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黒メダカとニホンメダカの違い|キタノメダカ・ミナミメダカとの関係と呼び名の整理

ⓘ 広告 ▰ メダカ
川底を泳ぐ2匹のメダカの写真と、黒メダカは体の色に着目した呼び名、ニホンメダカは日本の野生のメダカを指す通称だと示す表紙

黒メダカとニホンメダカは同じ魚?呼び名の違いと、お店の黒メダカを野生と見分けられない理由

THE AQUA LAB 所長(イラスト)

こんにちは。THE AQUA LAB、運営者の所長です。

黒メダカとニホンメダカ、どちらも聞いたことはあるけれど、同じ魚なのか別の魚なのか、意外と迷いやすいですよね。ホームセンターで黒メダカを見かけたときに、これが昔の小川にいたニホンメダカなのか気になった方も多いのではないでしょうか。

調べてみると、ミナミメダカやキタノメダカという名前が出てきたり、川メダカや野生のメダカという呼び方があったり、さらにヒメダカやブラックメダカ、日本メダカといった言葉まで並んでいて、かえって混乱しますよね。絶滅危惧種だという話や、種類が2つに分かれたという話も出てきて、どれがどの魚を指しているのか分からなくなりがちです。

先に結論をお伝えすると、黒メダカは体の色を指す呼び名で、ニホンメダカは日本の野生のメダカを指して使われてきた呼び名です。いまの分類では、日本の野生のメダカはキタノメダカとミナミメダカの2種に分けられていて、ニホンメダカという名前は標準和名ではありません。そして、お店で売られている黒メダカは、見た目が野生のメダカとよく似ていても、野生のニホンメダカと同じものだとは言えません。

この記事では、分類学の論文や環境省・国立環境研究所の資料をもとに、黒メダカとニホンメダカの違いを呼び名、分類、見た目の3つの面から整理しました。似た名前を1つの表にまとめた対応表と、手元の黒メダカをどう扱えばよいかを出どころ別に決める表も用意しています。

  • 黒メダカ・ニホンメダカ・キタノメダカ・ミナミメダカなど呼び名の関係
  • キタノメダカとミナミメダカの見た目の違いと、その見分けの難しさ
  • お店の黒メダカと野生のメダカが見た目では区別できない理由
  • 手元の黒メダカの扱い方を出どころで決める考え方
日本の野生のメダカの基本データ(資料ごとの目安)
項目 内容 出典
学名 ミナミメダカ Oryzias latipes/キタノメダカ Oryzias sakaizumii 小林・北川(2020)、国立環境研究所 侵入生物データベース
大きさ 3.5cm程度/全長4cm 環境省 生息域外保全の事例「メダカ」/国立環境研究所 侵入生物データベース、いばらき魚顔帳
すみか 平地の池や湖、水田や用水、河川の下流域の流れのゆるやかなところ等 国立環境研究所 侵入生物データベース(ミナミメダカのページ)
環境省レッドリスト 絶滅危惧II類 環境省 生息域外保全の事例「メダカ」(2種に分ける前の表記)、兵庫県の解説(キタノメダカの環境省ランクVU)
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黒メダカとニホンメダカの違いは呼び名の意味

この章では、黒メダカとニホンメダカという2つの言葉が、それぞれ何を指しているのかを整理します。ポイントは、黒メダカは体の色に注目した呼び名、ニホンメダカは日本の野生のメダカという中身に注目した呼び名だということです。どちらも学問上の正式な名前ではなく、いまの分類ではキタノメダカとミナミメダカという2つの標準和名が使われています。まずは呼び名の成り立ちを1つずつ確かめ、最後に似た名前をまとめた対応表で全体を見渡していきましょう。途中では、キタノメダカとミナミメダカの見分けの基準や、ヒメダカ・ブラックメダカといった飼育品種との関係にも触れます。名前の階層が分かると、売り場の表示や昔の図鑑の書き方も読み解きやすくなりますよ。

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黒メダカは体色を指す呼び名

黒メダカは、メダカの体の色に着目した呼び方です。ここで言う黒は、墨のような真っ黒というより、黒褐色に近い色合いです。国立環境研究所の侵入生物データベースでも、メダカは上から見ると背が黒褐色で目立つと説明されています。

茨城県の内水面水産試験場のサイトに掲載されている「いばらき魚顔帳」(2011年執筆)では、赤色の品種のメダカをヒメダカと呼ぶのに対して、野生のメダカは黒メダカと呼ばれると説明されています。赤色のヒメダカと比べたときに黒いほう、という意味合いで呼ばれてきたと考えられます。

体の色が決まる仕組みも、この呼び名と結びついています。筑波大学の研究者がまとめた総説(2004年)によると、メダカの黒色素胞の現れ方は常染色体上の1つの遺伝子に支配されていて、典型的なメンデル型の遺伝をします。黒色素胞を持つ野生型のクロメダカが優性で、黒色素胞をほとんど持たないものが劣性のヒメダカだと書かれています。黒色素胞というのは、黒い色素を含んだ皮膚の細胞のことです。

ここで押さえておきたいのは、黒メダカという呼び名は見た目の色を言っているだけで、どこで生まれたメダカなのかまでは表していない、という点です。資料が挙げているのは野生のメダカの例ですが、色に着目した呼び名なので、売り場で同じ色合いの飼育品が黒メダカやクロメダカとして並んでいても名前からは区別できません。

さらにややこしいのが、改良メダカの世界の「ブラックメダカ」です。改良メダカWEB図鑑では、野生のメダカが黒メダカと呼ばれることがあるものの、改良メダカのブラックメダカはそれとは別物だと説明しています。この違いは、あとの見出しでくわしく見ていきますね。黒メダカの種類そのものを広く知りたい方は、黒メダカの種類と選び方をまとめた解説も参考になるかなと思います。

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ニホンメダカは日本の野生メダカを指す通称

ニホンメダカは、日本の野生のメダカを、ほかの国のメダカと区別するために使われてきた呼び名です。ただし、いまの分類学では正式な名前として認められていません。

メダカの仲間はアジアに広く暮らしていて、北海道大学の研究紹介(2014年)では、アジアには20種近いメダカがいると紹介されています。同じ記事では、研究に使うメダカとしてニホンメダカのほかに、インドネシアのジャワ島に生息するハブスメダカと、中国の海南島に生息するハイナンメダカが挙げられています。海外のメダカと並べて話すときに、日本のメダカだと分かるよう「ニホン」を付けて呼んでいると考えられます。

研究の世界でも、この呼び方は使われてきました。日本水産学会誌に2014年に載った論文の題名は「異なる野生ニホンメダカ集団間にみられるストレス感受性の違い」で、日本の野生のメダカをニホンメダカと書いています。また、地方自治研究機構がまとめた条例の解説によると、岡山県吉備中央町の条例(平成24年制定)はブッポウソウとニホンメダカを希少生物に指定しています。行政の文書にも登場する、なじみのある呼び名だと分かります。

一方で、国際基督教大学と近畿大学の研究者が2020年に書いた記事「日本のメダカの分類と標準和名について」では、ニホンメダカという名称を使う研究者もいるが、分類学上このような名称はなく、あまり好ましいものではないと述べられています。標準和名は、図鑑などで使われる日本語の正式な名前のことです。

まとめると、ニホンメダカは日本の野生のメダカという意味で通じる呼び名ですが、学名や標準和名ではありません。昔の本や論文、自治体の資料でこの言葉を見かけたら、日本のメダカ全体を指していると読むのが自然です。

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今の和名はキタノメダカとミナミメダカ

いまの分類では、日本の野生のメダカはキタノメダカとミナミメダカの2種に分けられています。ニホンメダカと呼ばれてきた魚は、この2種をまとめた範囲に当たります。

前の見出しで紹介した2020年の記事によると、従来、日本のメダカは Oryzias latipes の1種で、標準和名は「メダカ」でした。ところが2011年のAsaiらの研究で、日本海側に生息するメダカは、他の地域のメダカと形態的、遺伝的性質が異なることから別種とされ、Oryzias sakaizumii という学名が与えられました。その後、Oryzias sakaizumii にはキタノメダカという標準和名が付き、単にメダカと呼ばれていた Oryzias latipes は混乱を避けるためにミナミメダカという標準和名に変わった、と説明されています。

この結果、「メダカ」という名前は特定の種を指す名前ではなくなり、日本や海外のメダカを指す総称になりました。国立環境研究所の侵入生物データベースでも、かつて日本全域と朝鮮半島、大陸中国、台湾のメダカは広い意味での同じ種と考えられていたところ、北日本の集団が2011年に新種として記載されたと書かれています。あわせて、朝鮮半島西部から大陸中国、台湾の集団は Oryzias sinensis になったと整理されています(出典:国立環境研究所 侵入生物データベース「メダカ」)。

分け方の境目もおおよそ決まっています。同じデータベースでは、北日本の集団を青森県から東北地方の日本海側、北陸、若狭湾岸、兵庫県北部の集団としています。ミナミメダカの自然分布は、本州(青森県から東北地方日本海側、北陸、若狭湾岸を除く)、四国、九州、大隅諸島から沖縄諸島です。

この2種に分ける考え方には異論もあります。2016年に環境毒性学会誌に載った論文「新種としてのキタノメダカへの異論」は、南と北の集団が自然に交わっていて形の違いもわずかだとして、北の集団はミナミメダカの地理的な亜種だと結論づけています。一方で、2020年の記事は、異論はあるもののこの分類は広く使われ、子ども向けの図鑑や環境省の絶滅危惧種のリストでも採用されていると説明しています。

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キタノメダカとミナミメダカの見た目の違い

体の黒い色素・オスの背びれの切れ込み・体の後ろ半分の斑点と銀色の鱗でキタノメダカとミナミメダカを比べた表と、見た目だけで見分ける難しさを伝えるスライド
キタノメダカとミナミメダカの見分けの基準と限界

キタノメダカとミナミメダカは、体の黒い模様や背びれの形で見分ける基準が示されています。ただし、その基準で実際にどこまで見分けられるかには異論もあり、1匹だけを見て決めるのは難しいです。

キタノメダカを新種として記載した論文(Asai、Senou、Hosoya、2011年)では、ミナミメダカとの違いとして次の4つの組み合わせを挙げています。表にまとめると、こうなります。

キタノメダカとミナミメダカの見分けの基準(新種記載の論文より)
見る場所 キタノメダカ ミナミメダカ
体の表面の黒い色素 鱗の縁に沿って濃い網目になる(オス・メスとも) 網目にならず散らばる
オスの背びれの切れ込み(5本目と6本目の間の膜) 浅い(ひれのすじの長さの半分未満) 深い
体の後ろ半分の側面 不規則な黒い斑点がある 黒い斑点はない
体の後ろ半分の銀色の鱗 いくつかがまとまって並ぶ 少ない

※Asai, Senou & Hosoya(2011)の識別の記述をもとに、記事で日本語に整理したものです。

国立環境研究所の侵入生物データベースでも、ミナミメダカには体の鱗の境目に沿う網目状の黒い斑紋が無く、体の後ろ半分の側面の不規則な黒斑も無く、オスの背びれの切れ込みが大きい、と同じ趣旨の違いが書かれています。

ところが、この基準が実際にどれだけ使えるかについては、別の結果も出ています。2016年の論文「新種としてのキタノメダカへの異論」では、日本各地の野生集団に由来し、研究室で30年以上維持されてきた75のコロニーのオスを調べました。その結果、北日本の集団に由来する14コロニーのオスは、鱗の縁に沿った濃い網目という1つの基準でしか見分けられず、残りの3つの基準では南日本の集団と区別できなかったと報告されています。

ということは、水槽の中の1匹を見て、背びれの形だけでキタノメダカだと決めるのは、かなり難しいということです。2種の分布が接する地域では雑種の集団もいて、兵庫県が公開しているキタノメダカ(ハイブリッド集団)の解説は、但馬・丹後地方に両種の雑種に起源を持つハイブリッド集団が分布すると説明しています。見た目の違いは「目安」として知っておき、どちらの種かは採れた場所や遺伝子の調査で判断されるもの、と考えておくのが安全です。

キタノメダカとミナミメダカが国のレッドリストでそれぞれどう評価されているかと、飼う人が気をつけたい放流の注意点は、2種の絶滅危惧の評価と飼い方の注意点の解説で紹介しています。

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ヒメダカやブラックメダカとの関係

ヒメダカとブラックメダカは、どちらも野生のメダカから人の手で作られた飼育用の品種です。キタノメダカやミナミメダカのような「種」の名前とは、名前の階層が違います。

2020年の記事では、ヒメダカは標準和名ではなく、ミナミメダカを由来とした体色変異個体の品種名だと説明しています。たとえとして、イヌという動物の中にプードルやチワワといった品種名があるのと同じ関係だと書かれていて、イメージしやすいですよね。ヒメダカは江戸時代にはすでに作出されていたことも、2021年に鹿児島大学総合研究博物館の学術誌に載った報告で紹介されています。ヒメダカがなぜ手ごろな価格で売られているのかは、ヒメダカの値段の相場と安い理由でくわしく整理しています。

ブラックメダカは、黒メダカと名前がよく似ていますが別物です。改良メダカWEB図鑑によると、ブラックメダカは2009年に見つかって作出された品種で、野生型の中から黒っぽい個体を選び、さらに黄色素胞の少ない個体を選び続けることで、黄色みのないブラック体色が生まれました。白い容器でも体色が薄くなりにくい、背地反応しにくい性質が特徴だそうです。背地反応は、周りの明るさに合わせて体の色を変える働きのことです。

では、野生のメダカと同じ色合いの飼育品は、改良メダカの世界でどう呼ばれているのでしょうか。改良メダカWEB図鑑は、ブラックメダカに似たメダカとして「茶メダカ(クロメダカ)」を挙げています。また、2021年の報告は、日本メダカ協会の品種分類マニュアルを引いて、茶色は野生メダカとほとんど同じ色合いのため品種としての価値が低いと説明しています。

つまり、売り場で黒メダカやクロメダカとして並ぶ野生型の色の魚は、品種の分け方でいえば茶メダカと同じ体色の飼育品だと考えると分かりやすいです。ただし、売り場の表示はお店によって幅があり、黒い体色の改良品種のブラックメダカが黒メダカとして並ぶこともあり得ます。名前に「黒」が付いていても、野生のメダカであるとは限らない、という点を覚えておいてくださいね。

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呼び名の対応表で整理する

黒メダカ・ニホンメダカ・メダカ・キタノメダカ・ミナミメダカ・ヒメダカ・ブラックメダカ・茶メダカの指すもの、名前の種類、野生かどうかを並べた表のスライド
黒メダカ・ニホンメダカまわりの呼び名の対応表

ここまでに出てきた呼び名を、指しているもの、正式な名前かどうか、野生のメダカかどうかの3点で1つの表にまとめました。迷ったときは、この表に戻ってきてください。

黒メダカ・ニホンメダカまわりの呼び名の対応表
呼び名 指しているもの 名前の種類 野生のメダカか 根拠にした資料
黒メダカ・クロメダカ 黒色素胞を持つ野生型の体色のメダカ 体色の呼び名 資料の例は野生のメダカ(改良メダカの分類では茶メダカの別名としても使われる) いばらき魚顔帳、筑波大学の総説、改良メダカWEB図鑑
ニホンメダカ 日本の野生のメダカ(ほかの国のメダカと区別するとき) 通称(分類学上の名称ではない) 野生のメダカを指して使われる 北海道大学の研究紹介、小林・北川(2020)
メダカ 従来は日本のメダカの標準和名、いまは総称 総称 文脈しだい 小林・北川(2020)
キタノメダカ Oryzias sakaizumii(北日本の集団) 標準和名 野生のメダカ(種の名前) 小林・北川(2020)、国立環境研究所
ミナミメダカ Oryzias latipes(北日本の集団以外の国内の集団) 標準和名 野生のメダカ(種の名前) 小林・北川(2020)、国立環境研究所
ヒメダカ ミナミメダカを由来とした体色変異の品種 品種名 飼育用の品種 小林・北川(2020)
ブラックメダカ 黄色素胞の少ない個体を選び続けて作った黒い体色の品種 改良メダカの品種名 飼育用の品種 改良メダカWEB図鑑
茶メダカ 野生メダカとほとんど同じ色合いの飼育品 改良メダカの体色の分類 飼育用の品種 伊藤・山田(2021)、改良メダカWEB図鑑

※各資料の記述をもとに、記事で呼び名の関係を整理したものです。呼び方は人や地域、お店によって幅があります。

表を見ると、黒メダカとニホンメダカの違いがはっきりします。黒メダカは色に着目した呼び名で、改良メダカの分類では野生型の色の飼育品を指す別名にもなっています。ニホンメダカは日本の野生のメダカを指して使われてきた通称なので、厳密な線引きはないものの、お店の黒メダカをニホンメダカと呼ぶと誤解のもとになります。そして、どちらも学問上の正式な名前ではなく、正式にはキタノメダカかミナミメダカと書き分けるのが、いまの分類に沿った書き方です。

ちなみに、検索すると日本メダカ協会という団体の名前も出てきますが、これは改良メダカの品種分類のマニュアルを作っている団体の名前で、ニホンメダカという魚の名前とは別の話です。名前が似ているので、混同しないようにしたいですね。

黒メダカとニホンメダカの違いを飼育と観察に生かす

ここからは、黒メダカとニホンメダカの違いを知ったうえで、実際に飼うときや水辺で観察するときに何に気をつければよいかを見ていきます。大事なのは、見た目ではなく出どころで扱いを決めることです。お店の黒メダカと野生のメダカがなぜ同じとは言えないのか、なぜ見た目で見分けられないのかを確かめたうえで、出どころ別の扱い方を表にまとめました。最後に、川や田んぼのメダカと付き合うときの心得も整理しています。根拠にしたのは、観賞メダカの由来を調べた大学の研究や、水路で採れたメダカを調べた報告、環境省のリーフレットなどです。飼う楽しさと野生のメダカを守ることを両立させるための考え方として読んでみてください。

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お店の黒メダカは野生のニホンメダカとは限らない

ペットショップや通販で売られている黒メダカは、見た目が野生のメダカに似ていても、野生のニホンメダカと同じものとは言えません。理由は、どこの地域のメダカに由来するのかが分からないからです。

環境省の生息域外保全の事例ページでは、メダカは日本全国に分布しているものの、日本各地で別々の地域集団に分かれていることが遺伝子解析などの研究で明らかにされていると説明しています(出典:環境省 生息域外保全の取り組み事例「メダカ」)。環境省が2025年2月に発行したリーフレットも、キタノメダカとミナミメダカのそれぞれの種の中に複数の遺伝的に異なる地域個体群があり、見た目はほぼ同じでも遺伝的な構成の違いや、微妙な形態的な差異、温度耐性の違いなどが確認されていると書いています。

では、お店で売られているメダカはどこから来たのでしょうか。広島大学などの研究グループが2026年2月に発表した成果では、86品種181匹の観賞メダカの全ゲノム配列を解析し、大阪、広島、高松といった瀬戸内海に面した地域の野生メダカと遺伝的に近い関係にあることが分かったそうです。研究グループは、江戸時代に関西・瀬戸内地域で見つかったヒメダカなどの野生メダカを品種改良した系統が、全国で観賞メダカとして飼育されてきたと考えています。

この研究は観賞メダカの品種を調べたもので、売られている黒メダカ1匹ずつの由来を調べたものではありません。それでも、飼育品のメダカはどこかの地域の野生メダカから作られた系統で、あなたが住んでいる地域の野生のメダカと同じ遺伝的な特徴を持っているとは限らない、ということは言えそうです。

さらに、2021年の報告は、観賞魚メダカがさまざまな品種や、野生のミナミメダカ、キタノメダカなどと交配させることで誕生したと説明しています。お店の黒メダカは、こうした長い飼育と交配の歴史の上にいる魚だと考えておくと、野生のニホンメダカとの違いが見えてきますね。

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見た目だけでは野生かどうか見分けられない

茶色いメダカの写真と、水路で採集された茶色い個体が野生メダカと区別できなかった報告を紹介するスライド
見た目だけでは野生のメダカかどうか見分けられない

野生型の色をした飼育品のメダカと、野生のメダカは、見た目だけでは区別できません。これは研究者が実際に調べた事例でも確かめられています。

2021年に鹿児島大学総合研究博物館の学術誌に載った伊藤・山田の報告では、2020年9月から10月に愛知県犬山市の水田水路でメダカ類を16個体採集し、形を細かく調べました。その結果、多くはヒカリメダカ類などの観賞魚メダカと判断されています。一方で、体が茶色い5個体は茶メダカと判断されたものの、茶色は野生メダカと同様の体色であることから、野生メダカとの区別はできなかったと書かれています。遺伝的な解析を行えば、観賞魚メダカかどうかを明らかにできる可能性がある、という書き方でした。

専門家が標本を手に取って調べても、体の色や形からは分からなかったわけです。家の水槽やお店の売り場で、この黒メダカは野生のニホンメダカに近そうだと見た目で判断するのは、なおさら難しいということになります。

前の章で見たキタノメダカとミナミメダカの見分けも、見た目だけでは難しいのは同じです。野生かどうか、どちらの種か、どの地域の集団かは、見た目ではなく出どころの記録や遺伝子の調査で判断されるもの、と考えておくのが現実的です。

見た目が野生のメダカと同じだから大丈夫だと判断して、飼っている黒メダカを川や田んぼに放すのはやめましょう。環境省のリーフレットは、日本の在来種であっても放流してはいけない、各地域個体群の固有性が失われる可能性がある、と呼びかけています。

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手元の黒メダカの扱いを出どころで決める

ペットショップや通販・知人から譲られた・自分で採集した・保全活動の4つの出どころごとに黒メダカの扱い方と野外に出すかを整理した表のスライド
出どころ別に見る黒メダカの扱い方

手元の黒メダカをどう扱うかは、見た目ではなく出どころで決めるのが基本です。下の表に、よくある出どころごとの考え方をまとめました。

出どころ別に見る黒メダカの扱い方
手元の黒メダカの出どころ どう呼ぶのが近いか 飼うときの考え方 野外に出すか
ペットショップ・ホームセンター・通販で買った 飼育品(野生型の色なら茶メダカ・クロメダカ、黒い改良品種ならブラックメダカなど) 観賞魚メダカとして飼う。ニホンメダカや野生のメダカとして人に紹介しない 出さない
知人から譲られた・どこの川のものか分からない 産地不明のメダカ 飼育品と同じ扱いにする。譲るときも由来が分からないことを伝える 出さない
自分で川や田んぼから採ってきた(採れた場所が分かる) その地域の野生のメダカ(キタノメダカかミナミメダカ) お店の飼育品と同じ容器で混ぜて殖やさない。採れた場所を記録しておく 原則として戻さない。別の場所には出さない。戻す必要が出たら自治体や専門機関に相談する
地域のメダカを守る活動に使いたい 地域集団として管理されたメダカ 自己判断で殖やして放さない 保全を行う団体や専門機関の判断に従う

※環境省・兵庫県などの資料の注意点をもとに、記事で出どころ別に整理した目安です。地域のルールは自治体によって異なります。

読者のみなさんに多いのは、お店で買った黒メダカのケースでしょう。この場合は、見た目が野生のメダカとそっくりでも、観賞魚メダカとして最後まで水槽やビオトープで楽しむのが基本です。兵庫県が公開しているキタノメダカ(ハイブリッド集団)の解説も、人為的な移植による遺伝的攪乱が懸念されているとして、飼育していた産地不明のメダカを放流することは厳に慎みたい、と書いています。

水槽のほかに屋外のビオトープで黒メダカを最後まで楽しむなら、メダカ用に作られた屋外向けの飼育鉢を使う方法もあります。容量やサイズ、価格は購入前に各ショップでご確認くださいね。

自分で採ったメダカを、お店の黒メダカと同じ容器で混ぜて殖やすのは避けたいところです。環境省の保全事例のページでは、メダカの保全のつもりで、他の地域で採集された個体や商業的に繁殖した個体を再放流してしまう誤った活動が全国で多く行われたと紹介されています。同じページは、地域の異なるメダカを放流すると交雑して、地域ごとの遺伝的多様性が失われてしまうと説明しています。善意の活動でも、結果として野生のメダカの特徴を損なうことがあるんですね。

飼いきれなくなったときも、川に放すのではなく、引き取り先を探すのが正解です。具体的な手順は、放流しないメダカの手放し方と引き取り先の探し方で順を追って説明しています。地域のルールは自治体ごとに違うので、正確な情報は公式サイトをご確認ください。迷う場合の最終的な判断は、自治体の環境担当の窓口や専門家にご相談ください。

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川や田んぼのメダカを観察するときの心得

川や田んぼで野生のメダカを見かけたら、まずは採らずに観察を楽しむのがおすすめです。そのメダカこそが、ニホンメダカと呼ばれてきた日本の野生のメダカかもしれないからです。

野生のメダカは数を減らしています。環境省の生息域外保全の事例ページによると、メダカは水環境の悪化や農村環境の開発、外来魚類の捕食などの影響を強く受けて全国的に激減し、レッドリストランクは絶滅危惧II類とされています。兵庫県が公開しているキタノメダカ(ハイブリッド集団)の解説では、県内の但馬地域などの集団について、圃場整備にともなう用排水分離や乾田化で、産卵のために水田やため池へさかのぼる経路が断たれたことが減少の主な原因と考えられる、と説明しています。

そして、見かけたメダカがすべて野生とは限らないのも、ここまで見てきたとおりです。国立環境研究所の侵入生物データベースでは、各地で人為的な放流が行われていて、利根川・荒川水系や酒匂川などで遠く離れた地域から持ち込まれたと思われるメダカが見つかっていると書かれています。侵入の経路としては、環境保護や環境教育を目的とした放流や、観賞用に流通しているヒメダカの放流・逸出などが考えられています。

観察のときは、まずメダカかどうかを確かめるのも大切です。水路には、見た目がよく似た特定外来生物のカダヤシがいることがあります。いばらき魚顔帳では、メダカはカダヤシに似ているものの、尾びれが角張っていて臀びれの付け根が長く、尾柄(尾びれの付け根の部分)が低いことなどで区別できると説明しています。見分け方の詳しいポイントは、カダヤシとメダカの尻ビレと尾ビレで見分ける方法でまとめています。

採集については、地域ごとのルールも確かめておきたいところです。前に紹介したとおり、岡山県吉備中央町のように条例でニホンメダカを希少生物に指定している自治体もあります。野生のメダカを採る前には、住んでいる都道府県や市町村のルールを公式サイトで確認しておくと安心ですよ。

野生のメダカの遺伝的な多様性や守り方をもっと詳しく知りたい方には、棟方有宗さん・北川忠生さん・小林牧人さんの編著による書籍『日本の野生メダカを守る −正しく知って正しく守る』(生物研究社、2020年)があります。内容や価格は購入前に各ショップでご確認ください。

黒メダカとニホンメダカについてよくある質問

ミナミメダカの学名はいつ付けられたものですか?

キタノメダカを記載した2011年の論文によると、Oryzias latipes はもともと1846年に Temminck と Schlegel によって Poecilia latipes として記載されました。いまのミナミメダカの学名は、この古い記載から受け継がれているものです。

中国や朝鮮半島のメダカもニホンメダカと同じ種類ですか?

国立環境研究所の侵入生物データベースによると、朝鮮半島西部から大陸中国、台湾の集団は Oryzias sinensis という別の種に整理されています。朝鮮半島東岸から南岸の集団は、分類上の扱いがまだ決まっていないとされています。

北海道にいるメダカは野生のニホンメダカですか?

北海道のメダカは、ほかの地域から持ち込まれて定着したものとされていて、もともと北海道にいた野生のメダカとは言いにくいです。いばらき魚顔帳では、メダカの国内の分布を本州以南琉球列島とし、近年は移殖により北海道にも分布すると説明しています。国立環境研究所の侵入生物データベースでも北海道は国内の移入分布として扱われ、DNAの型から東北から関東、中部の太平洋側に由来すると推測されています。

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黒メダカとニホンメダカの違いを知って正しく楽しもう

最後に、黒メダカとニホンメダカの違いをもう一度まとめておきますね。

  • 黒メダカは体の色を指す呼び名で、野生の個体にもお店の飼育品にも使われる
  • ニホンメダカは日本の野生のメダカを指す通称で、分類学上の名前ではない
  • いまの標準和名はキタノメダカとミナミメダカの2種(2種に分けることへの異論もある)
  • お店の黒メダカは、見た目が似ていても野生のニホンメダカと同じとは言えない
  • 野生かどうかは見た目では見分けられないので、扱いは出どころで決める

黒メダカとニホンメダカは、同じ魚を別の角度から呼んでいる場合もあれば、まったく出どころの違う魚を指している場合もあります。名前だけで判断せず、色の話なのか、野生のメダカの話なのかを意識するだけで、ずいぶん整理しやすくなるかなと思います。

お店で迎えた黒メダカは、観賞魚メダカとして最後まで責任を持って楽しむ。水辺で出会った野生のメダカは、その地域の宝物として見守る。この2つを分けて考えることが、黒メダカを飼う楽しさと、野生のメダカを守ることを両立させるいちばんの近道ですよ。呼び名の対応表と出どころ別の表を、迷ったときの道しるべにしてもらえたらうれしいです。

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