ゾウリムシの分離はダイソーで足りる?道具別に向き不向きを整理
ゾウリムシの培養が軌道に乗ってくると、次に気になるのが「培養水をそのまま与えていいのか」という問題だと思います。あの白く濁った水には、ゾウリムシだけでなく餌の残りと大量の細菌が入っています。針子の容器は水量が少ないので、与えるたびに水が濁っていく。そこで出てくるのが分離、つまりゾウリムシだけを取り出す作業です。
調べてみると、コーヒーフィルターで濾す、お茶パックを使う、ペットボトルで装置を自作する、専用のプランクトンネットを買う、といろいろな方法が出てきます。しかもダイソーで揃うと書いてあるものも多い。じゃあ100円ショップで何を買えばいいのか、というのがこの記事のテーマです。
先に結論をお伝えすると、ダイソーで揃う道具でほぼ足ります。ただし、道具ごとに得意なことが違います。濾し取って濃縮するのが得意なもの、きれいな水に移し替えるのが得意なもの、そもそも目が粗すぎて役に立たないもの。ここを取り違えると、せっかく買っても「思っていたのと違う」となります。
この記事では、候補になる道具を一つずつ見ていきます。そのうえで、大学が公開している分離装置の作り方を紹介し、実際の手順に落とし込みます。読み終えるころには、次の買い物で何をかごに入れるかが決まっているはずですよ。なお、100円ショップの品揃えは店舗や時期で変わります。ここで挙げるのは「こういう種類の物を探す」という目安として読んでください。
ゾウリムシの分離にダイソーで買える道具
まず、候補になる道具を並べます。ポイントは目の細かさで、これがすべてを決めます。ゾウリムシは体長0.2〜0.3mm程度、体幅は0.05mm程度とされています(静岡大学理学部生物科学科の生物紹介による)。この数字より目が細かければ濾し取れますし、粗ければ通り抜けます。
ここでいう「分離」には、実は2つの意味が混ざっています。ひとつは濃縮、つまり薄い培養水からゾウリムシを集めて濃くすること。もうひとつは洗浄、つまり餌の残りや細菌を落として、きれいな水に移すことです。どちらをしたいかで、選ぶ道具が変わります。
そして、多くの方が本当にやりたいのは後者だと思います。濃さが足りないというより、培養水の汚れを持ち込みたくない。だとすれば、目の細かいもので濾して、上から新しい水をかける、という組み合わせがいちばん近い答えになります。
各道具の詳細に入る前に、一覧を出しておきます。買い物のときはこの表だけ見れば足ります。
| 道具 | 100均で買えるか | できること | 向いている場面 | 難点 |
|---|---|---|---|---|
| コーヒーフィルター(紙) | 買える | 濾し取って洗浄 | 少量をきれいにして与える | 目詰まりしやすく回収しにくい |
| お茶パック | 買える | 大きなごみを取る | 前処理として | ゾウリムシも通る |
| 排水口用ネット | 買える | 大きなごみを取る | 屋外採取水の前処理 | 目が粗く分離には不向き |
| 脱脂綿・化粧用コットン | 買える | 自作装置のフィルター | 走性を使った分離 | 詰めすぎると水が通らない |
| スポイト(細口) | 買える | 濃い層だけを吸う | ほぼ全工程 | 太いものは使いにくい |
| 透明カップ・小瓶 | 買える | 濃さの確認と一時保管 | 確認と作業全般 | 特になし |
| ビニールテープ | 買える | 自作装置の接合 | 走性を使った分離 | 巻きが甘いと漏れる |
| プランクトンネット | 買えない | 目の細かい濾し取り | 量を扱う人 | 専門店か通販のみ |
表の内容は一般的な目安で、製品や店舗によって仕様は異なります。特に目の細かさは商品パッケージに書かれていないことが多いので、実際に水を通して確かめるのが確実です。
そもそも分離は必要なのか

先に、この作業が本当に要るのかをはっきりさせておきます。結論から言うと、必須ではありませんが、あると明らかに楽になります。
分離しない場合、培養水をスポイトで直接与えることになります。これでも針子は育ちますし、実際そうしている方は多いです。問題になるのは量が増えたときで、毎日まとまった量を与えると、容器の水が徐々に濁っていきます。培養水には分解途中の有機物と細菌が入っているので、飼育水にとっては負荷なんですね。
特に針子の容器は水量が少なく、水換えもしにくい時期です。ここに有機物を毎日持ち込むと、水質が傾きやすくなります。針子が落ちる原因の上位に水質があることを考えると、この一手間の価値は小さくありません。針子側の管理については餌と水換えの基本をまとめた記事で整理していますので、あわせてご覧ください。
分離が特に効く3つの場面
1つ目は、針子の数が多くて毎日たくさん与える場合。持ち込む有機物の総量が増えるので、効果がはっきり出ます。2つ目は、容器が小さい場合。1Lに満たない容器なら、培養水の影響は無視できません。
3つ目は、培養水のにおいが気になり始めたときです。分離すれば、においの元になっている有機物を落とせます。逆に言えば、少数の針子に少量を与えているだけなら、無理に分離しなくても構いません。必要になってから覚えればいい作業だと思います。
コーヒーフィルター|いちばん手軽な濾し取り

100円ショップの道具で、まず候補に挙がるのが紙のコーヒーフィルターです。目が細かく、ゾウリムシは通さずに水だけを落とせます。
やり方は単純で、コーヒーフィルターをドリッパーや小さめのコップにセットして、培養水を静かに注ぐだけ。水が落ちきると、ゾウリムシはフィルターの内側に残ります。そこへカルキを抜いた水を少量かけてやると、餌の残りや細菌が洗い流され、きれいな水の中にゾウリムシだけが残るという理屈です。
この方法の強みは、道具が安くて手に入りやすいこと、そして洗浄まで一度にできることです。100円ショップでは90枚入りが100円台、100枚入りが200円台といった価格帯で売られています。使い捨てなので衛生面も気になりません。枚数や価格は時期によって変わるので、売り場で確かめてください。
使ってみると分かる難点
ただ、実際にやると気づく弱点もあります。ひとつは目詰まり。培養水には細かい有機物が浮いているので、途中から水の落ちが極端に遅くなります。量を処理したいときには向きません。
もうひとつが回収のしにくさです。紙の表面には細かい凹凸があり、そこにゾウリムシが入り込んでしまいます。スポイトで吸い出そうとしても、思ったほど集まらない。それと、フィルターの圧着部分から水が漏れることもあります。少量を丁寧に処理する用途なら優秀、量をこなすには不向き、という道具です。
目詰まりを軽くする方法もあります。ひとつは、培養水をいきなり注がず、先に上澄みだけを使うこと。ボトルを動かさずに置いておくと、重い有機物は下に沈みます。上のほうだけをスポイトで取ってから濾せば、フィルターに乗る固形分が減って落ちが速くなります。
もうひとつは、フィルターを途中で替えることです。まとめ買いした1枚あたり数円のものですから、1回の作業で2枚使っても惜しくありません。落ちが悪くなったら、残ったゾウリムシごと新しいフィルターへ水で流し込む。無理に1枚で終わらせようとするより、ずっと早く終わります。
コーヒーフィルターが「使える」のは、紙の目がゾウリムシより細かいからです。コーヒーの微粉を止める前提で作られているので、理屈のうえでは0.2〜0.3mmのゾウリムシは通りません。逆にお茶パックや排水口ネットが使えないのも同じ理屈で、止めたい対象の大きさがまったく違うからです。道具の良し悪しではなく、何を止める設計かを見れば、売り場で迷わなくなります。パッケージに目の細かさが書かれていない商品も多いので、迷ったら一度水を通して、ゾウリムシが抜けるかどうかを確かめるのが確実です。
100円ショップが近くにないときは、通販でもまとめ買いできます。1〜4杯用の小さめサイズが、培養水を少量ずつ処理する用途には扱いやすいです。
お茶パックと排水口ネット|目が粗すぎる問題
次に、よく候補に挙がるのがお茶パックと排水口用のネットです。結論から言うと、ゾウリムシの分離には使えません。理由は目の粗さです。
お茶パックは、茶葉を通さずにお茶の成分を出すための道具です。止めたい対象が茶葉なので、不織布やメッシュの目はそれに見合った粗さになっています。0.2〜0.3mmのゾウリムシは止められず、水と一緒に抜けていきます。
排水口用のネットはさらに粗く、髪の毛や食べかすを止める設計です。ゾウリムシどころか、ミジンコでも通ってしまうものがあります。「細かいネット」と書かれていても、想定している対象がまったく違うんですね。
使い道がないわけではない
ただし、まったくの無駄かというとそうでもありません。この2つが活きるのは前処理としてです。屋外から採ってきた水や、虫が混じった培養水から、大きなごみや幼虫を先に取り除く。ゾウリムシは通り抜けるので、ロスがほとんどありません。
特に屋外採取の水を扱うときは、この一段を入れておくと後の作業が楽になります。落ち葉のかけら、ボウフラ、大きめのミジンコ。こうしたものを先に落としてから、コーヒーフィルターや自作装置にかける。粗い目は入口、細かい目は出口と覚えておくと、道具の役割がはっきりします。
脱脂綿とペットボトル|大学が公開する自作装置
ここからが本題かもしれません。実は、大学が公開している分離方法があり、その材料がほぼ100円ショップで揃います。
東邦大学メディアネットセンターが公開しているゾウリムシの分離・採取の手順では、使うものとして空のペットボトル2本、ビニールテープ、フィルターの材料、スポイト、あればピンセット、そして採取したゾウリムシを入れる容器が挙げられています。フィルターの材料としては、水槽用マットを薄く切りはがしたもの、または脱脂綿を軽く丸めたものが示されています(出典:東邦大学メディアネットセンター)。
ペットボトルは飲み終えたもの、ビニールテープも脱脂綿もスポイトも100円ショップにあります。つまり、実質ゼロ円から数百円で作れるということです。化粧用のコットンでも代用できますし、水槽用のろ過マットを持っているならそれを薄く割いて使えます。
フィルターに使う脱脂綿は、薬局でも通販でも手に入ります。大判のものを1つ買っておけば、ちぎって何度も使えるので当分なくなりません。化粧用のコットンで代用しても構いません。
なぜこの装置で分離できるのか
この方法が面白いのは、濾し取るのではなく、ゾウリムシ自身に移動してもらう点です。同センターの説明によれば、これはゾウリムシが重力と反対方向に泳ぐ負の重力走性、いわゆる負の走地性を持っていることの応用です。
つまり、下に培養水、間にフィルター、上にきれいな水という層を作っておけば、ゾウリムシは自分で上へ登ってきます。餌の残りや細菌は動けないので下に残る。数時間待って上澄みをスポイトで採れば、きれいな水に入ったゾウリムシだけが手に入る、という仕組みです。濾す作業がないので、目詰まりも回収の手間もありません。
この「生き物自身に動いてもらう」という発想は、濾し取る方法とは根本的に違います。濾す方法では、フィルターの目より大きいものはすべて残ってしまうので、ゾウリムシと一緒にごみも濃縮されます。一方、走性を使う方法で上へ登れるのは、自分で泳げる元気な個体だけです。死んだ個体や沈んだごみは下に残ると考えられます。つまり、状態のよい個体が選ばれて集まりやすいわけです。
この性質は、培養の状態を見る目安にもなります。仕込んで数時間後に上澄みがまったく濃くならないなら、そもそも生きている個体が少ないということ。分離の失敗ではなく、培養そのものの問題だと分かります。道具が診断も兼ねてくれる、という意味でもよくできた方法だと思います。
スポイトと容器|地味だが効く2つ
最後に、どの方法でも必ず使うものを挙げておきます。スポイトと、透明な小さい容器です。どちらも100円ショップで手に入りますが、選び方で作業のしやすさがかなり変わります。
スポイトは、先が細くて、ある程度長いものを選んでください。ゾウリムシは濃い層に偏っているので、そこをピンポイントで吸えるかどうかが効率を決めます。先が太いと周りの水ごと吸ってしまい、せっかく分離した意味が薄れます。長さは、使うボトルの深さより長いものを。
スポイトは、培養容器の底まで届く長さのものを選んでください。濃い層をねらって吸えるかどうかで、分離の効率がはっきり変わります。
容器は、透明で、底が平らな小さいものが使いやすいです。分離した水をいったん受けて、濃さを確認してから与える。この確認の一手間があると、与えすぎや薄すぎを防げます。ガラスでもプラスチックでも構いませんが、底が丸いと濃い部分が集まって見えるので、丸いほうがやや有利かもしれません。
あると便利なもの
そのほか、あると作業が楽になるものをいくつか。黒い下敷きか濃い色の布は、濃さの確認に使います。神戸市総合教育センターの説明にもあるとおり、ゾウリムシは白くて回転しながら泳ぐので肉眼でも確認できます。その白い粒は、黒い背景に横から光を当てるといちばんよく見えるので、これは必需品に近いです。
それから、計量できる小さいカップ。与える量を毎回同じにできると、水が濁ったときに原因を振り返れます。あとはマスキングテープと油性ペン。容器に日付と内容を書くためのものです。地味ですが、複数のボトルを扱うようになると、これがないと確実に混乱します。
ゾウリムシの分離をダイソーの道具で実践する手順
道具が決まったら、実際の手順です。ここでは、東邦大学が公開している自作装置を家庭向けに組み立てる方法と、コーヒーフィルターで濾す方法の2つを扱います。
どちらを選ぶかは、処理したい量と、かけられる時間で決めてください。すぐ欲しいならコーヒーフィルター、量をきれいに取りたいなら自作装置。この記事の後半では、目的別にどちらを使うかの判断も整理します。
先に作業時間の感覚だけお伝えしておきます。コーヒーフィルターは手を動かす時間が5分ほど、待ち時間はほとんどありません。自作装置は作るのに10分程度、そのあとは数時間の待ち時間が要りますが、待っている間は何もしなくていい。手を動かす時間で選ぶか、待てる時間で選ぶかという違いだと考えてください。どちらも難しい作業はひとつもありません。
負の重力走性を使った分離の手順

まず、自作装置のほうから。東邦大学が公開している手順を、家庭の材料に置き換えて説明します。作業に入る前にひとつだけ。ペットボトルを切る工程があるので、切り口で手を切らないよう気をつけてください。切ったあとの断面はビニールテープで覆っておくと安全です。お子さんと一緒に作るなら、カッターやはさみを使うところは大人が担当してください。
同センターの説明では、二本のペットボトルを用意し、一方は切り取ってロート状にするとされています。2本とも切るのではありません。下になるボトルはそのまま、上になるボトルだけを加工してロートにし、口と口を突き合わせて繋ぎます。下が水をためる部分、上が受け皿になるわけです。
継ぎ方にも具体的な記述があります。ボトルの口と口をビニールテープで継ぎ、そのテープはボトルの首の根元から根元まで、少し強めに巻けば漏れないとされています。途中はネジ山の凹凸があるので密着が難しい、という注意も添えられています。ここが甘いと下の培養液が漏れるので、テープはけちらないほうがいいところです。
組み上がったら、ボトルの継ぎ目近くまで培養液を入れ、継いだところにフィルターを置き、上部のボトルへゾウリムシを集めたい水を静かに注ぎ入れます。あとは待つだけ。同センターの説明では、条件にもよるものの、数時間置くと上部にゾウリムシが移動してくるとされています。上澄みをスポイトで採れば、餌の残りや細菌がほとんど入っていない水が手に入ります。必要なら、この操作は複数回繰り返せます。
家庭で作るときのコツ
脱脂綿は、詰めすぎないでください。ぎゅうぎゅうに押し込むと水も通らず、ゾウリムシも登れません。ふわっと乗せる程度、下の水と上の水が混ざらずに境目が保てるくらいが目安です。ここが唯一の調整ポイントだと思います。
置き場所は、振動の少ない場所を選んでください。ゾウリムシがゆっくり登ってくる間に装置が揺れると、下の水と上の水が混ざってしまいます。棚の奥や、人が通らない場所がいいです。そして急がないこと。数時間という時間は短縮できません。夜に仕込んで朝に採る、くらいのペースがちょうどいいと思います。
上に注ぐ水は、必ずカルキを抜いたものを使ってください。ここに塩素の残った水道水を使うと、せっかく登ってきたゾウリムシがその水の中で弱ります。分離のあとすぐ与えるにしても、数時間はその水の中で過ごすことになるからです。
注ぎ方にもコツがあります。勢いよく入れると下の培養水と混ざってしまうので、スプーンの背やスポイトを伝わせて、静かに注ぐ。境目がくっきり残っていれば成功です。濁った下層と澄んだ上層が見た目で分かれていれば、あとは待つだけ。混ざってしまったら、置き直して数時間待てば、また層に分かれてくれます。やり直しがきくので、最初から完璧を目指さなくて大丈夫ですよ。
自作装置の作り方の要点:ペットボトル2本を用意し、一方だけを切り取ってロート状にする(切り口はテープで覆っておくと安全)→ 加工していないボトルを下、ロートにしたボトルを上にして、口と口を突き合わせる → ビニールテープを首の根元から根元まで少し強めに巻いて継ぐ → 下側に培養液を継ぎ目近くまで入れる → 継ぎ目に脱脂綿をふわっと置く → 上からカルキを抜いた水を静かに注ぐ → 振動の少ない場所で数時間待つ → 上澄みをスポイトで採る。ボトルは500mLでも2Lでも作れますが、2本のサイズを揃えると口の径が合って継ぎやすくなります。材料はすべて100円ショップと家にあるもので揃います。
コーヒーフィルターで濾すときのコツ
次に、すぐ欲しいときの方法です。コーヒーフィルターを使う場合、いくつか押さえておくと失敗が減ります。
まず、一度に大量を注がないこと。培養水を一気に入れると目詰まりして、水が落ちなくなります。少量ずつ、落ちきってから次を注ぐ。面倒に思えますが、結果的にはこのほうが早く終わります。
次に、濾し終わったあとの洗浄です。フィルターに残ったゾウリムシへ、カルキを抜いた水を静かにかけてください。これで餌の残りが流れ落ちます。ただし勢いよくかけると、ゾウリムシまで流れてしまうので、少しずつ。
回収は水を張ってから
回収のときにつまずく方が多いので、ここを詳しく書きます。フィルターの内側に張り付いたゾウリムシを直接スポイトで吸おうとすると、ほとんど取れません。
おすすめは、フィルターの内側に少量の水を張ってから、指かピンセットで軽く揺らす方法です。紙の表面から離れたゾウリムシが水の中に浮くので、それをスポイトで吸います。慣れれば、そこそこの割合を回収できます。それでも自作装置に比べるとロスは大きいので、量を扱うなら装置のほうをおすすめします。
分離した水は長持ちしない

ここは意外と知られていないので、はっきり書いておきます。分離した水は、なるべく早く、できればその日のうちに使い切ってください。
理由は、餌がないからです。東邦大学の説明でも、採取した液にはゾウリムシの餌となるバクテリアがほとんど含まれていないため、長期保存には向かないとされています。分離とは、言い換えれば餌を取り除く作業でもあるわけです。
ですから、きれいにしたからといって冷蔵庫で保管したり、翌日まで置いたりすると、かえって数を減らします。分離は与える直前にやる。これが原則です。作り置きには向きません。
必要な量だけ分離する
この性質から導かれるのは、分離する量は「その日に与えるぶんだけ」でいいということです。培養ボトルから必要なぶんを取り出して分離し、すぐ与える。残りは培養のまま置いておく。
この順番を守っていれば、ロスはほとんど出ません。逆に、まとめて分離して小分けにしておこうとすると、餌のない水の中で数が減っていきます。効率を上げようとした操作が、かえって非効率になるパターンです。私も最初にこれをやって、翌日ほとんど残っていないのを見て理由が分かりました。
100均で足りない場面と代わりの選択肢
ここまで100円ショップの道具で進めてきましたが、足りなくなる場面もあります。正直に書いておきます。
ひとつ目は、扱う量が増えたときです。針子が数百匹になると、毎日の分離が作業になります。コーヒーフィルターでは時間がかかりすぎますし、自作装置も1本では足りません。この段階になったら、目の細かいプランクトンネットを検討する価値があります。
2つ目は、より細かい目が必要なとき。ゾウリムシの培養から、さらに小さい微生物だけを分けたい、といった用途です。これは趣味の範囲を超えるので、専門の器材が要ります。
3つ目は、長期間くり返し使いたいときです。紙のコーヒーフィルターは使い捨てですし、ペットボトルの自作装置もテープが劣化すれば作り直しになります。シーズンを通して毎日使うなら、洗って繰り返し使えるナイロンメッシュのネットのほうが、手間もごみも減ります。
ただし誤解のないように書いておくと、これは「100均では無理」という話ではありません。100均の道具でできることの上限に、先に手が届いてしまう場面があるというだけです。多くの方は、シーズン中ずっと100円ショップの道具で完結しますし、私も普段はそうしています。買い替えを検討するのは、作業時間が負担に感じ始めてからで十分です。
繰り返し使えるメッシュを選ぶときは、目開き(メッシュの穴の大きさ)がミクロンで書かれているものを探してください。ゾウリムシは0.2〜0.3mm=200〜300ミクロンなので、80〜120ミクロンあたりなら確実に濾し取れます。300ミクロンでは通り抜けてしまうので、数字を見て選ぶのが確実です。
本格的な分離はここまで違う
参考までに、教育や研究の現場でどこまでやるかも書いておきます。神戸市総合教育センターが公開しているゾウリムシの観察手順では、採取した水を1滴ずつシャーレに置いて実体顕微鏡で探し、スポイトでゾウリムシを1匹だけ取って滅菌水に移す、という作業を5回ほど繰り返して洗浄する方法が示されています(出典:神戸市総合教育センター)。
1匹ずつ、5回洗う。これが本来の意味での「分離」です。家庭でやる分離が、これとはまったく別物だということが分かると思います。私たちがやっているのは、あくまで培養水の汚れを落とす作業であって、純粋な株を取る作業ではありません。そこを混同しないでおくと、100均の道具で十分だという判断にも納得がいくはずです。
目的別の使い分け
最後に、どの方法を選ぶかを整理します。目的から逆算するのがいちばん早いです。
毎日少量を与えたいなら、コーヒーフィルターで十分です。必要なぶんだけ濾して、水をかけて洗い、スポイトで回収する。5分もかかりません。道具も100枚入りのフィルター1つで足ります。
量をきれいに取りたいなら、自作装置です。夜に仕込んで朝に採るサイクルにすれば、待ち時間は気になりません。ロスが少ないので、結果的にいちばん効率がいい方法だと思います。作るのは最初の一度だけで、テープが傷んできたら巻き直せば使い続けられます。
分離しないという選択も
そして、針子が少なくて量が要らないなら、分離しないという選択も十分にありです。培養水を少量そのまま与えて、水が濁らない範囲で運用する。道具も手間も要りません。
実際、分離を始めるのは「水が濁って困った」と感じてからで遅くないと思います。先回りして道具を揃えるより、困ってから必要なものを買うほうが、自分の運用に合ったものを選べますから。ミジンコなど別の生き餌を併用する場合も考え方は同じで、ミジンコの餌と与え方をまとめた記事もあわせて読むと、生き餌全体の回し方が見えてきます。
100円ショップで道具を探すときは、アクアリウム売り場ではなくキッチン用品と化粧品の売り場を見てください。コーヒーフィルター、お茶パック、脱脂綿、計量カップ、スポイト。分離に使うものはほぼこの2か所に揃っています。アクア用品として売られているものを探すより、ずっと早く見つかりますよ。
分離に使った道具は、食品用と混ぜないでください。コーヒーフィルターやお茶パックは、培養に使った時点で食品用には戻せません。専用のものを分けて、まとめて保管しておくことをおすすめします。またペットボトルを切って装置を作るときは、切り口で手を切らないよう気をつけてください。切断面はビニールテープで覆っておくと安全です。お子さんと一緒に作る場合は、カッターを使う工程は大人が担当してください。
ゾウリムシの分離についてよくある質問
ダイソーのコーヒーフィルターならどれでもいいですか?
紙製で、円すい形か台形のものであれば、基本的にどれでも使えます。サイズは1〜2杯用の小さいもので十分です。大きいものを買っても、培養水を少量ずつ処理する用途では持て余します。
避けたほうがいいのは、金属やプラスチックのメッシュ式フィルターです。目がゾウリムシより粗いことが多く、通り抜けてしまいます。また漂白していないタイプでも問題なく使えますが、どちらにしても使用前に水を通して紙の匂いを流しておくと安心です。商品の仕様は店舗や時期で変わるので、詳細はパッケージの表示をご確認ください。
自作装置はどのくらいの時間で分離できますか?
東邦大学が公開している手順では、数時間置いたあとにスポイトで上部の水を採取するとされています。家庭でも同じくらいが目安になります。ゾウリムシが自分で泳いで登ってくるのを待つ方法なので、短縮はできません。
実用的には、夜に仕込んでおいて朝に採る、というサイクルが扱いやすいと思います。待ち時間を睡眠時間と重ねてしまえば、体感の手間はゼロになります。急いでいるときはコーヒーフィルターのほうを使うと決めておくと、使い分けができて便利です。
分離した水はどのくらい持ちますか?
できればその日のうちに使い切ってください。分離した水には、ゾウリムシの餌になる細菌がほとんど残っていません。東邦大学の説明でも、採取した液は長期保存に向かないとされています。
ですから、分離は与える直前に、その日に使うぶんだけ行うのが基本です。まとめて処理して小分けにしておくと、餌のない水の中で数が減っていきます。作り置きしたくなる気持ちは分かりますが、ここは毎回やるほうが結果的に効率がいいところです。
お茶パックが使えないなら、何のために売り場にあるのですか?
分離の道具としては使えませんが、前処理には役立ちます。屋外から採ってきた水や、虫が混じってしまった培養水から、大きなごみや幼虫を先に取り除く用途です。ゾウリムシは通り抜けるので、ロスがほとんど出ません。
粗い目は入口、細かい目は出口。この役割分担で考えると、お茶パックの立ち位置がはっきりします。同じ理由で、排水口用のネットも前処理には使えます。どちらも「ゾウリムシを止める」のではなく「ゾウリムシ以外を止める」道具だと考えてください。
分離すると数が減ってしまいます。どこで失っていますか?
コーヒーフィルターを使っている場合は、回収の段階でのロスがいちばん大きいです。紙の細かい凹凸にゾウリムシが入り込み、スポイトでは吸い出せません。フィルターの内側に少量の水を張って軽く揺らし、浮いてきたものを吸うと、回収率が上がります。
それでもロスが気になるなら、自作装置に切り替えるのが確実です。こちらは濾し取るのではなく、ゾウリムシ自身に登ってきてもらう方法なので、紙に残るという問題がそもそも起きません。量を扱う方ほど、装置の利点が効いてきます。
まとめ|ゾウリムシの分離はダイソーの道具で足りる
ここまで、ゾウリムシの分離に使える道具と、実際の手順を見てきました。最後に整理しておきます。
結論として、必要なものは100円ショップで揃います。紙のコーヒーフィルター、脱脂綿か化粧用コットン、細口のスポイト、透明な小さい容器、ビニールテープ。これだけです。ペットボトルは飲み終えたものを使えばいいので、合計しても数百円に収まります。
一方で、お茶パックと排水口用のネットは分離には使えません。目が粗く、ゾウリムシがそのまま通り抜けるからです。ただし屋外採取の水から大きなごみを落とす前処理としては役に立ちます。粗い目は入口、細かい目は出口。この役割分担を覚えておいてください。
方法は2つ。すぐ欲しいならコーヒーフィルターで濾して洗う。量をきれいに取りたいなら、東邦大学が公開しているペットボトルの自作装置を使う。後者はゾウリムシが重力と反対方向に泳ぐ性質を利用したもので、濾さないぶんロスが少なく、目詰まりもありません。必要なのは数時間なので、夜に仕込んで朝に採るようにすれば待ち時間は気になりません。
そして忘れてはいけないのが、分離した水は長持ちしないということ。餌になる細菌を落としているので、作り置きには向きません。その日に与えるぶんだけ、与える直前に分離する。これが原則です。
最後に、そもそも分離しないという選択も十分にありだとお伝えしておきます。針子が少なく、与える量も少ないなら、培養水をそのまま少量与えて構いません。水が濁って困ったと感じたときに、この記事に戻ってきてもらえれば十分です。道具は先回りして買うより、必要になってから選ぶほうが、自分の運用に合ったものを選べますよ。
なお、この記事で紹介した道具の仕様や入手性は、店舗や時期によって変わります。購入前の正確な情報は各メーカーや販売店の公式サイトをご確認ください。生き物の状態について迷う点があれば、最終的な判断は専門家や販売店にご相談いただければと思います。稚魚の餌の全体像についてはゾウリムシやPSBと人工餌の使い分けを整理した記事もあわせてどうぞ。


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