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ベタのラビリンス器官とは|空気呼吸の仕組みと稚魚・水面・水位の注意点

ⓘ 広告 ▰ ベタ
水槽の中を泳ぐベタと、ラビリンス器官の仕組みと飼い方をまとめた記事の表紙

ベタのラビリンス器官とは?空気を吸える仕組みと飼い方で守りたいこと

THE AQUA LAB 所長(イラスト)

こんにちは。THE AQUA LAB、運営者の所長です。

ベタが水面に口を出して、ぱくっと空気を吸ってはまた潜っていく。あの動きを見て“苦しいのかな?”“このままで大丈夫?”と気になったこと、ありませんか。あれはベタのラビリンス器官を使った空気呼吸で、ラビリンス器官の仕組みや役割を知っておくと、水面での息継ぎやエラぶたから出る小さな泡の意味がぐっと読みやすくなりますよ。

一方で、“ラビリンス器官があるからコップでも飼える”“ブクブク(エアレーション)は要らない”という話だけが一人歩きしやすいのも、正直なところかなと思います。ラビリンス器官はどこにあるのか、エラ呼吸とはどう使い分けているのか、稚魚はいつから空気呼吸を始めるのか。このあたりを、論文や研究機関の飼育手順をもとに整理していきます。

後半では、ラビリンス器官を持つベタだからこそ気をつけたい水面・水位・ふたの整え方と、息継ぎの回数が増えたときの見分け方までまとめました。読み終わるころには、水面に上がるベタの姿を“落ち着いて見ていていい場面”と“手を打つ場面”に分けて見られるようになるはずです。

  • ラビリンス器官がある場所と、空気から酸素を取り込む仕組み
  • エラ呼吸との関係と、資料ごとに分かれる“空気呼吸は必須か”の見方
  • 稚魚がまだ空気呼吸に頼れない時期と、繁殖で気をつけること
  • 水面・水位・ふたの整え方と、息継ぎが増えたときの見分け方
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ベタのラビリンス器官とは?場所と空気呼吸の仕組み

まずは、ベタのラビリンス器官そのものの話から始めます。どこにあって、どんな形をしていて、空気を吸ってから吐くまでに体の中で何が起きているのか。ここが分かると、水面での行動の一つひとつに理由があることが見えてきます。

この章では、器官の場所と構造、空気呼吸の流れ、エラ呼吸との関係(資料によって見方が分かれるところ)、稚魚がまだ空気呼吸に頼れない時期、そして泡巣作りやフレアリングとのつながりを順番に見ていきます。資料は、海外の論文(総説・実験・形態の研究)と、研究用のベタの飼育手順をまとめた論文、魚類のデータベース、国内の飼育向けの案内を中心にしています。少し理屈っぽい話も出てきますが、後半の飼い方の章はすべてここが土台になっているので、ゆっくり読んでみてくださいね。

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ラビリンス器官はエラの上にある空気呼吸の器官

結論からいうと、ラビリンス器官はエラのすぐ上、エラぶたの内側にある空気呼吸のための器官です。外から見える場所にはなく、頭の左右に1つずつ、対になって収まっています。

もう少し詳しく見てみましょう。ベタを含むアナバス類(総説では亜目として扱われるグループで、資料によっては目として分類されます)の魚を扱った2017年の総説論文(英国ロイヤル・ホロウェイ校などの研究チーム・Tate ら、Journal of Fish Biology)によると、この仲間は約137種で、アフリカと南アジアの淡水に暮らしています。そして、どの種もエラの上に鰓上腔(さいじょうこう)と呼ばれる左右一対の空間を持っていて、その中にラビリンス器官が1つずつ入っている、と説明されています。鰓上腔は、いちばん前のエラ(第1鰓弓)の上の部分から両側へ張り出すように広がった空間です。

ラビリンス器官そのものは、複雑な形をした骨の構造に、薄くて血管がたっぷり通った呼吸のための上皮(表面の膜)がかぶさったもの。表面にひだがたくさんあり、そのおかげで空気に触れる面積が大きく広がっています。ラビリンス(labyrinth)は英語で「迷路」の意味なので、入り組んだひだの様子からついた名前と考えてよさそうです。日本語の解説では「迷路器官」と書かれることもあります。

国内の飼育向けの解説では、エラの上皮が変形発達した器官という言い方もよく見かけます。たとえばホームセンター(komeri.com)が株式会社キョーリンの資料協力で載せている「ベタの飼い方」のページでは、ラビリンス器官を「エラの上皮が変形発達した」器官と紹介しています。総説は第1鰓弓から張り出した空間の中にある骨の構造として説明していて、説明の細かさはかなり違いますが、エラのすぐそばにある空気用の呼吸器官という点は共通しています。

ひとつ知っておきたいのは、この器官があることで失っているものもあるという点です。先ほどの総説では、ラビリンス器官がエラぶたの内側の空間に入り込んでいるぶん、この仲間のエラは空気呼吸をしない魚に比べて小さめになっている、と書かれています。ただしベタについては、同じ仲間の中でも差があります。2018年12月にオンライン公開された形態の論文では、酸素の足りた水で育てたベタの稚魚のエラの面積は、比べたブルーグラミーの約3倍あったと報告されています。仲間の中ではエラをしっかり使う側の魚、と考えておくと、このあとの話がつながりやすいと思います。

ちなみに、ラビリンス器官の大きさや形には、種ごとの決まったパターンは見つかっておらず、体の大きさや頭の骨の形といった個々の条件が形を左右する大事な要素とされています。同じベタでも、育ち方によって器官の表面積が変わることは、稚魚の章で研究の数字とあわせて紹介しますね。

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水面で空気を吸ってから泡を出すまでの流れ

水面に口を出したベタのエラぶたのあたりから小さな泡が出ている様子と、空気呼吸の説明のスライド
水面で空気を吸う行動とラビリンス器官

ベタの空気呼吸は、“水面で吸う → 鰓上腔にためる → 酸素を血液に移す → 吐き出して入れ替える”という流れで進みます。水面に上がるたびに、前に吸った空気を出して新しい空気に詰め替えているイメージです。

この動きはX線の映像で調べられていて、先ほどの総説がその内容をまとめています。流れを順に追うと、次のようになります。

  • エラぶたの内側の空間がふくらんだり縮んだりして水を鰓上腔に押し込み、中に残っていた古い空気を押し出す
  • 口の中がふくらんで、押し出された空気を口へ移す。水中ならその空気は泡として吐き出され、水面にいればそのまま空気中へ出ていく
  • 吐き出したあとに新しい空気を吸い込み、必要より多いぶんはエラぶたのすき間から出ていく

総説では、吐き出すときには多くの場合、鰓上腔の中の空気がすっかり空になるとも書かれています。アナバス類についての記述なので、ベタでもおおむね、1回の息継ぎで中の空気をほぼ入れ替えていると考えてよさそうです。この呼吸のしかたは二段のポンプにたとえて説明されたあと、のちの研究で準備・逆流・拡張・圧縮の4段階に分けて説明し直されています。

では、吸った空気の酸素はどう体に入るのか。総説によると、心臓から出た血液は前のほうのエラ(第1・第2鰓弓)を通ってラビリンス器官へ流れ、空気の泡が鰓上腔にとどまっている間にそこで酸素を受け取ります。血液はここで酸素を十分に受け取ってから心臓へ戻っていく、という流れです。

飼っている人にとって役に立つのは、エラぶたのあたりから出る小さな泡の意味です。ベタの稚魚の空気呼吸を調べた2014年の実験論文(米国ノーステキサス大学の Burggren らのグループ・第一著者は Mendez-Sanchez、Journal of Fish Biology)では、稚魚を酸素の少ない水に短時間入れて調べる際に、水面に上がって空気を吸い、そのあとエラぶたのすき間から気体の泡を出した個体を、空気呼吸をしたと数えています。水面から戻ったベタのエラぶたのあたりから小さな泡がぽろっと出るのは、余った空気を出しているごく普通の動きと考えてよいわけです。

逆に、水面にずっと口をつけたまま離れない動きは、空気を吸っては潜る息継ぎとは見た目が違います。総説では、空気呼吸が生まれた道すじの推定として、酸素が足りなくなったときに魚が水面で口を動かして酸素の取り込みを続ける水面呼吸(ASR)が先にあり、それが空気呼吸のもとになったと考えられる、と紹介されています。これは進化の推定の話ですが、飼育中のベタで似た姿が続くなら、水中の酸素が足りていないサインの可能性がある、と私は考えています。この見分けは後半の“息継ぎが増えたとき”の章でくわしく扱いますね。

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エラ呼吸とラビリンス呼吸の関係|資料で分かれる見方

ラビリンス器官は酸素の取り込みを補い、エラはアンモニアと二酸化炭素を出して酸素を取り込むという役割の違いを示したスライド
ラビリンス器官とエラ呼吸の役割分担

ここがいちばん誤解されやすいところです。結論を先にいうと、ベタはエラ呼吸とラビリンス器官による空気呼吸を併用していて、どちらか一方だけで生きているわけではありません。ただ、“空気呼吸をしないと生きられないのか”については、資料によって書き方が分かれています。

空気呼吸をする魚は、“空気呼吸が必須(obligate)”なタイプと“必要なときに使う任意(facultative)”タイプに分けて語られます。総説の定義では、任意タイプはふだんはあまり空気を吸わず、水中の酸素が少ないときや体が酸素を多く必要とするときに主に空気を吸う魚。必須タイプは、エラの面積が小さいために水の状態や体の状態に関係なく常に空気呼吸を使う魚、とされています。そのうえで総説は、この2つの線引きはいつもはっきりしているわけではなく、同じ個体でも時によって、また個体の間でも種の間でも、空気の取り込み方は変わる、とも書いています。

では、ベタはどちら側として書かれているのか。今回あたった資料を並べると、次のようになります。

資料 ベタ(またはその仲間)の書き方 書かれている範囲・条件
Tate ら(2017年・総説論文) アナバス類を“空気呼吸が必須(obligatory air-breathing)”の淡水魚のグループと紹介 約137種のグループ全体の紹介文。同じ論文で、必須と任意の線引きは必ずしもはっきりしないとも書いている
Mendez-Sanchez と Burggren(2014年・実験論文) ベタは受精後36日以降は“空気呼吸が必須ではない(non-obligatory)”と結論 稚魚の実験。考察で、必須でない魚は酸素の足りた水なら水中の呼吸だけで生きられるとする先行研究を引いている。比べたスリースポットグラミーは「必須」側
Mendez-Sanchez と Burggren(2018年オンライン公開・形態の論文) ベタ=“任意(facultative)”、ブルーグラミー=“必須(obligate)”と題名から書き分け 稚魚のエラとラビリンス器官の形を比べた研究
FishBase(魚類の国際データベース) “Facultative air-breathing(任意の空気呼吸)” ベタ(Betta splendens)の種のページの生態の欄
ホームセンター(komeri.com)の「ベタの飼い方」(キョーリン資料協力) 空気中から直接酸素を取り入れられるので、コップなどの水中でも、酸素が少ない環境でも飼育できる 家庭向けの飼育の案内。必須か任意かには触れていない

並べてみると、ベタ(Betta splendens)という種に絞って書いている資料は「任意」寄りで、アナバス類というグループ全体を紹介する文では「必須」と書かれている、という形になっています。ベタの種のページ(FishBase)と、同じ研究者による2本の論文が「任意」と書いている以上、ベタ自身は、空気も吸えるけれどエラも主役の魚と理解しておくのがいちばん近いかなと思います。

もうひとつ大事なのが、エラの役割は酸素だけではないという点です。総説によると、空気呼吸をする魚はすべてエラを残していて、エラは水中でのガス交換、とくにアンモニアと二酸化炭素を体の外へ出す役目を担っています。ラビリンス器官で酸素を補えても、アンモニアを出す仕事はエラ。水が汚れればエラに負担がかかるのは、空気呼吸をしない魚と変わらないわけです。

ここまでの要点:ベタはエラとラビリンス器官の両方で呼吸する魚です。ベタの種に絞った資料では空気呼吸は「任意」とされますが、アンモニアを体の外へ出すのはエラの仕事。だから飼育では“水面にいつでも楽に届くこと”と「水中の水質」の両方を守る、という考え方が安全側です。

“任意なら水面に出られなくても平気なのでは?”と考える人もいるかもしれません。ここは試さないでください。任意とされる根拠は、酸素の足りた水ならという条件つきで、水槽の中の酸素がいつも足りているとは限りません。研究室の飼育手順でも、水面に届くことを前提に話が組み立てられています(後半で紹介します)。分からないことを魚で確かめるより、いつでも水面に行ける状態を保つほうがずっと確実です。

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稚魚にはまだラビリンス器官が働いていない

ここは繁殖を考えている人にとくに知っておいてほしい話です。ベタの稚魚が空気呼吸を始めるのは、受精してしばらくたってからです。それまでは、エラの呼吸に頼って育ちます。

総説によると、アナバス類はラビリンス器官が働く状態で生まれてくるわけではなく、器官は成長とともに大きくなり、若い魚は成熟するまでエラに頼っている、とされています。稚魚が空気をのみ込むような動きを見せることはあっても、それは器官ができあがるよりずっと前のことだそうです。

では、空気呼吸はいつから始まるのか。先ほどの2014年の実験論文が、ベタの稚魚で毎日調べています。この実験では、受精した日を0日として数え(受精後日数)、酸素を極端に減らした水に10分入れて空気を吸いに上がるかどうかで“空気呼吸を始めたか”を判定しました。結果は次のとおりです。

  • 酸素の足りた水で育てたグループでは、空気呼吸の開始は平均で受精後39日(37〜42日)、半数が空気を吸うようになったのは受精後38日
  • 予備の実験で親の違う3つの卵のグループを比べると、開始の平均は26日・26日・40日で、親(卵のグループ)によって大きくばらついた
  • それまでの報告では、アナバス類の空気呼吸の開始は、種ごとに幅のある受精後18〜29日の範囲とされていた
  • 夜だけ酸素を少し減らした水で育てると、ベタでは開始が4日早まった

つまり、この実験のベタでは空気呼吸の始まりが受精後23〜42日(3週間あまり〜6週間)の幅に散らばっていました。ずれの大半は親(卵のグループ)の違いによるもので、酸素の条件による差は数日でした。同じ論文では、酸素の少ない水に昼も夜も置き続けたグループ(水面の上の空気も同じように酸素を減らした、逃げ場のない条件)は、ベタもスリースポットグラミーも受精後9日までにすべて死んでいます。空気呼吸に頼れない時期の稚魚は、水中の酸素が足りないと持ちこたえられないことが分かる結果です。

研究機関の飼育手順も、この時期の稚魚に気を配っています。米国の比較医学誌 Comparative Medicine に2022年に載った、研究用のベタの飼い方をまとめた論文(研究室で実際に使っている手順の紹介)では、受精後5〜14日の稚魚を水の高さ約5cmの浅い止水に移し、水面に楽に行けるようにしている、と書かれています。水面に届くことで、生存率の低下につながる酸素不足の状態を防げる、という説明です。(出典:Care and Use of Siamese Fighting Fish (Betta splendens) for Research(Comparative Medicine, 2022))

補足:2018年にオンライン公開された同じ研究者の形態の論文では、夜だけ酸素を少し減らした水で育てたベタの稚魚は、ラビリンス器官の表面積が30%大きくなったと報告されています。ただし同じ論文で、酸素をもっと強く減らした条件ではこの増え方は見られず、エラの面積は約4割小さくなり、体つきの指標も下がっていました。低酸素で育てる利点とは読めない結果なので、わざと酸素を減らして育てるのは真似しないでください(この論文は要旨で確認しています)。

家庭での繁殖に置きかえると、稚魚の時期は“空気呼吸にまだ頼れない”“でも水面には行ける”の両方を整えておく、ということになります。浅めの水位で水面までの距離を短くしつつ、水を汚しすぎない。この2つを同時に見るのが、ラビリンス器官から見た稚魚育ての基本かなと思います。

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泡巣作りやフレアリングとの関係

ラビリンス器官は呼吸のためだけの器官ではなく、ベタの代表的な行動である泡巣作りやフレアリングとも深く結びついています。この2つを知っておくと、水面での行動の「理由」がさらに読み取りやすくなりますよ。

泡巣は水面の空気と口の中の粘液から作られる

総説によると、繁殖期のオスのベタは水面から空気をのみ込み、口の中の粘液と混ぜて、粘液に包まれた泡を水面の植物のあいだに吐き出していきます。こうして浮かぶ泡巣ができあがり、オスとメスはその下でペアになって産卵します。総説は、泡巣作りという行動が発達したこととラビリンス器官を持っていることは結びついている、とまとめています。

総説では、泡巣には卵を細菌から守ったり、酸素や栄養を届けたりする働きもあるとされ、ふ化したあとも稚魚が頭の小さな突起で泡にくっついて身を守るのに使われるそうです。泡巣が健康のサインになるのか、作らないときにどう考えるかはベタの泡巣を作らない理由と水質悪化の泡との見分け方でくわしく整理しています。

フレアリングのあとは息継ぎが増える

オスのベタがエラぶたを大きく広げて威嚇するフレアリング。実はこの動き、エラにとってはかなりの負担です。総説によると、この仲間がエラぶたを広げる威嚇は、エラの上を水が十分に流れなくなり、自分から酸素の足りない状態に入るようなものだと説明されています。そのうえで、エラぶたを広げている時間や尾をたたく動きの長さは、長いほど空気呼吸の回数が多い傾向がある、という研究が紹介されています。

さらに、オスのベタでは1回の息継ぎで取り込む酸素の量は、落ち着いているときと威嚇しているときで大きく変わらないという研究(2013年)も引かれています。1回あたりの量はもう上限に近いと考えられていて、たくさん酸素が要るときは息継ぎの回数を増やして補っている、という見方です。鏡を見せたあとや、隣の水槽のオスが見えたあとにベタが何度も水面へ上がるのは、この仕組みから考えると自然な動きです。

ちなみに、オスどうしが向き合っているときに、片方が水面へ行くともう片方もついて行って一緒に息継ぎをする、という行動も総説で紹介されています。隣り合う水槽のオスどうしが見えると威嚇と息継ぎが増えやすいと考えられるので、仕切りで視線を切る意味はここにもあります。

ラビリンス器官を持つベタの飼い方で気をつけること

ここからは、ベタのラビリンス器官の性質を、毎日の飼い方にどう生かすかの話です。前の章のポイントは“空気も吸えるけれどエラも主役”“稚魚はまだ空気呼吸に頼れない”“たくさん動くと息継ぎが増える”の3つでした。

この章では、水面までの通り道、水位と水深、ふたと水面の上の空間、“コップで飼える”という話の読み方、そして息継ぎが増えたときの見分け方を順番に扱います。どれも特別な道具は要らず、置き方や水の量を少し変えるだけでできることばかりです。最後によくある質問とまとめもつけています。なお、ベタを迎える前の準備から日々の世話の順番までを通して知りたい方は、ベタの飼い方を迎える前の準備から1週間後まで順番に解説した記事もあわせてどうぞ。

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水面までの通り道をふさがない

浮き草を水面の一部に寄せて開いた場所を残し、水面近くに休み場所を置いたベタ水槽の図
水面までの通り道と水位の整え方

ラビリンス器官を持つベタにとって、水面は“空気の取り込み口”です。私がいちばん大事だと考えているのは、水面のどこかに、ベタが口を出せる開いた場所がいつもあることです。ここをふさぐものは、見た目の問題ではなく呼吸の問題として考えてください。

油膜は呼吸のたびに破る膜になる

水面に張る油膜は、ベタ水槽でよく出る悩みのひとつです。ベタは空気を吸うたびに水面に口を出すので、膜が張っていると口を出しにくくなると考えられます。油膜は放っておかず、早めに取るのがおすすめです。なお、繁殖期のオスが作る泡巣は油膜とは別物なので、取らないでください。原因の見分け方と取り方はベタ水槽の白いモヤと油膜の見分け方と対策にまとめています。

浮き草は「全面」にしない

浮き草や水面に浮かべる飾りは、ベタの隠れ場所や休み場所になるので、うまく使えば心強い味方です。先ほどの研究用の飼育手順では、プラスチックの植物の飾りを2種類使っています。1つは吸盤で水槽の側面に付けるタイプで、これを水面から数cm以内の高さに付けると、ベタがハンモックのようにその上で休む姿がよく見られる、と書かれています。もう1つは水面に浮かんで水中へ垂れ下がるタイプです。

ただ、浮き草が水面を全部おおってしまうと、口を出せる場所が減ってしまいます。浮き草を入れるなら、水面の一部に寄せて、開いた場所を必ず残しておく。これだけで「休み場所」と“空気の取り込み口”を両立できますよ。

水面のすぐ下に休み場所があると楽になる

ヒレの大きなベタは泳ぎが重くなりがち、と飼育の場ではよく言われます。水面近くに体を預けられる葉や足場があると、息継ぎのたびに底から泳ぎ上がらずに済みます。研究室の手順書でも水面近くの植物でハンモックのように休む姿が観察されているので、置いてみる価値はあると思います。

水面の近くに付けられる休み場所としては、吸盤で水槽の側面に留めるベタ用の葉の飾りがあります。付ける高さは、研究室の手順書と同じく水面から数cm以内が一つの目安です。サイズや価格、在庫は購入前に各ショップでご確認ください。

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水位と水深は水面までの距離で考える

水位は“水が多いほうが安心”とだけ考えがちですが、ベタの場合は“底から水面までの距離”という見方を足しておくと判断しやすくなります。空気を吸うたびに水面まで泳ぐので、その距離が体の状態に合っているかが大事なんです。

参考になるのが、研究用の飼育手順で使われている水の高さです。受精後5〜14日の稚魚は高さ約5cm、繁殖用の水槽は高さ約10cmの水を張っていると書かれています。稚魚は水面に楽に届くよう、浅く、流れのない水にしているわけですね。

同じ手順書には、浮き沈みの調子を崩した魚について、水面に届いて息ができるかぎり、育成水槽で沈みがちな若い魚は成長とともに落ち着いていく、という書き方があります。同じ手順書では、沈みは成長途中の魚に多く、餌のやりすぎと結びついていることが多い、とも書かれています。裏を返せば、体が沈みがちな魚にとっては、水面に届けるかどうかが分かれ目になるということです。

家庭の水槽に置きかえると、次のように考えると整理しやすいかなと思います。資料にあることと、一般的な飼育上の工夫を分けて書きます。

  • 体が沈みがちな若い魚は、まず餌の量を見直す(研究室の手順書では、沈みは餌のやりすぎと結びつくことが多いとされる)
  • ヒレが重い品種や弱っている個体は、水位を少し下げて水面までの距離を縮めるのも一つの方法(これは一般的な飼育上の工夫で、今回の資料にある方法ではない)
  • 稚魚は浅い水で水面に楽に届くようにする(研究室の手順書)

ただし、水位を下げると水の量そのものが減ります。水の量が減れば水温や水質は変わりやすくなるので、下げすぎは逆効果になりかねません。ヒーターには水に沈めておく位置の指定があることも多いので、水位を変えるときは製品の説明書も確認してください。正確な情報は各メーカーの公式サイトでご確認くださいね。

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ふたの隙間と水面の上の空間

ふたをした水槽で、水面とふたの間に息継ぎのための空気の層を残す考え方を示したスライド
飛び出しを防ぐふたと水面上の空気層

ベタの水槽には、ふたをしたうえで、水面とふたの間に空気の層を残す。これがラビリンス器官を持つ魚に向いた形だと私は考えています。ふたは飛び出しを防ぎ、空気の層は息継ぎの場所になります。

研究用の飼育手順では、野生由来の系統などは、餌を入れるためのふたの穴や、ふたと水槽のすき間から飛び出す傾向があるので、ふたはいつもきちんと閉めておく必要がある、と書かれています。餌用の穴には網目が約3mmのメッシュテープを貼り、餌は通しても魚は通れないようにしているそうです。ベタが“すき間を通って出てしまう”魚であることがよく分かる対策ですね。

同じ手順書では、ふたにはほかの役目もあります。育成用の水槽には蒸発しすぎを防ぐためのふたを付け、繁殖用の水槽にはアクリルのふたをかぶせて中の湿度を高く保っています(繁殖用の水槽が90%、飼育室は約25%)。湿度を保つと泡巣がこわれにくくなる、という理由です。

ここで気をつけたいのは、ふたをしても水面との間に空気の層がなくなってはいけない、という点です。水をふたのすぐ下までなみなみと入れてしまうと、ベタが口を出す空間がなくなります。水位を少し下げて、水面の上に息継ぎのための空間を残しておいてください。飛び出しを防ぐふたの選び方と、水位を下げすぎたときの問題についてはベタの飛び出し防止とふた・水位の注意点で整理しています。

なお、“水面の上の空気が冷たいとラビリンス器官を傷める”という話を見かけることがありますが、今回あたった論文や研究機関の資料には、それを確かめた記述は見つかりませんでした。とはいえ、ふたに蒸発を減らしたり湿度を保ったりする働きがあることは研究用の手順からも分かりますし、ふたをしておく理由は飛び出し防止だけでも十分にありますよ。

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コップで飼えるという話は酸素の話で水質の話ではない

“ラビリンス器官があるからコップでも飼える”という話は、半分だけ正しい、と考えておくのが安全です。空気を吸えるので小さな容器でも酸素が尽きにくいのは確かですが、それは酸素の話。水の汚れ、つまりアンモニアの問題は別に残ります。

前に紹介したホームセンターの「ベタの飼い方」のページ(キョーリン資料協力)は、ラビリンス器官で空気中から酸素を取り入れられるので、コップなど小さな容器でも飼える、と説明しています。同じページは水替えの目安を「月に2~3回」としていますが、これは販売店の簡易な案内です。当サイトの水換えの記事では、ろ過のない500mL〜1Lのボトルなら毎日の全換水、ろ過のない2〜5Lの小型水槽なら週2〜3回の全換水を目安にしていて、こちらのほうがずっとこまめです。小さな容器で飼うなら、販売店の案内の回数より多く換える前提で考えてください。

海外の資料に目を向けると、見方はもう一歩慎重です。FishBase のベタの種のページでは、オスをごく小さな容器で飼うことはすすめられない、という一文が添えられています。(出典:FishBase:Betta splendens)

研究用の飼育手順も見てみましょう。成魚は1匹ずつ0.8Lか1.4Lの小さな水槽で飼われていますが、それぞれの水槽には管で水がずっと流れ込み、水は水槽の後ろから出てろ過へ回る、循環式の設備に組み込まれています。手順書によると、ろ過を通ったきれいな水が1分あたり約150mLずつ各水槽へ入り、そのぶんの水が後ろから押し出されてろ過へ戻ります。計算すると、1.4Lの水槽なら約9分(1.4÷0.15≒9.3分)で、水槽の容積と同じ量のろ過した水が流れ込むことになります。新しい水はこれとは別に、設備全体の水の15%を毎日入れ替えていて、ろ過も物理・生物・活性炭・紫外線の多段です。そのうえで、毎週の水質検査でアンモニア・亜硝酸・硝酸塩が検出されない状態を保てている、と書かれています。手順書には、水質が良く保たれていれば成魚はいろいろな大きさの水槽で飼える、という一文もあります。

同じ手順書には、若い魚を1匹ずつ150mLという小さな水量で育てると成長がいちばん早かったという先行研究と、その研究ではいちばん小さな水量の容器でアンモニアの値がいちばん高かった、という話も紹介されています。この研究室は、多くの魚を一緒に飼いながらアンモニアを低く抑えるために、若い魚を35Lの育成水槽で育てているそうです。小さな容器で飼えているのは、こうした水の入れ替えとろ過の仕組みがあるからだと考えられます。小さな容器に水をためて置いておく飼い方とは、前提がまったく違うわけです。

注意:ラビリンス器官が補ってくれるのは酸素だけです。アンモニアを体の外へ出すのはエラの仕事なので、水が汚れればエラに負担がかかります。小さな容器ほど汚れがすぐに濃くなるので、容器を小さくするほど水換えの回数を増やす必要があります。

総説には、アナバス類がよどんだ水や汚れた水でも生き延びやすいのはラビリンス器官のおかげ、という生態の話も出てきます。ただ、これは野外で「生き残れる」という意味で、飼育で“元気に長生きできる”とは別の話です。汚れた水でもすぐには死なないからこそ、具合の悪さに気づくのが遅れやすい、と考えておいたほうがいいかもしれません。水換えの回数と量の決め方はベタの水換え頻度と水質管理の基本を参考にしてください。

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水面に上がる回数が増えたときの見分け方

ベタが水面に上がる回数が増えたときの様子・考えられること・まずすることを表にしたスライド
水面に上がる回数が増えたときの見分け方

ベタが水面に上がること自体は、ラビリンス器官を使ったふつうの呼吸です。気にしたいのは“いつもより増えた”“上がり方がいつもと違う”とき。ふだんの回数は個体や水槽で違うので、何回なら正常という決まった数はありません。だからこそ、ふだんの様子を基準にして、増えたときの「状況」で見分けるのが現実的です。

ここまでの資料をもとに、よくある場面を表にしました。

見えている様子 考えられること まず確かめること・すること
鏡や隣の水槽のオスを見てヒレを広げたあと、何度も水面に上がる フレアリングでエラに水が通りにくくなり、空気呼吸で補っている 見える位置の刺激を減らす。研究用の飼育でも、成魚の水槽の間に白いアクリルの仕切りを置いて威嚇を防いでいる
水温が上がった日に、上がる回数が増える 一般に水温が高いほど水に溶ける酸素は減る。総説の定義では、空気呼吸が任意の魚は水中の酸素が少ないときや酸素が多く要るときに主に空気を吸う 水温計を見る。ベタの水温の記事では目標を25〜28℃としている(FishBase のベタの記載は24〜30℃)。外れていたら置き場所や室温を見直す
水面に油膜や消えない泡があり、口を出しにくそう 水面の膜が息継ぎのじゃまになっている 油膜を取る。出る原因(餌の残りなど)も見直す。繁殖期のオスが作る泡巣は取らない
底から上がるのがつらそう、体が沈みがち 若い魚では、沈みは餌のやりすぎと結びつくことが多いとされる(研究室の手順書)。ヒレの重さも一因と言われる 餌の量を見直す。水面近くに休み場所を作る・水位を少し下げるのも一つの方法
水面に浮いたまま沈めない、お腹が丸く膨れている 研究用の飼育では、餌と一緒に空気をのみすぎた可能性と、細菌感染で内臓が傷んでいる可能性が挙げられている 餌を止めて様子を見る。研究室の報告では24〜48時間の絶食で約半数が回復、残りは回復しなかった。続くなら専門家に相談
水面に口をつけたまま離れない、じっとしている 空気を吸って潜るふだんの息継ぎとは違い、水中の酸素不足や水質の悪化、病気のサインのことがある すぐに水温とアンモニアを測り、一部の水を換える。数時間〜1日たっても戻らなければ、専門家や購入したお店に相談

表のうち、いちばん気にしてほしいのは最後の行です。ふつうの息継ぎは“上がる、吸う、すぐ潜る”の短い動きで、潜ったあとにエラぶたから小さな泡が出ることもあります。これに対して、水面にずっととどまって口をつけたままの状態は、空気呼吸だけでは追いつかないほど水中の環境が悪くなっている可能性があります。エラは酸素を取るだけでなくアンモニアを出す役目も持っているので、水が汚れると呼吸の様子にも表れやすいと考えられます。

反対に、上がる回数が多少増えていても、餌をよく食べ、ヒレを広げて泳ぎ、上がったらすぐ潜っているなら、まず水温と水質(アンモニア)を測り、問題がなければ食欲と泳ぎ方を見ながら様子を見る、という順番がおすすめです。そのうえで、回数の増え方が急だったり、ほかの変化(食欲が落ちる、色がくすむ、ヒレをたたむ)がいっしょに出ていたりしたら、水質と水温から順に確かめてみてください。体調の判断に迷うときは、最終的な判断は専門家や購入したお店にご相談ください。

アンモニアは見た目では分かりません。表の最後の行のような場面ですぐに確かめられるよう、アンモニアを測れる試験紙を1つ用意しておくと動きやすくなります。測れる項目や価格、在庫は購入前に各ショップでご確認ください。

ベタのラビリンス器官についてよくある質問

ラビリンス器官は外から見えますか?

生きているベタを外から見て、ラビリンス器官そのものを確かめることはできません。器官はエラの上の鰓上腔という空間の中、エラぶたの内側に左右一対で収まっているからです。外から分かるのは、水面で空気を吸う動きと、そのあとエラぶたのあたりから出る小さな泡くらいです。

ラビリンス器官を持つ魚はベタのほかにもいますか?

います。ベタが属するアナバス類(ラビリンスフィッシュとも呼ばれます)は約137種あり、3つの科に分かれます。総説論文に出てくるだけでも、ブルーグラミー(スリースポットグラミー)、パラダイスフィッシュ、キノボリウオなどがこの仲間です。観賞魚として身近なグラミーの種類と特徴はグラミーの種類一覧と特徴にまとめています。

ラビリンス器官があればエアレーション(ブクブク)は要りませんか?

今回あたった資料には、エアレーションについての直接の記述はありませんでした。酸素の足りた水なら水中の呼吸だけで生きられるとする研究はありますが、水槽の酸素がいつも足りているとは限りません。水温が高い日や、水面が油膜などで使いにくいときは、酸素を補う手段としてエアレーションが役に立ちます。ただ、ベタはエラも主役で使っている魚なので、水中の酸素が足りていることにも意味があります。エアレーションを使うなら、ヒレの大きなベタが流されない弱めの泡にとどめ、水面に口を出せる静かな場所を残しておくとよいと思います。

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まとめ|ベタのラビリンス器官を知って水面と水質の両方を守る

ベタのラビリンス器官は、エラの上の鰓上腔に左右一対で収まった、ひだの多い骨の器官です。水面で吸った空気をそこにため、血液に酸素を移し、次の息継ぎでほぼ入れ替える。水面から戻ったベタのエラぶたから出る小さな泡は、その空気呼吸のふつうの動きです。

ただ、空気を吸えるからといってエラが脇役になるわけではありません。ベタの種に絞った資料では空気呼吸は「任意」とされていて、エラはアンモニアを出す仕事も受け持っています。稚魚は受精後しばらく空気呼吸に頼れず、始まる時期は親(卵のグループ)によって大きくずれます。

だから飼い方のポイントは、次の2つに集約されます。

  • 水面にいつでも楽に届くこと(油膜を取る、浮き草で全面をおおわない、水位を体に合わせる、ふたの下に空気の層を残す)
  • 水中の水質を保つこと(小さな容器ほど水換えを増やす、上がる回数が増えたら水質と水温から確かめる)

水面に上がるベタの姿は、ラビリンス器官を持つ魚ならではの見どころでもあります。ふだんの様子を知っておけば、変化にも早く気づけるはずですよ。生体の扱いや器具の仕様について正確な情報は各メーカーの公式サイトをご確認いただき、体調の判断に迷ったときは、最終的な判断は専門家にご相談ください。

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