グッピーの松かさ病|鱗が逆立つ原因と安全な対処の手順
グッピーの鱗がふくらむように逆立って見えると、松かさ病ではないか、治るのか、同じ水槽のほかのグッピーにうつるのか、と心配が一度に押し寄せますよね。
大切に育ててきた魚の姿が急に変わったのですから、その不安はとても自然なことです。
先に結論をお伝えすると、松かさ病は、対処すれば治ると約束できる病気ではありません。
公的な研究機関の資料にも、確実な治療法は知られていないと書かれています。
そのうえで、あなたが最初に取り組めるのは、水換えと水質の確認で水槽の環境を整え、悪化させないようにすることです。
病気の魚を隔離するなら、元の水槽の手当てもセットで考えます。
薬を使うときは、製品名や評判ではなく、グッピーが当てはまる対象魚の表示があるかを確かめ、表示どおりに使います。
この記事では、国が公開している動物用の薬のデータベース、薬の発売元や水槽用品メーカーの説明、公的機関や大学の資料をもとに、グッピーの松かさ病を順番に整理します。
病気の診断や治療の代わりになるものではないので、判断に迷うときは、魚を診られる獣医師や購入店、薬の発売元にも相談してください。
この記事で理解できることは、次の4つです。
- グッピーの鱗が逆立つ松かさ病の見え方と、逆立つ前に出る兆候
- 原因がひとつに決まっていない理由と、同じ水槽の魚にうつるかどうかの考え方
- 水換えと水質の確認から始める初動の順番と、隔離するときの元の水槽の手当て
- 薬を使う前にグッピー向けの表示を確かめるポイントと、迷ったときの問い合わせ先
グッピーの鱗が逆立つ松かさ病はどんな状態か
松かさ病は、魚の鱗が逆立ち、体が松ぼっくりのように見える状態を指す呼び名です。
観賞魚の薬の発売元である日本動物薬品は、この病気を立鱗病として紹介し、「鱗が逆立ち、松かさのようになります。」と説明しています。
同社の症状から病気を探すページでも、ウロコが逆立っているときに疑われる病気として挙がっているのは立鱗病だけです。
金魚の病気という印象があるかもしれませんが、水槽用品メーカーのジェックスは「グッピーやベタなど、他の魚にも発症します。」と説明しています。
ただし、松かさ病はひとつの原因を指す病名というより、見た目の症状から付いた呼び名として受け止めておくのが安全です。
次の章で説明するように、原因がひとつに決まっていないからです。
もうひとつ知っておきたいのは、はっきり逆立った姿に気づいた時点で、病気がかなり進んでいることが多いという点です。
ここでは、鱗が開く仕組みと一緒に出やすい症状、そして逆立つ前に出る兆候を順に見ていきます。
鱗の付け根に水がたまって開く仕組みと一緒に出る症状

鱗が逆立って見えるのは、鱗の付け根にある鱗嚢に水がたまるためだと説明されています。
鱗嚢とは、つまり鱗の根元を包んでいる袋のような部分のことです。
ジェックスがキンギョの松かさ病を調べた研究では、「鱗の基底部にある鱗嚢(りんのう)に水が溜まり浮腫が起きている様子」が確認されたと報告されています。
浮腫とは、つまり体の組織に水がたまってむくんだ状態のことです。
ミシシッピ州立大学獣医学部による養殖魚向けの資料でも、鱗が開くのは、鱗が収まっているポケット状の部分のむくみによるものと説明されています。
鱗の逆立ちと一緒に出る症状について、日本動物薬品は「また出血や充血、腹部の膨張、眼球突出を伴うこともあります。」と説明しています。
大阪府立環境農林水産総合研究所の資料にも、元気がなく水面近くをただよう様子や、食欲がなくなる様子が書かれています。
一方、お腹が膨らんでいる症状については、日本動物薬品の症状検索でも、熱帯魚のイリドウイルス病やテロハネルス症を含む複数の病気が候補に挙がっています。
同じ見た目でも原因はひとつではないので、次の表は、松かさ病で見られる症状の見え方を整理したものとして読んでください。
→ 横にスクロールできます
| 症状 | 見え方 | 出典 |
|---|---|---|
| 鱗の逆立ち | 鱗が開いて松かさのように見える/体中の鱗が斜めに立つ | 日本動物薬品/大阪府立環境農林水産総合研究所 |
| 鱗の付け根のむくみ | 鱗嚢に水がたまり浮腫が起きている(キンギョの組織の観察) | ジェックス/ミシシッピ州立大学獣医学部(養殖魚向け) |
| 出血・充血 | 体に出血や充血をともなうことがある | 日本動物薬品 |
| お腹の膨らみ | 腹部の膨張をともなうことがある(ほかの病気が候補になることもある) | 日本動物薬品 |
| 目の突出 | 眼球が飛び出して見えることがある | 日本動物薬品 |
| 元気・食欲の低下 | 元気なく水面近くをただよう/食欲がなくなる | 大阪府立環境農林水産総合研究所 |
表のうちお腹の膨らみは、メスのグッピーでは妊娠でも見られる変化なので、膨らみだけで松かさ病と決めつけないようにしましょう。
はっきり逆立つ前に出る兆候と進行

松かさ病でとくに注意したいのは、鱗がはっきり逆立ったころには、すでに病気が進んでいることが多いという点です。
ジェックスは、全身の鱗が完全に逆立った症状について、「すでに末期で重症化している可能性が高く」と説明しています。
そのため、観察の目線は、逆立ちそのものよりも、その手前の小さな変化に向けておくことが大切です。
その手前の変化について、同社は「初期症状としては、鱗が少しずつ浮いてくる、身体が膨らんでくる、泳ぎ方が多少鈍くなるなどが挙げられます。」と書いています。
つまり、鱗がわずかに浮く、体がふっくらしてくる、泳ぎ方が少しゆっくりになる、という3つの変化が、早めに気づくための手がかりになります。
どれも小さな変化なので、ひとつだけで決めつけず、いくつかが重なっていないかをあわせて見ていきます。
前の見出しで触れた元気のなさや食欲の低下も、毎日の観察で確かめておきたいポイントです。
餌を入れたときに寄ってくるか、ほかの個体と比べて食べ方が弱くないかも、ふだんとの違いに気づく材料になります。
鱗の浮きを確かめるときは、上から見下ろすだけでなく、水槽の横から目線を合わせて、同じ水槽のほかの個体と体の輪郭や鱗の並び方を見比べてみてください。
比べる相手がいることで、1匹だけ様子が違うことに気づくきっかけになります。
気になる変化が続くときは、この記事の後半で説明する水換えや水質の確認に、早めに進みましょう。
松かさ病の原因はひとつに決まっていない
松かさ病の原因を調べると、エロモナス菌という名前をよく見かけます。
エロモナス菌とは、つまり水の中にふだんからいる細菌の仲間のことです。
たしかに、薬の発売元や公的機関の資料でも、エロモナス菌は原因として挙げられています。
ただ、同じ資料をよく読むと、菌だけで説明がつくとはされていません。
日本動物薬品は、「この細菌が関与していない場合も発生することがあり、まだ解明されていないこともあります。」と説明しています。
原因がはっきりしないということは、この薬を使えば治る、と言い切れないということでもあります。
ここを押さえておくと、あとで説明する、水換えを先にする理由や、薬の表示を確かめる理由が見えやすくなります。
この章では、エロモナス菌がどんな性質の菌なのかと、菌が見つからない例やグッピーのウイルス病の報告を順に見ていきます。
エロモナス菌は原因のひとつで水槽にふだんからいる菌
日本動物薬品は、松かさ病について、学名でAeromonas hydrophilaと呼ばれるエロモナス菌が原因のひとつとされていると説明しています。
同社の赤斑病のページでは、エロモナス菌を「飼育環境中に存在している細菌(常在細菌)」と説明しています。
常在菌とは、つまり特別なことが起きていなくても、水槽の中にいつもいる菌のことです。
同じページには、魚の免疫が落ちたときや、体の傷やスレから感染すると書かれています。
立鱗病のページでも、「免疫低下時や水質が悪化したときに発生しやすい病気です。」と説明されています。
ミシシッピ州立大学獣医学部による養殖魚向けの資料も、この菌は水の環境に広くいて、弱った魚で病気を起こすという考え方を示しています。
つまり、菌が水槽にいること自体は珍しくなく、水質の悪化などで魚の抵抗力が落ちたときに発症しやすくなる、という見方です。
だからこそ、この記事の対処の手順では、薬より先に水換えと水質の確認を置いています。
グッピーに関係する研究もあります。
韓国でグッピーから分離されたエロモナス属の菌52株を調べた研究では、多剤耐性、つまり複数の種類の薬が効きにくい性質が報告されました。
この研究は、観賞用のグッピーが、多剤耐性のエロモナス属菌の保有源になりうると指摘しています。
薬が効きにくい菌がいる可能性もあるという点は、あとで薬の扱いを考えるときにも関わってきます。
菌が見つからない例とグッピーのウイルス病の報告
エロモナス菌だけでは松かさ病を説明しきれないことは、最近の研究からもうかがえます。
ジェックスがキンギョの松かさ病を調べた研究では、ほとんどの病魚の筋肉や腎臓から、運動性エロモナス属菌の一種であるAeromonas veroniiが見つかりました。
ただし同じ報告には、「その菌が確認できない疾病魚も存在し、研究を継続する必要があります。」という一文もあります。
この研究は、令和7年度の日本水産学会秋季大会で発表されたものです。
大阪府立環境農林水産総合研究所の資料でも、原因菌の欄にはエロモナス菌が挙げられている一方で、備考に「ウイルスが原因という説もある。」と記されています。
グッピーについては、アメリカの2つの事例で病気のグッピーから新しいウイルスが見つかったという論文が、2024年に発表されています。
この論文では、症状のひとつとして、鱗の突出を含む皮膚の病変がときおり見られたと報告されています。
つまり、鱗が逆立って見える症状は、細菌の病気に限らず、ウイルスの病気でも起こりうるということです。
大阪府の資料には、治療について「確実な治療法は知られていない。」とも書かれています(出典:大阪府立環境農林水産総合研究所 病名:まつかさ病(立鱗病))。
このページは同研究所が公開している淡水魚の病気のデータベースの1ページで、写真は金魚ですが、松かさ病そのものの説明として参考になります。
ジェックスも、この病気は分からない部分が多く、薬での治療も効果がない場合があると説明しています。
原因がひとつに決まらない以上、この薬を使えば治る、と言い切ることはできません。
この記事が、治すことを約束するのではなく、悪化させない初動と薬の誤った使い方を避けることに重点を置いているのは、そのためです。
松かさ病は同じ水槽のグッピーにうつるのか
松かさ病のグッピーを見つけたとき、同じ水槽のほかのグッピーにうつるのかは、いちばん気になるところだと思います。
結論から言うと、この問いには、うつる、うつらない、の一言では答えられません。
ひとつは、魚から魚へ直接うつるのかという問題で、もうひとつは、同じ水槽の魚が同じ理由で発症しうるのかという問題です。
この2つを分けずに考えると、うつらないと聞いて安心しすぎたり、うつると聞いて慌てすぎたりしやすくなります。
水槽用品メーカー、薬の発売元、公的機関の資料を読み比べると、2つのうちどちらに重きを置いて説明しているかが少しずつ違います。
原因のひとつとされるエロモナス菌が、水槽にふだんからいる菌だったことを思い出すと、2つ目の問題を無視できない理由も見えてきます。
次の見出しでは、3つの資料の説明を並べて、同じ水槽のグッピーをどう見守ればよいかを整理します。
直接はうつらなくても水槽全体を見直す
ジェックスは、「症状が出た魚から直接周囲の魚への伝染することはありません。」と説明しています。
同社は続けて、水槽の中に残った細菌が体内に入って発症することはありうるとして、「水換えは行ってあげてください。」と勧めています。
日本動物薬品のよくある質問では、病名を限らない一般的な説明として、同じ水槽のほかの魚について「他の魚はまだ無症状感染の状態です。」と書かれています。
無症状感染とは、つまり見た目には症状が出ていなくても、すでに感染している状態のことです。
大阪府立環境農林水産総合研究所の資料には、「病魚は見つけ次第隔離することが蔓延を防ぐために大切である。」とあります。
3つの説明を並べると、発症した1匹だけを見ていれば済むわけではない、という点は共通しています。
同じ水槽のグッピーは、発症した魚と同じ水、同じ菌のいる環境で暮らしているからです。
水質の見直しは、発症した1匹のためだけでなく、水槽全体のために行うものと考えてください。
この機会に、飼育している数が水槽の大きさに合っているかも見直しておくと安心です。
水槽の大きさごとの目安と過密の見分け方は、グッピー水槽の適正な匹数をまとめた記事で紹介しています。
もし亡くなった魚が出たときは、そのままにせず、できるだけ早く水槽から取り出してください。
先ほどの養殖魚向けの資料でも、死んだ魚や弱った魚を取り除くことが、感染の連鎖を断つ大切な手段とされています。
残ったグッピーの様子も毎日見比べ、鱗の浮きや食欲の変化がないかを確かめていきましょう。
鱗の浮きのほかに、白い点やヒレの溶け、泳ぎ方の異変が見られるときは、体のどこに異変が出たかでグッピーの病気を絞り込む記事で見分け方を確かめてください。
鱗の逆立ちに気づいたときの対処の手順

鱗の逆立ちや、その手前の兆候に気づいたときは、慌てて薬を探す前に、順番を決めて動くことが大切です。
ここでは、発売元や公的機関の説明をもとに、初動の流れを次の順番で整理します。
- 水換えをして、水質を確かめる
- 隔離するかどうかを決め、隔離するなら元の水槽の手当ても考える
- 餌は止めずに少なめに続け、亡くなった魚が出たらすぐ取り出す
- 薬を使うなら、グッピー向けの表示を確かめてから表示どおりに使う
発売元の説明では、水を整えることと薬浴が対処の柱になっています。
薬浴とは、つまり薬を溶かした水に魚を入れて治療する方法のことです。
ただし、グッピーの場合は、どの薬が使えるのかを表示で確かめる手順が欠かせないため、薬の話は次の章でまとめて説明します。
この章では、まず水換えと水質の確認、隔離と餌の扱いまでを見ていきます。
どの段階でも、治ると約束できる方法はないことを前提に、悪化させないことを優先し、早めに手を打つことが大切です。
判断に迷うときは、ひとりで抱え込まず、魚を診られる獣医師や購入店に相談するのもひとつの方法です。
水換えと水質の確認を先にする
鱗の逆立ちやその手前の兆候に気づいたら、最初に取り組みたいのは水換えです。
日本動物薬品の立鱗病のページには、「治療法としては水を1/2~1/3 程度取り替え、対象の薬品で薬浴をします。」と書かれています。
ここでいう対象の薬品がグッピーでは何に当たるのかは、次の章で表示を確かめながら説明します。
免疫の低下や水質の悪化が発症のきっかけになりやすいと説明されている以上、水を整えることは、薬を選ぶより先にできる大切な一歩です。
ただ、一度に多めの水を換えることになるので、pHなどの水質が急に変わらないように気を配りましょう。
pHの急な変化を防ぐ考え方は、グッピーに適したpHと急変を防ぐ水換えの手順で詳しく説明しています。
ふだんの水換えの頻度や手順、掃除との線引きは、グッピーの水換えの頻度と手順をまとめた記事を参考にしてください。
水質を測る道具があれば、pHなどを測って記録しておくと、あとで発売元や購入店に相談するときにも状況を伝えやすくなります。
なお、水温を何度にすれば松かさ病が治るという説明は、グッピーについての一次情報では確認できなかったため、この記事では治療の手段として扱いません。
水を整えるのと同じくらい大切なのが、よかれと思ってやりがちな対処を避けることです。
初動で避けたいことを3つまとめます。
1つ目は、薬を表示より濃くしたり、効かないからと期間を延ばしたり、予防のつもりで使ったりすることです。
2つ目は、複数の薬を同時に使うことや、薬と水質安定剤を一緒に入れることです。
3つ目は、治療中だからと餌を完全に止めてしまうことです。
水質を手早く確かめたいときは、テトラのテスト試験紙 6in1 のように、亜硝酸塩など複数の項目を1枚で確かめられる試験紙があります。
6in1ではアンモニアを測れないので、アンモニアも確かめたいときはアンモニア用の試験紙と組み合わせて使うのがテトラの案内です。
隔離するなら元の水槽も手当てする・餌は少なめに続ける
隔離については資料によって勧め方が少し違うので、並べて確認しておきましょう。
大阪府立環境農林水産総合研究所の資料は、病気の魚を見つけ次第隔離することが、蔓延を防ぐために大切だとしています。
薬の表示のなかにも、「薬浴は飼育水槽外に専用の薬浴槽を設置して行う。」と定めている製品があります。
一方、日本動物薬品のよくある質問では、「基本的には他の魚と一緒に薬を使用して下さい。」と説明されています。
そのうえで同社は、「もし病魚を隔離して治療する場合は、元の水槽にも同様に薬を使用して下さい。」と書いています。
ジェックスの説明でも、発症した魚から直接はうつらないとしつつ、水槽に細菌が残りうることから水換えが勧められていました。
これらを合わせると、隔離は蔓延を防ぐための手段のひとつであって、隔離したから残りの魚は安心、とは言えないことが分かります。
隔離する場合も、元の水槽の水換えと観察は続けてください。
薬浴をするなら、元の水槽をどう扱うかも含めて、使う薬の表示と発売元の案内を確かめておきます。
元の水槽に薬を入れる場合、ろ材にゼオライトや活性炭を使っていると薬の有効成分が吸着されてしまうため、取り除くよう日本動物薬品のよくある質問で案内されています。
同じページには、「ほとんどの観賞魚用治療薬はろ過細菌に影響を与えます。」ともあります。
水草を植えている水槽では、グリーンFゴールド顆粒やエルバージュエースなど、水草を枯らしてしまう薬があるとも説明されているので、事前に確かめておきましょう。
隔離用の容器を用意するときは、元の水槽の水換えの予定も同じタイミングで決めておくと、手当てのし忘れを防ぎやすくなります。
餌については、治療中でも止めずに続けるよう、日本動物薬品は案内しています。
同社のよくある質問には、「ただし、与える量は普段より少なめにして下さい。」とあります。
ふだんの給餌量や回数の考え方は、グッピーの餌やりの回数と量の決め方をまとめた記事を参考に、そこから控えめに調整してください。
なお、グッピーエイズなどほかの病気が疑われるときも、隔離と水槽全体の見直しをセットで考える点は同じで、詳しくはグッピーエイズの症状と隔離・予防の手順で解説しています。
薬を使う前にグッピー向けの表示を確かめる
松かさ病の薬を探すと、いくつかの製品名が候補として挙がってきます。
しかし、グッピーに使うかどうかを決める手がかりは、製品名や評判ではなく、その製品の表示です。
この章で取り上げる薬は、いずれも国の動物用医薬品等データベースに載っている動物用医薬品です。
動物用医薬品とは、つまり国の承認を受けて、使える動物や病気、使い方が決められている薬のことです。
その承認の中身は、効能効果と用法用量として表示されています。
効能効果とは、つまりどの魚のどの病気に使えるかという内容のことです。
用法用量とは、つまりどれだけの水にどれだけの量を、どのくらいの時間使うかという決まりのことです。
同じ製品でも、コイやキンギョ向けと熱帯魚向けで、使える病気や量が違う書き方になっている場合があります。
ほかの魚向けの情報をそのままグッピーに当てはめると、使い方を誤るおそれがあるのはそのためです。
ここでは、データベースで確かめた表示の違いと、食塩を併用するときの注意、迷ったときの問い合わせ先を順に整理します。
立鱗病の表示はコイ・フナ・キンギョ向けに限られる

薬の表示では、松かさ病は立鱗病という病名で扱われています。
農林水産省の動物医薬品検査所が公開している動物用医薬品等データベースで、効能効果に立鱗という言葉を含む製品を2026年9月26日時点で探すと、見つかるのは3製品です。
3製品とも、立鱗病の表示はコイ・フナ・キンギョ向けで、熱帯魚向けの効能として書かれているのはカラムナリス病だけです。
松かさ・まつかさ・マツカサという言葉で探した場合、該当する製品は0件でした。
グッピーは、エルバージュ10%顆粒の添付文書やパフラジンFの使用上の注意で、安全性試験を行った魚種として名前が挙がっており、熱帯魚の区分(エルバージュ10%顆粒では淡水産熱帯魚、パフラジンFでは淡水熱帯魚)として扱われていると読めます。
つまり、データベース上では、グッピーの立鱗病を名指しした承認の表示は見当たりません。
立鱗病の表示がある3製品と、エロモナス属の菌による病気や細菌性感染症を対象にした製品の表示を並べると、次のようになります。
この表は松かさ病に使える薬の一覧ではなく、表示の違いを並べたものです。
→ 横にスクロールできます
| 製品名 | 対象魚の表示 | 効能の表示 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 観賞魚用エルバージュエース | 観賞用のコイ・フナ・キンギョ/淡水産熱帯魚 | コイ・フナ・キンギョ:立鱗病の表示あり/淡水産熱帯魚:カラムナリス病だけ | 動物用医薬品等データベース |
| 「観賞魚用」エルバージュ10%顆粒「薬浴」 | 観賞用のコイ・フナ・キンギョ/淡水産熱帯魚 | コイ・フナ・キンギョ:立鱗病の表示あり/淡水産熱帯魚:カラムナリス病だけ | 動物用医薬品等データベース(添付文書) |
| パフラジンF | コイ・フナ・キンギョ/淡水熱帯魚 | コイ・フナ・キンギョ:立鱗病の表示あり/淡水熱帯魚:カラムナリス病だけ | 動物用医薬品等データベース |
| 観パラD | 観賞魚(古代魚・大型ナマズ類・海水魚・汽水魚には使わない) | エロモナス属による穴あき病の早期治療と治療だけ(立鱗病・カラムナリス病の表示なし) | 動物用医薬品等データベース |
| グリーンFゴールドリキッド | 観賞魚 | 穴あき病だけ | 動物用医薬品等データベース |
| グリーンFゴールド顆粒 | 観賞魚 | 観賞魚の細菌性感染症の治療(病名の限定なし・立鱗病の名前はない) | 動物用医薬品等データベース |
同じ製品でもコイ・フナ・キンギョ向けと熱帯魚向けでは水量あたりの量や時間が違うため、コイやキンギョ向けの量をグッピーに当てはめないでください。
観パラDとグリーンFゴールドリキッドの効能の表示は穴あき病だけで、グリーンFゴールドリキッドの表示には「本剤は効能・効果において定められた目的にのみ使用すること。」と書かれています。
日本動物薬品は穴あき病について、「比較的低水温を好む細菌なので熱帯魚ではほとんど発生しません。」と説明しています。
グリーンFゴールド顆粒の表示は病名を限らない広い書き方ですが、効能効果に立鱗病という病名はありません。
また、日本動物薬品の立鱗病のページには対応する薬としてエルバージュエースが載っていますが、そのページには対象魚の限定が書かれておらず、製品の表示では立鱗病はコイ・フナ・キンギョ向けです。
解説ページの情報だけで判断せず、最後は製品の表示で確かめることが大切です。
表示の内容は、製品ごとに国のデータベースで確かめられます(出典:農林水産省 動物医薬品検査所 動物用医薬品等データベース)。
薬を使う前に、表示で次の4点を確かめましょう。
1つ目は対象魚で、淡水産熱帯魚などグッピーが当てはまる書き方があるかです。
2つ目は水量あたりの量で、グッピーが当てはまる対象魚の欄の数字かどうかです。
3つ目は期間で、薬浴の時間や日数、繰り返し使ってよいかどうかです。
4つ目は併用で、ほかの薬や水質安定剤との併用を避けるよう書かれていないかです。
食塩の併用と迷ったときの問い合わせ先
松かさ病の対処として、食塩を使う方法を目にすることもあると思います。
日本動物薬品の立鱗病のページには、薬浴とあわせて「0.3~0.5 %の食塩を併用するのも効果的です。」と書かれています。
これは薬浴と組み合わせることを前提にした発売元の説明で、食塩だけで治るという意味ではありません。
塩浴、つまり飼育水に食塩を溶かしてその中で魚を過ごさせる方法だけで松かさ病が治るという一次情報は、見当たりませんでした。
もうひとつ気をつけたいのが、薬の表示との関係です。
観パラDやグリーンFゴールド顆粒の表示には、ほかの薬品や水質安定剤との併用を避けるよう書かれていますが、食塩の扱いについては明記がありません。
食塩と薬を一緒に使ってよいかどうかは、どの薬でも同じとは言えないので、使う薬の発売元に確かめてください。
量や期間についても、パフラジンFの表示には「必要量以上使用してもその治療効果は変わらない」とあり、用法及び用量に従って正しく使うよう求めています。
グリーンFゴールド顆粒の表示にも、「週余にわたる連続投与は行わないこと。」と書かれています。
分からない点については、グリーンFゴールド顆粒の表示に「使用に際しての不明な点や事故等があった場合は、発売元へ連絡すること。」とあります。
ほかの製品でも、表示の読み方に迷ったり表示にない使い方を考えたりしたときは、自己判断で量や期間を変えず、発売元へ問い合わせてください。
観賞魚の生産者向けに抗菌薬の使い方をまとめた米国の大学の資料(UF/IFAS)も、診断をせずに薬を次々と替える使い方は耐性菌を生むと注意し、正しい診断や薬の量・間隔については獣医師や魚病の専門家に相談するよう勧めています。
薬浴に使った水の捨て方にも、表示で決まりがあります。
観パラDやグリーンFゴールドリキッドなどの表示では、使ったあとの薬液を川や排水に直接流さないよう求めています。
パフラジンFの表示には、「使用後の薬液は、日光の下に1日放置してから廃棄すること。」とあります。
グリーンFゴールド顆粒の表示にも、同じ趣旨の注意が書かれています。
また、エルバージュエースのように、取り扱うときに手袋やマスクなどを着けるよう表示している製品もあります。
発売元や購入店、獣医師に相談するときは、次のことを伝えられるように準備しておきましょう。
鱗の浮き方やお腹の膨らみ、出血や充血、目の突出、泳ぎ方や食欲など、いま見えている症状。
水槽の水量と、同じ水槽にいる魚の数や様子。
最後に水換えをした日と、そのときに換えた水の量。
使おうとしている薬の製品名と、表示を読んで迷った点。
ろ材にゼオライトや活性炭を使っているか、水草を植えているか。
グッピーの松かさ病に関するよくある質問(FAQ)
松かさ病のグッピーは治りますか?
残念ながら、治ると約束することはできません。
大阪府立環境農林水産総合研究所の資料には、確実な治療法は知られていないと書かれています。
ジェックスも、松かさ病は一度かかると治りにくい病気で、薬での治療も効果がない場合があると説明しています。
そのうえで、水換えと水質の確認、表示どおりの薬の扱いによって、悪化させないように手を尽くすことが大切です。
松かさ病は他のグッピーにうつりますか?
うつる、うつらない、の一言では答えられません。
ジェックスは、発症した魚から直接うつることはないとする一方で、水槽に残った細菌から発症することはありうると説明しています。
日本動物薬品は、同じ水槽のほかの魚について、症状が出ていなくても感染している状態だと説明しています。
発症した1匹だけでなく、水槽全体の水質を見直し、ほかの魚の様子も毎日確かめてください。
塩浴だけで様子を見てもいいですか?
塩浴だけで松かさ病が治るという一次情報は見当たりませんでした。
日本動物薬品が食塩に触れているのは、薬浴に食塩を併用するのも効果的という説明です。
食塩と薬を一緒に使ってよいかは薬ごとに確かめる必要があるので、使う薬の発売元に問い合わせてください。
様子を見るあいだも、水換えと水質の確認は続けましょう。
観パラDやグリーンFゴールドは使えますか?
観パラDとグリーンFゴールドリキッドの効能の表示は穴あき病だけで、立鱗病、つまり松かさ病の表示はありません。
グリーンFゴールド顆粒は観賞魚の細菌性感染症の治療という広い表示ですが、立鱗病という病名は書かれていません。
使うかどうかは、対象魚・量・期間・併用の注意を表示で確かめたうえで考え、表示から判断できないときは発売元に問い合わせてください。
治療中に餌をあげてもいいですか?
日本動物薬品のよくある質問では、治療中の魚にも餌を与えるよう案内されています。
ただし、与える量は普段より少なめにするよう書かれています。
餌を完全に止めてしまうのではなく、量を控えめにして続けるのがよいでしょう。
まとめ|松かさ病は水槽全体の見直しと表示どおりの薬で向き合う
グッピーの松かさ病について、見え方と原因、うつるかどうか、初動の手順、薬の表示の確かめ方を整理しました。
要点をまとめると、次のとおりです。
- 鱗の逆立ちは鱗の付け根に水がたまって起こり、はっきり逆立った段階では病気が進んでいることが多い
- 逆立つ前の鱗の浮き・体の膨らみ・泳ぎの鈍さに気づけるよう、横から見て、ほかの個体と見比べる
- 原因はエロモナス菌だけとは言い切れず、菌が見つからない例やウイルス病の報告もある
- 直接うつることはないとする説明がある一方、同じ水槽の魚は同じ条件にいるので、水槽全体を見直す
- 初動は水換えと水質の確認から始め、隔離するなら元の水槽の手当てもセットで考え、餌は少なめに続ける
- 国のデータベースでは立鱗病の表示はコイ・フナ・キンギョ向けだけで、グッピーの立鱗病を名指しした承認の表示は見当たらない
- 薬は対象魚・量・期間・併用の表示どおりに使い、表示にない使い方は発売元に問い合わせる
松かさ病は治ると約束できる病気ではありませんが、早めに気づいて水槽を整え、薬を正しく扱うことで、できる手当てを尽くすことはできます。
飼育環境や個体によって経過は変わるため、判断に迷うときは、魚を診られる獣医師や購入店、薬の発売元に相談してください。
最終的な判断はご自身の責任になりますが、この記事が、グッピーの小さな変化に落ち着いて向き合うための手がかりになればうれしいです。


COMMENTS
この記事へのご質問・コメント