ベタの卵と稚魚の管理方法|孵化後に失敗しない育て方
水面の泡の下に小さな卵が並んだのを見て、うれしさと同時に、この先うまく育つだろうかと落ち着かない気持ちになっていませんか。
卵がところどころ白くなってきた、泳ぎ出したはずの稚魚が日ごとに減っていく、そんな場面を思い浮かべると、何を確かめればよいのか不安になるかもしれません。
この記事では、観賞魚メーカーの飼育情報と、ベタを飼育する研究室の総説や発生を観察した研究をもとに、卵と稚魚の時期に気をつけたいことを順に整理します。
先に結論をお伝えします。
ベタの卵の時期はエサが要らず(卵黄で育つ)、分かれ目はカビ・オスを驚かせないこと・ふたで湿度を保つこと・水温です。
泳ぎ出して卵黄がなくなる前後からは、死骸や食べ残しによる水の汚れと、最初のエサを始める時期と大きさが生死を分けます。
孵化までの日数や稚魚の生存率は出典と条件ごとに違うため、この記事では一つの数字に丸めず、家庭で何割育つかも約束しません。
この記事で理解できることは、次の4つです。
- 卵が孵化して泳ぎ出すまでの日数の幅
- 卵のカビが広がるしくみと薬の表示の範囲
- オスに任せる期間に整えておくこと
- 泳ぎ出した稚魚の水を汚さないポイントと失敗のサイン
ベタの卵と稚魚の日程|孵化・泳ぎ出し・エサが要るまで
卵と稚魚の世話は、いつ何が起きるかを先に知っておくと、何をいつ用意すればよいかが決まります。
孵化する日、泳ぎ出す日、エサが要るようになる日の見当がついていれば、慌てて道具を探す場面を減らせます。
ただし、日数の数え方の起点は出典ごとに違い、産卵から数えるもの、受精から数えるもの、孵化から数えるものがあります。
研究では受精後の日数をdpfと書くことがあり、つまり受精した時点から数えた日数のことです。
観察したときの水温も出典ごとに違うため、同じ孵化や泳ぎ出しでも数字がずれて見えます。
そこでこの記事では、日数を一つに丸めず、出典ごとに並べて紹介します。
卵の時期と稚魚の時期では気をつけることが変わるので、まずはその境目がいつ来るのかを押さえておきましょう。
この章で扱うのは、泳ぎ出してエサが要るようになるまでの日程です。
孵化と泳ぎ出しの時期は出典ごとに幅がある

まず、産卵の直後に起きることから確かめておきます。
観賞魚メーカーのジェックス(GEX)の繁殖の記録には、「メスが産んだ受精卵は沈んでいきます。」とあります。
沈んでいく卵はオスが口に含み、泡巣へ運んでいきます。
泡巣とは、つまりオスが口から出した泡を水面に集めて作る、卵と稚魚のための巣のことです。
孵化までの日数について、GEXは「産卵後、2-3日もすると稚魚が孵化します。」と案内しています。
このページには、そのときの水温は書かれていません。
泳ぎ出しについては、「孵化後3-4日もすると、稚魚が水平に泳ぎだします。」と説明されています(出典:GEX【ベタ産卵・繁殖】④稚魚が泳ぎだす)。
一方、研究室の飼育法の総説では、28℃の条件で『受精後29〜44時間で孵化が始まり、受精後72時間までに泳ぎ始める』とされています。
発生を観察した研究では、研究の要旨によると、平均28.4℃で『採卵を始めてから29時間で大半が孵化していた』と報告されています。
研究室の飼育法の総説は、オスが子を守る習性を紹介する部分で、『卵と孵化したての稚魚は最長3日ほど泡巣にとどまる』とも書いています。
GEXの二つの数字を足し合わせると、産卵から泳ぎ出しまではおよそ5〜7日の計算になり、研究室の記録よりも長く見えます。
観察の基準が『水平に泳ぎだす』なのか『泳ぎ始める』なのか、そして水温が何度だったのかが出典ごとに違うので、どれか一つを正解にしないでください。
下の表に、出典ごとの日数と、数え方の起点、水温をまとめました。
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| 出典 | 孵化まで | 泳ぎ出し | 卵黄で過ごす期間 | 数え方の起点と水温 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| GEX(メーカーの繁殖の記録) | 産卵後2〜3日 | 孵化後3〜4日で水平に泳ぎだす | 孵化後3〜4日間 | 産卵から・孵化から/水温の記載なし | GEX |
| 研究室の飼育法の総説 | 受精後29〜44時間で孵化が始まる | 受精後72時間までに泳ぎ始める | 受精後120時間まで卵黄が残る | 受精から/28℃ | 研究論文(Lichak ほか) |
| 発生を観察した研究(要旨) | 採卵開始から29時間で大半が孵化 | 要旨に記載なし | 孵化後73時間で卵黄を吸収しきる | 採卵開始から・孵化から/平均28.4℃ | 研究論文(Valentin ほか) |
表の日数は目安の幅として持っておき、目の前の卵と稚魚の様子を毎日見ながら判断するのが安心です。
卵黄がなくなる前後が最初の山場になる
孵化したばかりの稚魚は、お腹に栄養の袋を抱えています。
この袋はヨークサックと呼ばれ、つまり卵の中から持ち越した卵黄のことです。
GEXは、「孵化後3-4日間、稚魚はヨークサックの栄養を吸収しながら過ごします。」と書いています。
研究室の飼育法の総説でも、『受精後120時間まで卵黄が残るので、皿の中にいる間はエサを与えない』と説明されています。
発生を観察した研究の要旨によると、『孵化後23時間で口が開き、73時間で卵黄を吸収しきった』とされています。
つまり、卵の時期と孵化した直後は、飼い主がエサを足す必要がない時期です。
エサが問題になるのは、泳ぎ出して卵黄がなくなる前後からです。
GEXも、「稚魚が孵化して数日するとエサを探し始めます。」と書いています。
ここが最初の山場で、エサを始める時期の差が、生き残りの差として記録された例があります。
研究室の飼育法の総説では、28℃でワムシを与えた条件で、『受精後5日目から与え始めると15日目の生残は約90%、6日目からだと約75%だった』と報告されています。
ワムシとは、つまり水の中にすむとても小さな動物プランクトンのことです。
この数字は研究室の水槽と水温、決まったエサの量で得られた記録で、家庭で同じ割合の稚魚が育つという目安ではありません。
それでも、開始が1日違うだけで記録が変わった点は、最初のエサの時期を意識しておく理由になります。
何を与えるかについては、メーカーの説明を押さえておきます。
キョーリンは、『孵化したばかりの稚魚は口がとても小さく、一般的な稚魚のエサやブラインシュリンプは食べられないので、いちばん小さいワムシを』与えるよう案内しています。
GEXも、「泳ぎだしたばかりの稚魚の口は小さく、すり潰した粉餌やブラインシュリンプなどもまだ食べることができません。」と説明しています。
GEXは、水草を入れた水槽に自然にわくインフゾリア、つまりごく小さな微生物を、初期のエサとして使う方法も紹介しています。
エサの種類やインフゾリアの用意、量と回数、人工飼料への切り替えについては、稚魚のエサをいつから何にするかを段階ごとにまとめた記事で詳しく紹介しています。
卵黄がなくなってから準備を始めるとエサの開始が遅れやすいので、最初のエサの段取りは、卵黄がなくなる前に済ませておくと落ち着いて見守れます。
この記事で取り上げたキョーリンの冷凍のワムシは、ビタクリンワムシという製品です。
使うときは製品の表示どおりに解凍し、一度解凍したものは再冷凍しないようにしてください。
ベタの卵のカビを防ぐ|死んだ卵から広がるしくみ
前の章で見たとおり、卵の時期に飼い主がエサを足す必要はありません。
そのぶん、この時期の分かれ目は、卵にカビを広げないことと、世話をしているオスに余計な刺激を与えないことになります。
この章ではカビを取り上げ、健康な卵とカビた卵の見え方、カビが広がるしくみ、薬を考えるときに確かめたい表示を順に見ていきます。
オスへの刺激については、次の章でくわしく扱います。
先にお断りしておくと、ベタの卵につく水カビ、つまり水の中で綿のような菌糸をのばす微生物を扱った一次情報は、調べた範囲では見つかりませんでした。
そこでこの記事では、観賞魚全般の魚病を解説している日本動物薬品の魚病図鑑と、ベタを飼育する研究室の手順をもとに説明します。
ほかの魚の卵の例も一つだけ添えますが、ベタにそのまま当てはめるものではない点にご注意ください。
薬のことを考える前に、まずはカビがどこから始まるのかを知っておきましょう。
健康な卵とカビた卵の見分け方|水カビは死んだ卵から広がる

発生を観察した研究の要旨によると、ベタの卵は『黄色みがあり透明で、水に沈む卵』とされています。
これに対して日本動物薬品の魚病図鑑は、カビた卵のようすを「卵が綿毛状に包まれ白くなります。」と説明しています。
この白い綿のように見えるものの正体が、水カビです。
魚病図鑑は、サプロレグニアやアクリア、アファノマイセスといった水カビ科の属の感染を原因に挙げています。
さらに魚病図鑑には、「飼育水中には水カビの種というべき遊走子(ゆうそうし)が常在しており」とあります。
遊走子とは、つまり水カビが増えるもとになるたねのようなもので、ふだんの飼育水の中にもいるものとして説明されています。
そのうえで魚病図鑑は、卵について「死卵によく発生し、放置すると生きた卵にまで水カビが寄生し、卵は死亡します。」と書いています。
水カビはまず死んだ卵に生え、そのままにしておくと周りの生きた卵にまで広がる、というしくみです。
研究室の飼育法の総説でも、『育たない卵を毎日スポイトで取り除く』とし、その理由を『病原体とアンモニアを増やさないため』と説明しています。
アンモニアとは、つまり生き物のふんや残ったエサなどが分解されてできる、魚の体に害のある物質のことです。
ただしこれは、交配が終わったら親を2匹とも出し、卵をガラス皿に移して管理する研究室の方法での手順です。
オスが守っている泡巣から、飼い主が卵を取り出す手順を示したものではありません。
ほかの魚の例として、長野県水産試験場はマス類の卵について、『壊れた卵を取り除く卵管理が基本』という考え方を示しています。
また、白く見える卵がすべて受精していない卵だと、色だけで決めつけることはできません。
色で受精の有無を見分ける基準は、調べた一次情報には見当たりませんでした。
家庭でできることは、水を汚すものを入れないことと、卵の様子を観察してメモしておくことです。
白い卵の数が日ごとに増えているか、周りの卵へ広がっているかを書き留めておくと、あとで原因を考える手がかりになります。
卵に魚病薬を使う前に|承認表示に書かれている範囲
卵にカビが見えると、薬で何とかしたいと考えるかもしれません。
その前に、観賞魚の薬には承認された表示があることを知っておいてください。
承認とは、つまり国の審査を受けて、表示された目的と使い方で販売することが認められていることです。
効能とは、つまりその薬を何のために使うかとして表示されている目的のことです。
動物用医薬品等データベースに載っているメチレンブルー水溶液の効能は、「観賞魚の白点病、尾ぐされ症状、水カビ病の治療」です。
使用上の注意には、「飼育水の中に直接投与し、病魚を薬浴させること。」と書かれています。
表示が想定しているのは病気の魚を薬に浸けることで、卵に使う量や期間はこの表示には書かれていません。
同じメチレンブルーという名前でも、キョーリンの観賞魚用メチレンブルー液は別の製品で、用法の書き方も違います。
薬は名前で判断せず、手元の製品の表示を一つずつ確かめる必要があります。
さらに表示には、「水草や藻は、本剤により枯れることがあるため、これらを魚と一緒に薬液に浸けないようにすること。」という注意もあります。
日本動物薬品のよくある質問でも、『メチレンブルー水溶液などは水草を枯らしてしまう』と案内されています。
GEXは産卵用の水槽に天然の水草や浮草を入れる方法を紹介しているため、卵のいる水槽に薬を入れると、その水草と両立しないおそれがあります。
海外の研究室が卵を育てる液の組成や、海外製品の使い方を見かけることもありますが、日本の表示とは前提が違うので、家庭に持ち込まないでください。
親のオスや育った魚の体に白い綿のようなものがついたときは、体表の白い綿やヒレの変化から病気を見分ける方法を確かめてください。
卵に薬を入れる前に、次の4つを確かめてください。
表示の効能は、病気の魚の治療です。
卵に使う量や期間は、表示に書かれていません。
水草や藻が枯れることがあると注意されています。
迷ったときは、使う前に製品の発売元へ問い合わせてください。
オスに任せる期間の見守り方|驚かせない・泡巣を崩さない
家庭でベタを繁殖させる場合、メーカーの案内では、卵と稚魚の世話をオスに任せる方法が基本になっています。
GEXもキョーリンも、メスは産卵のあとすぐに別の水槽へ移すよう案内しています。
キョーリンは、「オスはふ化までの間、何も食べずに泡巣を守り、卵の世話を続けるよ。」と説明しています(出典:キョーリン ベタの飼い方)。
一方、研究室の飼育法の総説では、交配が終わると親を2匹とも出し、卵をガラス皿に移して育てています。
二つのやり方は前提がまったく違うので、この記事では混ぜずに、家庭のやり方であるオスに任せる期間の見守り方を扱います。
なお、メーカー2社は、稚魚が泳ぎ始めたらオスも別の水槽へ移すよう案内しています。
その時期の詳しい判断や、繁殖水槽の作り方は、この記事では扱いません。
ここでは、オスを驚かせないことと、泡巣を崩さない環境を保つことの二つに絞ってお話しします。
オスを驚かせると卵や稚魚を食べることがある

オスの世話は、泡巣を守るだけではありません。
GEXの記録には、「巣から落ちた稚魚はオスが口に含んでまた巣に戻します。」とあります。
研究室の飼育法の総説も、ほかの研究を引いて、『落ちた卵の約90%をオスが口で拾う』と紹介しています。
こうした世話を続けてもらうためには、オスが落ち着いていられる環境が大切です。
GEXは、「この時期にオスをあまり脅かすと稚魚の世話を放棄したり、食べてしまうこともあるので注意が必要です。」と書いています。
この注意を具体的な行動に置き換えると、水槽を何度ものぞき込む、ガラスをたたく、ガラス越しに何度も顔を近づけるといった行動は控えたほうがよい、ということになります。
無事かどうか気になってつい見たくなりますが、観察は短い時間にとどめておきましょう。
また、水槽に手を入れて卵を取り出したり、泡巣をさわったりする方法は、この記事ではすすめていません。
研究室が卵を取り除くのは親を出したあとの方法で、オスが守っている泡巣へ手を入れる手順は、調べた一次情報には見当たらないからです。
人影だけで反応してしまうような神経質なオスの場合については、この記事の後半のよくある質問で取り上げます。
のぞくのは短くして、白い卵の数や、落ちた稚魚をオスが巣に戻しているかといった見たことだけをメモしておくと、あとで振り返りやすくなります。
ふたで湿度を保つと泡巣が崩れにくい
泡巣を保つために、研究室とメーカーはそれぞれ水槽の環境を工夫しています。
研究室の飼育法の総説では、『交配用の水槽すべてにふたをして湿度を90%に保ち(飼育室は約25%)、泡巣が崩れにくくなる』としています。
水面の上の空気を湿らせておくことが、泡でできた巣を保つ助けになるという考え方です。
GEXの産卵用の水槽の案内には、「フィルターは使いません。」と書かれています。
あわせて、「気温が低い時期にはヒーターで保温します。」とも案内されています。
フィルターを使わないのは、水の流れで泡巣を崩さないためと考えられます。
GEXは、『天然の水草や浮草を入れると、オスの巣づくりや稚魚が孵化したあとの管理がしやすくなる』とも紹介しています。
置き場所については、GEXの実例では水槽を窓側に置いていました。
一方でキョーリンは、「日光が当たると水温が上がりすぎたり、コケが発生するので、直射日光に当たらない場所に設置しよう。」と注意しています。
明るさがほしい場合でも、直射日光が当たる場所は避けておきましょう。
水温については、泳ぎ出したあとの章で、研究室の条件とあわせて紹介します。
泡巣そのものの意味や、泡巣を作らないときに確かめたい条件は、泡巣が何を示すのかと作らないときに見直す条件の解説にまとめています。
泡巣に卵がある間に整えておきたいことは、次の4つです。
水槽にふたをして、湿度を保ちます。
フィルターは使わず、水の流れを作らないようにします。
直射日光の当たらない場所に置きます。
人の出入りが少なく、オスが落ち着ける静かな場所を選びます。
泳ぎ出したベタの稚魚の管理|水の汚れと酸素
稚魚が泳ぎ出し、卵黄がなくなる前後になると、いよいよエサを入れ始める時期です。
エサを入れるということは、食べ残しや死骸など、水を汚すものが増えていく時期に入るということでもあります。
水の汚れで気をつけたいもののひとつが、カビの章でも触れたアンモニアです。
研究室の飼育法の総説は、『魚のふんや食べ残しが分解されてできるアンモニアは、0.25ppmを超えると健康に害がある』としています。
この数字は、水の汚れを数字で考えるときの手がかりのひとつになります。
同じ総説には、与えたエサの種類によって水の汚れ方と稚魚の生き残りが変わった例も報告されています。
この章では、水を汚すものがどこから来るのかと、稚魚が水面の空気に届くための水の深さの二つを扱います。
どちらも、毎日の観察で気づきやすいポイントです。
水を汚すのは死卵・死骸・食べ残し
稚魚の水を汚すものは、大きく分けて死んだ卵、死んだ稚魚、そしてエサの食べ残しです。
研究室の飼育法の総説には、与えたエサによって水の汚れ方が変わった記録があります。
研究室が試した記録では、『粉のエサは水を急に悪くした』とされています。
また、『受精後5日目からブラインシュリンプを与えたところ、淡水では1時間ほどしか生きられず、食べ残しの死骸がたまってアンモニアが上がった』とも書かれています。
その結果、水換えを増やす必要が出て、稚魚の生き残りも下がったと報告されています。
冷凍のワムシについて、キョーリンは「一度解凍されたワムシは再冷凍しないでください。」と案内しています。
その理由として、「ワムシの細胞が破れ水を汚す原因になります。」と説明されています。
GEXも、「食べ残しに注意しながらも、ベタの稚魚がおなかいっぱいになっているかを見ながら、エサを与えます。」と書いています。
食べ残しを減らすことと、稚魚にしっかり食べさせることの両方を見ていく、という考え方です。
取り除く道具について、研究室は死骸やごみをスポイトで取り除いています。
稚魚は網に張り付いてしまうため、別の水槽へ移すときもスポイトを使うとされています。
体長2cm未満の魚がいる水槽では、底のごみを水ごと吸い出すサイフォンの先にメッシュをつけて、魚を吸い込まないようにしているそうです。
なお、研究室では毎日ワムシを与えた条件で、受精後5〜14日の間は水換えをしなかったと記録されています。
これはエサの量や水温を管理した研究室での結果なので、家庭で水換えをしなくてよいという意味ではありません。
アンモニアの測り方や試験紙の読み方は、アンモニアとpHの数値を検査キットで読み取る手順を参考にしてください。
稚魚の水を汚さないために、毎日見ておきたいことは次の3つです。
沈んだ死骸や食べ残しは、スポイトで取り除きます。
エサは、冷凍ワムシの製品説明にある『数分で食べきる量』を目安にします。
底を吸うときは、サイフォンの先にメッシュをつけます。
浅い止水で水面の空気に届くようにする
泳ぎ出した稚魚の水では、汚れと並んで酸素にも気を配りたいところです。
研究室の飼育法の総説では、受精後5日目の稚魚を『水深約5cmの浅い止水に移し、水面に届きやすくする』としています。
止水とは流れのない水のことで、水面に届きやすくするのは、生き残りの低下につながる低酸素を防ぐためだと説明されています。
低酸素とは、つまり水の中の酸素が足りなくなった状態のことです。
低酸素と稚魚の生存を調べた研究では、研究の要旨によると、『酸素が十分な条件では稚魚の生残が65〜75%で、低酸素を続けた区は受精後9日で全滅した』と報告されています。
水深とエサを比べた研究の要旨では、『水深2.5cmと5.0cmで比べ、水深と給餌方法が成長に影響した』とされています。
どれも研究の条件での結果なので、この数字をそのまま家庭の目安にはしないでください。
家庭で取り入れたいのは、稚魚の水に強い流れを作らず、稚魚が水面へ行き来しやすい状態を保つという考え方です。
水温について、研究室の飼育法の総説は水槽の水を28℃に保って飼育しています。
同じ総説は、『33℃で育てると稚魚の死亡が増える』とも書いています。
高い水温で成長を早めようとするのではなく、水温を上げすぎないことに気を配ってください。
なお、キョーリンの「適水温25℃(20℃~29℃)」は成魚の飼育情報で、稚魚についての数字ではないので分けて考えてください。
ヒーターで水温を安定させる方法や季節ごとの対策は、夏と冬の温度対策と水温の振れ幅を小さく保つ方法で解説しています。
ベタの繁殖の失敗を時期から見分ける|生存率の数字の読み方
卵や稚魚がうまく育たなかったとき、原因として考えられることは、起きた時期によって変わります。
卵の時期ならカビやオスへの刺激、泳ぎ出したあとならエサを始める時期や水の汚れ、酸素といったように、疑うところが違います。
そこでこの章では、何がいつ起きたかから逆算して、まず見直したいところを表にまとめます。
あわせて、研究で報告されている生存率の数字の読み方も整理します。
先にお伝えしておくと、研究の生存率はどれも、研究室の設備、水温、与えたエサ、観察した期間といった条件のついた記録です。
家庭で何割の稚魚が育つかを示す目安ではないので、数字だけを比べて落ち込んだり安心したりしないでください。
起きたことを時期と一緒に記録しておけば、次に繁殖を考えるときに見直す場所がはっきりします。
章の最後には、よくある質問への答えもまとめました。
時期ごとの失敗のサインと、研究で報告された生存率の条件

下の表は、時期ごとに起きたことと、まず疑うところを、一次情報をもとに整理したものです。
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| 時期 | 起きたこと | まず疑うところ | 出典 |
|---|---|---|---|
| 卵の時期 | 卵が白く綿のようになる | 水カビ(死んだ卵から生きた卵へ広がる) | 日本動物薬品 |
| 泡巣の時期 | 卵や稚魚が減った・消えた | オスへの刺激(驚いたオスが食べてしまうことがある) | GEX |
| 泳ぎ出し直後 | 泳ぎ出したあとに数が減る | エサを始める時期の遅れ・低酸素 | 研究論文(Lichak ほか)・研究論文(Mendez-Sanchez・Burggren) |
| エサを始めた後 | エサを始めたあとに急に死ぬ | 死骸と食べ残しから増えるアンモニア | 研究論文(Lichak ほか) |
表の原因は、一次情報が関わりを示しているものを並べたもので、答えが一つだけとは限りません。
いくつかの原因が重なっていることもあるので、表は見直す順番の目安として使ってください。
次に、研究で報告された生存率の数字を、条件と一緒に読んでいきます。
日程の章で紹介した約90%と約75%は、研究室で28℃に保ち、ワムシを与えた条件での記録です。
低酸素の研究の65〜75%も、酸素の量を管理した研究の条件での数字です。
ほかにも、エサの切り替えを調べた研究の要旨によると、『最初から人工飼料だけを与えた区は、生残と成長がほかより低かった』と報告されています。
親に与えるエサを調べた研究の要旨では、『親に与える生き餌を半分まで配合飼料に置き換えても、繁殖成績と稚魚の生残に悪影響はなかった』とされています。
水の硬さを調べた研究の要旨では、硬度を900ppmまで高くした条件で孵化が少なく泡巣も乱れたとされていますが、極端な条件での結果で家庭の目安ではありません。
家庭向けの案内では、GEXがグリーンウォーター、つまり緑色に色づいた水の中で稚魚を育てる方法を紹介しています。
この方法についてGEXは、「当然、成魚にまで育つ生体の数は減ってしまいますが」と書き、世話をする時間に限りがある人向けの方法としています。
数を多く残したいのか、世話ができる範囲で育てたいのかによって、選ぶ方法が変わるということです。
研究の数字は自分の飼育を振り返る物差しとして使い、家庭で何割育つかの約束としては読まないようにしましょう。
ベタの卵と稚魚の管理でよくある質問(FAQ)
白くなった卵は取り除くべき?
研究室の飼育法の総説では、育たない卵を毎日スポイトで取り除いています。
ただしそれは、親を2匹とも出して卵をガラス皿で管理する方法での手順です。
オスが守っている泡巣へ手を入れて卵を取り除く手順は、調べた一次情報には見当たりませんでした。
GEXは、オスを脅かすと稚魚の世話を放棄したり食べてしまったりすることがあると注意しています。
そのためこの記事では取り除き方は示さず、白い卵の数と広がり方を観察して記録しておくことをおすすめします。
卵にメチレンブルーを入れてもいい?
メチレンブルー水溶液の承認表示の効能は、観賞魚の白点病、尾ぐされ症状、水カビ病の治療です。
用法は病気の魚を薬浴させるもので、卵に使う量や期間は表示に書かれていません。
水草や藻が枯れることがあるという注意もあります。
使うかどうか迷ったときは、製品の表示を確かめたうえで、発売元に問い合わせてください。
生まれてすぐブラインシュリンプは食べられる?
キョーリンとGEXは、孵化したばかりや泳ぎだしたばかりの稚魚はブラインシュリンプを食べられないと説明しています。
キョーリンの冷凍ワムシの製品説明でも、ワムシを『ブラインシュリンプ幼生が食べられないような口の小さな稚魚に向く』エサとして紹介しています。
研究室の飼育法の総説でも最初のエサはワムシで、ブラインシュリンプは稚魚が育ってから与えています。
エサの種類や切り替えの時期は、卵黄がなくなる前後を扱った項目で紹介した、稚魚のエサの記事を参考にしてください。
オスが卵を食べてしまうときは?
GEXは、「神経質なオスの中には、人影を見るだけで卵や稚魚を食べてしまうものもいますので、その場合は親に世話をさせることをあきらめなければなりません。」と書いています。
まずは、のぞき込む回数を減らせているか、人の出入りが少ない場所に置けているかを見直してください。
研究には親から卵を離して管理する方法もありますが、設備を整えた研究室での方法なので、この記事では家庭の手順としては扱いません。
稚魚の水換えはいつから、どれくらい?
家庭の稚魚水槽について、水換えの量や頻度を数字で示した一次情報は見つかりませんでした。
研究室の総説には、毎日ワムシを与えた条件で受精後5〜14日は水換えをしなかったという記録がありますが、研究室の条件での結果です。
まずは、沈んだ死骸と食べ残しをスポイトで先に取り除くことを優先してください。
水の汚れが気になるときは、アンモニアを測って確かめると判断しやすくなります。
まとめ|ベタの卵はカビと静けさ、泳ぎ出した稚魚は水の汚れと最初のエサの時期で守る
ベタの卵と稚魚の管理は、卵の時期と、泳ぎ出したあとの時期で気をつけることが変わります。
卵の時期はエサが要らないぶん、カビを広げないことと、オスを驚かせずに世話を続けてもらうことが中心になります。
泳ぎ出して卵黄がなくなる前後からは、エサを入れ始めることで水を汚すものが増えるため、水の汚れと酸素、最初のエサの時期に目を向けます。
研究室のやり方とメーカーのやり方は前提が違うので、この記事ではその二つを分けて紹介してきました。
日数や生存率の数字を読むときは、どの出典の、どんな条件での記録なのかを一緒に確かめるようにしましょう。
うまくいかなかったときは、起きた時期から原因を逆算すると、見直す場所を絞りやすくなります。
最後に、この記事の要点を振り返ります。
- 卵の時期はエサが要らず、稚魚は卵黄で育つ
- 卵のカビは死んだ卵に生え、生きた卵へ広がる
- オスを驚かせず、ふたで湿度を保ち、水温を上げすぎない
- 泳ぎ出したあとは死骸と食べ残しを取り除き、浅い止水で水面に届くようにする
- 最初のエサは、始める時期と大きさを意識する
- 日数と生存率は、出典と条件つきで読む
薬を使うときは製品の表示どおりに使い、迷ったときは発売元に問い合わせてください。
繁殖を始める前には、生まれた稚魚を育てきるための容器と時間を用意できるかを、ご自身で判断しておいてください。
卵と稚魚の時期は短いですが、毎日の小さな観察の積み重ねが、失敗を減らす手がかりになります。
あなたのベタの卵と稚魚が、落ち着いた環境で育っていくことを願っています。


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