
- pHの上昇が魚やエビなどの生体に及ぼす具体的な危険性を学べます
- 環境に合わせた適切なpH管理と安定させるための対策が身につきます
知っておきたい水槽のpHが上がる原因と基本
まずは、なぜ水槽のpHが意図せず上がってしまうのか、その基本的なメカニズムについて解説します。目に見えない水の中で起きている化学的な変化を知ることで、適切な対策が見えてきます。
新しい水槽のpHが高い理由とは
水槽を立ち上げたばかりの時期、いわゆるセット初期にpHが高くなる現象は、多くのアクアリストが経験する通過儀礼のようなものです。私も最初の頃は「なんでこんなにアルカリ性なんだろう」と首をかしげたものでした。水道水は中性付近のはずなのに、水槽に入れた翌日にはpHが7.5や8.0を超えている、なんてことは珍しくありません。
これには主に2つの大きな理由が関係しています。
1つ目は、新品の砂利や擬岩ブロックなどのコンクリート製品から、アルカリ成分が溶け出している可能性です。特に安価な砂利や、海砂由来の底床材、あるいはレイアウトの土台として使用したセメント製品などは、製造過程での洗浄が不十分だったり、素材そのものの性質としてカルシウム分を含有していたりします。これらが水に触れることで、初期段階でカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分を一気に放出することがあるのです。これがKH(炭酸塩硬度)を押し上げ、結果としてpHを高い数値で安定させてしまいます。
2つ目は、生物濾過がまだ機能していないことです。これは意外と見落とされがちなポイントです。通常、安定した水槽内では「硝化バクテリア」という微生物が定着し、魚の排泄物(アンモニア)を分解する活動を行っています。この硝化プロセス(アンモニア→亜硝酸→硝酸塩)が進む際、バクテリアは水素イオン(H+)を放出します。つまり、正常な濾過活動が行われている水槽には、常に「水を酸性化させようとする圧力」がかかっているのです。
しかし、立ち上げ直後の「若い水槽」には、このバクテリアがまだ十分に定着していません。そのため、pHを下げる働きをする酸性化圧力がほとんど存在せず、相対的に水道水本来のpHや、前述した素材からのアルカリ溶出の影響がダイレクトに出てしまうのです。これが、セット初期にpHが高止まりしやすい生物学的な理由です。
初期のpH上昇は焦らなくてOK 多くの場合、立ち上げから2週間〜1ヶ月ほど経過し、バクテリアが定着して水がこなれてくると、硝化作用によって自然とpHは下がってきます。生体に深刻なダメージがない限り、pH降下剤などの薬品で無理に下げるよりも、定期的な換水をしながらじっくり待つ姿勢が大切です。薬品による急激な変動の方が、バクテリアの定着を阻害することもあります。
エアレーションでpHが上がる仕組み

エアレーションでCO2が抜けてpHが上がる
「エアレーションをするとpHが上がる」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは魔法でもなんでもなく、物理的な「ガス交換」の法則(ヘンリーの法則)による現象です。
水の中に溶けている二酸化炭素(CO2)は、水と反応して炭酸(H2CO3)となり、水を酸性にする性質を持っています。つまり、水中のCO2濃度が高ければ高いほどpHは下がり(酸性になり)、低ければ低いほどpHは上がります(アルカリ性に近づきます)。
ここでエアレーションの出番です。ブクブクと泡を立てて水を攪拌すると、水面が揺らいで表面積が増え、水中に溶け込んでいるガスと、空気中のガスの交換が促進されます。もし、水槽内のCO2濃度が空気中のCO2濃度よりも高い場合、エアレーションによって過剰なCO2が大気中へと追い出されていきます。これを「脱気(だっき)」と呼びます。
日本の水道水は、水源や配管の圧力の関係で、蛇口から出た直後は比較的高濃度のCO2を含んでいることがあります(そのため汲み置き水はpHが低いことがあります)。この水を水槽に入れてエアレーションを行うと、CO2が抜けていくため、数時間でpHが0.5〜1.0ほど上昇し、pH 7.0〜7.8付近で安定することがよくあります。これが「水換え直後はpHが低いのに、しばらくすると勝手に上がる」現象の正体です。
特に注意が必要なのは、水草水槽でCO2を強制添加している場合です。せっかくボンベからCO2を溶かし込んで弱酸性を作っているのに、同時に強力なエアレーションをしてしまうと、溶かしたそばからCO2が逃げてしまい、pHが一気に上がってしまいます。逆に言えば、夜間に酸欠防止でエアレーションを行うことは、夜間の植物の呼吸によるCO2過多と、それに伴うpHの急激な低下(酸欠とアシドーシスの併発)を防ぐ効果があるとも言えますね。
大磯砂の酸処理とpHの関係

pHを上げる“犯人”は砂利と石かもしれない
アクアリウムの歴史と共に歩んできた定番の底床材「大磯砂」。非常に優れた濾過材として機能しますが、「pHが上がって下がらない」という悩み相談が後を絶たない素材でもあります。実は、現在流通している大磯砂の多くは、フィリピンなどの海外から輸入された「海産の砂利」です。
海で採れる砂利ですから、当然そこには小さな貝殻やサンゴの破片がたくさん混入しています。これらは「炭酸カルシウム(CaCO3)」の塊です。炭酸カルシウムは、酸性の水に触れると化学反応を起こして溶け出し、カルシウムイオンと炭酸塩を放出します。これにより、水の総硬度(GH)と炭酸塩硬度(KH)の両方が上昇し、結果としてpHが7.5〜8.0以上の弱アルカリ性で強力に固定されてしまうのです。
そこで、大磯砂を水草水槽などで使用するために行うのが「酸処理」という前処理作業です。これは、使用前に酸性の液体に砂利を浸け込み、pH上昇の原因となる貝殻やサンゴ片をあらかじめ溶かして除去してしまうテクニックです。
手順のイメージをより具体的に掴みたい方は、大磯砂を酸処理する手順と必要性も合わせて確認してみてください(貝殻成分の反応・中和までの流れが整理されています)。
具体的な酸処理の方法
一般的には、薬局や100円ショップで手に入る「クエン酸」を使用します。食酢でも可能ですが、匂いがきついのと酸度が低いため、クエン酸の方が効率的です。
- バケツに洗った大磯砂を入れます。
- 砂が浸るくらいの水を入れ、大量のクエン酸を投入して溶かします(かなり濃い目でOKです)。
- すると、貝殻成分と反応して「シュワシュワ」と音を立てて発泡し始めます。これが反応している証拠です。
- そのまま数日から1週間ほど放置し、発泡が収まるのを待ちます(途中で酸を追加することもあります)。
- 最後に、酸が残らないように徹底的に水で濯ぎ洗いをして完成です。
未処理の大磯砂に注意 酸処理をしていない新しい大磯砂をそのまま使うと、pHが中性〜弱酸性を好む多くの熱帯魚(テトラやラスボラなど)や水草にとっては過酷な環境(pH 8.0前後)になりかねません。特にCO2添加を行うと、CO2が酸として働き、さらに貝殻を溶かすスピードを早めて硬度を上げてしまう悪循環に陥ります。弱酸性を目指すなら、酸処理済みの製品を購入するか、ご自身で処理を行うことを強く推奨します。
流木を入れてもpHが下がらない時は

流木やソイルが“裏切る”理由(緩衝の綱引き)
アクアリウムのセオリーとして「流木を入れると水が酸性になる」とよく言われます。これは流木から溶け出すタンニンやフミン酸・フルボ酸といった有機酸の成分が、pHを下げる働きをするからです。ブラックウォーターと呼ばれる茶色い水は、まさにこの作用の結果です。
しかし、実際には「流木をたっぷり入れたのにpHが全然下がらない、むしろ上がっている」というケースも珍しくありません。なぜセオリー通りにいかないのでしょうか。
最大の理由は、流木の酸性化能力よりも、石や砂利からアルカリ成分が溶け出す力(緩衝能力)の方が圧倒的に強いケースが大半だからです。これを「緩衝作用の綱引き」と考えるとわかりやすいでしょう。流木が一生懸命「pHを下げよう」として酸を出しても、水槽内に龍王石などの石灰質を含む岩石や、未処理の大磯砂、あるいは硬度の高い水道水が存在すると、それらが持つ豊富なアルカリ成分(炭酸水素イオン)が即座に酸を中和してしまいます。
化学的には、炭酸塩によるpH維持能力(アルカリ度)は非常に強力で、流木から出る微弱な有機酸程度では太刀打ちできないことが多いのです。
また、流木のアク抜き処理自体が原因になることもあります。市販の流木の中には、アク(タンニン)を早く抜くために重曹(炭酸水素ナトリウム)を使って煮沸処理されているものがあります。重曹はアルカリ性物質ですので、この成分が流木の内部に残留していると、水槽に入れた後に徐々に染み出してきてpHを上昇させる原因になります。
流木の役割を再確認 流木はあくまで「水を自然な雰囲気にし、生体に良い成分を出す」ものと考え、pHを下げるメインの手段として過度な期待はしない方が無難です。pHを確実に下げたい場合は、まずは石や底床を見直し、その上でピートモスやRO水(逆浸透膜水)の使用を検討するのが近道です。
龍王石などの岩石からの成分溶出
水草レイアウト(ネイチャーアクアリウム)で世界的に人気のある「龍王石(昇龍石)」や「青華石」。その鋭いエッジと霜降りのような白い模様は、山岳レイアウトを作る上で欠かせない美しい素材です。しかし、この美しさには代償があります。これらの岩石は、水質(pHと硬度)を上昇させる代表的な素材なのです。
龍王石などの多くのレイアウト石は、地質学的には石灰岩や変成岩の一種であり、その成分中に多量の炭酸カルシウムを含んでいます。水槽の水が弱酸性(pH 7.0未満)であろうとすると、酸性の水が岩石の表面を持続的に溶かしにかかります。化学反応式で言えば CaCO3 + 2H+ → Ca2+ + H2O + CO2 という反応が進み、水中の酸(水素イオン)が消費されてしまうのです。酸が減るということは、pHが上がることを意味します。
この溶出プロセスにより、水槽のGH(総硬度)とKH(炭酸塩硬度)は上昇し続けます。特にKHが高くなると、pHはアルカリ性側で強力にロック(緩衝)され、CO2を添加してもpHが下がりにくくなります。これを「硬度が上がる」と言い、水草の成長阻害(頂芽の萎縮など)の原因にもなります。
| 素材名 | pH・硬度への影響 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 龍王石・昇龍石 | 大きく上がる | 白や青みがかった石。石灰分を多く含み、酸処理しても内部から溶出し続ける。硬度上昇対策が必須。 |
| 青華石 | 上がる | 龍王石に似た性質。個体差はあるが、基本的には水を硬くし、pHを上げる傾向が強い。 |
| 気孔石(黄虎石) | 変化少ない〜微増 | 茶色く蜂の巣のような穴が空いた石。成分溶出は比較的少ないが、泥を多く含んでいるため洗浄が必要。 |
| 溶岩石 | 変化少ない | 多孔質でバクテリアが定着しやすい。水質への化学的影響は非常に少なく、pHを変動させにくい安全な石。 |
| 山谷石 | 変化少ない〜微増 | 安価で手に入りやすい石。影響は少ないものが多いが、採取地によっては硬度を上げるものもある。 |
もし、「pHを低く保ちたい」「南米産の水草やカラシンを元気に育てたい」という目的が最優先であれば、デザイン性だけでなく、石の化学的性質も考慮して選ぶ必要があります。龍王石を使いつつpHを下げたい場合は、こまめな換水を行うか、カチオンフィルター(軟水器)を通して硬度を取り除いた水を使用するなどの高度な管理が求められます。
生体に危険な水槽のpHが上がる原因と対策

pHの数値より恐ろしい本当の危険
pHの数値そのものよりも怖いのは、それが生体に与える毒性の変化や急激なショックです。「たかがpH」と侮っていると、ある日突然、大切な魚たちが全滅してしまうリスクすらあります。ここでは、特に注意すべきリスクと、具体的な対策について深掘りしていきます。
pH上昇でアンモニア毒性が強まる

大量換水で“隠れアンモニア”が猛毒化する
ここが今回、一番お伝えしたい極めて重要なポイントです。実は、水槽内の主要な汚染物質である「アンモニア」の毒性は、pHの値によって劇的に変化する性質を持っています。
魚の排泄物などから発生するアンモニアは、水中では「アンモニウムイオン(NH4+)」と「遊離アンモニア(NH3)」という2つの状態でバランスを保って存在しています。このバランス(化学平衡)を支配しているのがpHと水温です。
- pHが低い(酸性)時: 大部分が「アンモニウムイオン(NH4+)」として存在します。これは毒性が非常に低く、魚に対して比較的無害です。
- pHが高い(アルカリ性)時: 平衡が移動し、猛毒の「遊離アンモニア(NH3)」の割合が急激に増えます。これは魚のエラから血液中に侵入し、神経毒として作用します。
例えば、長期間水換えをサボってpHが6.0付近まで下がっていた「古い水槽」があったとします。この水槽内には、濾過不足でアンモニアが溜まっているかもしれませんが、pHが低いため無害なアンモニウムイオンとして蓄積されており、魚は平気な顔をして泳いでいます(これを「隠れアンモニア」と呼ぶこともあります)。
ここで、「水が汚れているから」と、pH 7.5の水道水で半分以上の大量換水を行ったらどうなるでしょうか。水槽のpHは一気に7.0以上に上昇します。すると、それまで無害だった蓄積アンモニアが一瞬にして猛毒の遊離アンモニアに変換され、魚が苦しみだしたり、最悪の場合はショック死してしまったりします。これが「pHショック」や「水換え後の急死」の正体の一つです。厚生労働省のデータでも、アンモニアの毒性はpH環境に依存し、アルカリ性側で魚類への毒性が顕著になることが示されています(出典:厚生労働省 職場のあんぜんサイト『アンモニア』)。
pHを上げる時は要注意 pHが低い水槽のpHを上げる(元に戻す)時は、まず少量ずつ水換えを行って物理的にアンモニアを排出してから、時間をかけてゆっくりpHを戻していくのが鉄則です。pH調整を行う前に、必ずアンモニア試薬で濃度をチェックする習慣をつけると安心ですね。
また、水換えだけでなく「メンテナンス(ろ材掃除)」でもpHが急変してショックが起きることがあります。心当たりがある方は、水槽フィルター掃除頻度の最適解と、pHショックを防ぐ手順も合わせて確認しておくと安心です。
水草の光合成による日内変動について

光合成がつくるpHの日内変動
水槽のpHは、一度測定したらその値でずっと固定されているわけではありません。一日の中で、波のように常に変動しています。これを「日内変動(にちないへんどう)」と言いますが、この変動を引き起こす最大のドライバーは、水草や藻類による「光合成」活動です。
理科の授業で習った通り、植物は光エネルギーを使って二酸化炭素(CO2)と水から栄養を作り出します。 日中、照明が点灯している時間帯は、水草が活発に光合成を行い、水中のCO2を吸収・消費し続けます。前述の通り、CO2は水中で酸として働く物質です。それがどんどん消費されてなくなっていくわけですから、水槽の水は酸性を失い、pHはぐんぐん上昇していきます。
逆に夜間、照明が消えると光合成はストップし、植物も動物と同じように酸素を吸ってCO2を吐き出す「呼吸」のみを行います。すると水中のCO2濃度は徐々に高まり、pHは朝方にかけて下がっていきます。
水草が元気に繁茂した水槽では、この変動幅が非常に大きくなることがあります。例えば、朝一番(点灯前)にはpH 6.5だった水が、夕方(消灯直前)にはpH 8.0近くまで上昇している、ということも珍しくありません。pH 1.0の差は水素イオン濃度で言えば10倍の差です。これほど大きな変動が毎日繰り返されると、適応力の低い魚やエビにとっては大きなストレスとなり、体調を崩す原因になります。
対策としては、夜間にエアレーションを行うことが有効です。夜間のエアレーションは酸素供給だけでなく、呼吸によって過剰になったCO2を追い出す効果があるため、pHの下がりすぎ(底値)を防ぎ、変動幅をマイルドにする効果が期待できます。
日内変動を「感覚」ではなく「データ」で掴むには、測定の精度と手間のバランスが大切です。pH管理をきちんとやりたい方は、水槽pH測定器の選び方(校正・精度の考え方)も参考になります。
カキ殻を使ってpHを安定させる
「pHが下がりすぎて困る」「酸性になりすぎて魚が調子を崩す」という場合に、古くから日本の金魚飼育などで使われている伝統的かつ便利なアイテムが「カキ殻(牡蠣殻)」です。
カキ殻は、文字通り牡蠣の殻を砕いて洗浄・乾燥させたもので、主成分は炭酸カルシウムです。これをろ過槽や水槽内に入れておくと、pHが酸性に傾いた時にだけ自然に溶け出し、カルシウムと炭酸塩を供給して中和してくれます。
カキ殻の素晴らしい点は、ある程度pHが上がると溶けるスピードが落ちるため、上がりすぎる心配が少ないという「自己制御機能」にあります。化学的な平衡の原理により、水が中性〜弱アルカリ性(pH 7.5付近)になると溶解度が下がり、それ以上溶けにくくなるのです。そのため、市販のpH上昇剤(アルカリ性の薬剤)のように、入れすぎてpH 9.0になってしまった!という事故が起きにくい、非常に安全な緩衝材と言えます。
もし、あなたの水槽がソイルの寿命などでどうしても酸性に傾きすぎて不安定なら、ろ過槽にネットに入れたカキ殻を少量入れてみてください。非常に穏やかに、しかし確実にpHを底上げし、安定させてくれるはずです。
カキ殻使用の注意点 カキ殻はpHを「上げる」方向には働きますが、「下げる」効果はありません。また、硬度(GH)も同時に上昇させるため、硬度を嫌う一部の水草や、極端な軟水を好む南米産の魚(アピストグラマなど)の繁殖を狙う場合には不向きです。金魚、メダカ、グッピー、プラティなどの中性〜弱アルカリ性を好む魚には最適なアイテムです。
ソイルの吸着限界とpHの関係
水草水槽で一般的に使われる「ソイル(焼成土)」を使っているのに、最近なぜかpHが上がってくる、下がりにくくなった、という現象に遭遇したことはありませんか?それはもしかすると、ソイルの「寿命」が近づいているサインかもしれません。
通常、水草用のソイルには、陽イオン交換作用という機能が備わっています。これは、水中のカルシウムやマグネシウムなどの陽イオン(硬度成分)をソイルの粒が吸着し、代わりに水素イオン(H+)を放出するという働きです。この働きにより、ソイルを入れた水槽は自然と軟水・弱酸性の環境が維持されるようになっています。
しかし、この吸着能力には限界(キャパシティ)があります。スポンジが水を吸える量に限界があるように、ソイルが吸着できるイオンの量にも限りがあるのです。これを「吸着飽和」や「ブレイク」と呼んだりしますが、吸着容量がいっぱいになると、それ以上硬度成分を吸着できなくなり、水素イオンの放出も止まります。こうなると、ソイルによるpH降下作用は失われます。
また、龍王石などを多用しているレイアウトの場合、石から溶け出すアルカリ成分の総量が、ソイルの吸着能力を上回ってしまうことがあります。こうなると、新品のソイルを使っているのに最初からpHが下がらない、あるいは通常半年〜1年持つはずのソイルの効果が数ヶ月で切れてしまう、という現象が起こります。ソイルの魔法は永遠ではない、ということを覚えておき、pHが上がり始めたらソイルの交換や、追肥、あるいはピートモスなどの補助的な酸性化剤の使用を検討する時期と言えるでしょう。
硝化バクテリアの活性と水質変化

バクテリアの働きがpHを下げる圧力になる
最後に、水槽の要である「バクテリア」とpHの密接な関係について解説します。水をきれいにする主役である「硝化バクテリア(ニトロソモナス、ニトロバクター等)」は、魚の排泄物であるアンモニアを硝酸塩へと分解する過程で、水中の炭酸塩(アルカリ度)を消費し、水素イオン(酸)を放出します。
少し専門的な話になりますが、硝化反応の化学式を見ると、1分子のアンモニアが硝酸塩に変わる過程で、2分子の水素イオンが生じることがわかります。つまり、濾過が順調に機能し、バクテリアが元気に働いている水槽は、化学的に見れば徐々にpHが下がっていくのが自然な姿(酸性化プロセス)なのです。長く維持している水槽のpHが酸性に傾きやすいのは、このバクテリアの働きによるものです。
逆に言えば、水槽を立ち上げてからいつまで経ってもpHが下がらず高いままというのは、もしかするとバクテリアがまだ十分に定着しておらず、働いていないサインかもしれません。特に立ち上げ初期は、この「酸性化圧力」がないため、水道水のpHや石からの溶出の影響がそのまま現れ、pHが高止まりしやすいのです。
バクテリアもpHが低いと苦手? 実は、硝化バクテリア自身もpH環境に敏感です。一般的に中性〜弱アルカリ性(pH 7.0〜8.0)で最も活性が高く、pH 6.0を切るような酸性環境になると、その活動は著しく低下してしまいます。pHがあまりに低くなりすぎると、今度はバクテリアが働かなくなり、アンモニアや亜硝酸が分解されずに残ってしまう「濾過崩壊」のリスクも出てきます。酸性なら良いというわけではなく、バランスが重要なんですね。
水槽のpHが上がる原因を正しく理解する

力でねじ伏せず、バランスでpHを制する
ここまで見てきたように、水槽のpHが上がる原因は、決して一つではなく、複合的な要素が複雑に絡み合っています。底床や石などの「素材」が持つ地球化学的な性質、エアレーションやCO2添加といった「物理的なガス交換」、植物の光合成やバクテリアの代謝といった「生物学的な活動」。これらがパズルのように組み合わさって、今のあなたの水槽のpHが決まっているのです。
「pHが高いから、とりあえず下げる薬を入れよう」という安易な対症療法だけでは、根本的な原因(例えば石からの強力な溶出など)が解決されていない限り、すぐにリバウンドしてしまいます。それどころか、pHの乱高下を招き、最悪の場合は生体に致命的なショックを与えてしまうことさえあります。
まずはご自身の水槽で何が起きているのかを冷静に観察しましょう。素材は何を使っているか、いつ(朝か夜か)pHが変動しているか、水槽を立ち上げてからどれくらいの期間が経っているか。原因を特定し、自然の摂理に逆らわず、ゆっくりと環境を整えていくことが、アクアリウムを長く、そして安全に楽しむための最大のコツだと私は思います。
この記事が、あなたの水槽管理の謎を解くヒントになり、美しい水景と元気な魚たちを守る一助となれば嬉しいです。

水槽は小さな地球(pHは結果の指標)
※本記事の情報は一般的なアクアリウムの知識に基づくものですが、水質管理の結果を保証するものではありません。薬剤の使用や水質調整は、飼育環境に合わせて自己責任で行ってください。生体の異変を感じた場合は、専門ショップ等への相談をお勧めします。


